ジャミール・ファミリーの投資機関、JIMCOJameel Investment Management Co./ジャミール・インベストメント・マネージメント)からの再掲

都市に人口が集中するにつれ、路上を走る自動車、バン、バイクの数が増加し、渋滞、騒音、公害、安全上の問題などをもたらしています。電動エアモビリティは、こうした従来の交通手段よりもクリーンかつ静音で、スムーズな移動を実現する持続可能なアーバンモビリティのモデルケースになり得るのでしょうか?

人類史上初めて、都市部の人口が地方の人口を上回りました。今後30年で、世界人口の増加は、都市部や町に概ね集中することが予測されています。国連は世界の都市人口が現在の約44億人から2050年には約67億人まで増加すると推定しています[1]

また、中国やインドなどの高成長市場を中心に自家用車の所有率が高まっており、電車、路面電車、バスなどの公共交通インフラへの投資も増加傾向にあることから、都市部はこれまで以上に渋滞や混雑が悪化することが予想されます。電動自動車/バス/路面電車などのグリーンモビリティ・ソリューションは二酸化炭素排出量を抑制できても、渋滞や騒音の点では従来の車両と大差はありません。

ほぼ無音な電動垂直離着陸機(eVTOL)で乗客や貨物を輸送できるようになれば、都市部は緑豊かで安全な落ち着きのある環境を取り戻すことができるでしょう。

主な人口集中地区から最大50マイル(約80.5km)圏内の郊外エリアなら、都市部への道路状況に関わらず便利に住めるようになるかもしれません。必要に迫られて住むエリアを決めるのではなく、好きな場所に自由に住めるようになります。孤立した地域へのアクセスが向上し、医療物資や食料の供給が容易になるという利点もあります。

地上交通が中心の現在では、こうした代替ソリューションをサイエンス・ファンタジーや夢物語だと一笑に付してしまいがちです。しかし、よく見てみると、すでに多くの電動航空機が現実に利用されています。開発中のものもあり、経済的に実用可能なモデルも手の届く範囲にあります。Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)[2]は、2050年までにeVTOL輸送市場が地上交通を抜いて9兆米ドル規模に達すると予測しており、エアモビリティが主流になることは単に時間の問題だと確信を持って述べています。

空の移動

ブラジル、サンパウロのヘリコプター輸送。2013年の調査によると、渋滞の激しい大都市サンパウロでは、400機以上のヘリコプター(州内は700機以上)が旅客機として登録されており、航行数は1日あたり700回以上でニューヨークや東京を上回る。首都圏内の人口は1,200万人で、17,000人につきヘリコプター1台の割合は世界一。 写真提供 © アシュリー・ハーパー

人口密度の高い国際都市では、空飛ぶタクシーが何百人もの通勤に日常的に使用されています[3]。ブラジルの地方からサンパウロ市内への通勤をはじめ、香港とマカオ間や、ドバイの人工島から摩天楼への通勤など、富裕層は数千ドルを払って地上の渋滞を避け、「空の通勤」を楽しんでいるのです。

技術の進歩に伴い、現在ではそれより遥かに低価格で利用できる、一般大衆向けのeVTOL航空機の開発も進んでいます。

空の通勤と聞くと、大抵の人はまだ躊躇してしまうかもしれません。しかし、McKinsey & Company(マッキンゼー・アンド・カンパニー、以下「McKinsey」)[4]は、交通渋滞が深刻化するにつれて、そうした抵抗感はなくなっていくだろうと指摘しています。交通渋滞にかけて世界で一、二を争うインドでは、エアモビリティに概ね好意的で、31%〜47%のアンケート回答者が、場合によっては通勤、出張、空港への移動などの用途にエアモビリティを試してみたいと述べています。

ジャミール・ファミリーの投資管理機関であるThe Jameel Investment Management Company(ジャミール・インベストメント・マネージメント・カンパニー/JIMCO)は、この旬の分野を牽引している主要投資家の1社です。同社は、Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)の長年の提携企業であるトヨタ自動車、Intel Capital(インテルキャピタル)、JetBlue Technology Ventures(ジェットブルー・テクノロジー・ベンチャーズ)と並んで、米国カリフォルニア州に本拠を置き、自家用eVTOLの開発に取り組む最先端企業のJoby Aviation(ジョビー・アビエーション、以下「Joby」)に初期から投資を行っています。Jobyには、Uber(ウーバー)や、Tesla(テスラ)とSpaceX(スペースX)の強力な後ろ盾であるCapricorn Investment Group(カプリコーン・インベストメント・グループ)などの企業も投資しています。

Jobyへの投資は、モビリティの未来に対して戦略的な投資を行うというJIMCO Technology Fund(ジムコ・テクノロジー・ファンド)のアプローチに即するものです。ジャミール・ファミリーは、投資家として確固たる実績があります。モビリティ業界の進化を担う革新的なスタートアップ企業を支援し、長年にわたり培ったローカルな専門知識とグローバルな提携ネットワークへのアクセスを提供しながら付加価値を創出しています。

JobyのeVTOLはパイロットを含め定員5名で、100マイル(約160km)以上を時速200マイル(約320km)以上の速度で飛行する高速ライドシェアサービス(タクシー)を念頭に設計されています。Jobyは、米空軍から耐空証明を取得した初の企業で、飛行試験を実施できる点で他社を一歩抜きました。2021年にNASAと共同で飛行試験を完了しています。

このように高度なバッテリー駆動式の交通機関の開発に取り組んでいるのはJobyだけではありません。大手航空機メーカーEmbraer(エンブラエル)の子会社であるEve(イブ)をはじめ、ドイツに本拠を置くVolocopter(ボロコプター)や、フランスのコンソーシアムAirbus(エアバス)のCityAirbus NextGen(シティエアバス・ネクストジェン)プログラム、イスラエルのスタートアップ企業Urban Aeronautics(アーバン・エアロノーティクス)など、数十社が競合しています。こうした企業が、未来に向けて交通変革を推進しているのです。

物資の輸送

新たなエアモビリティ・ソリューションによる変革が及ぶのは、交通機関だけではありません。道路は、物資を輸送するバンやスクーターであふれています。エアモビリティを活用して道路の渋滞を緩和すると同時に、次世代空モビリティ(AAM)の有用性を実証することは可能なのでしょうか?

現在、AAMおよびeVTOL機の開発に取り組んでいるスタートアップ企業や大手航空会社のほとんどは、人間の移動を念頭に置いて開発を進めています。しかし、商品や軽貨物、日用品などの配送も、自律型ドローンの応用分野として大きな可能性を秘めています。

2014年創業のStarshipが開発した車輪付き自律走行型配送ロボットは、米国の多くの大学キャンパスをはじめ、英国のミルトン・ケインズやノーサンプトンで活躍していますが、航空輸送の場合はより高度なエンジニアリングと厳格な安全基準が要求されます。

2016年に発表されたAmazon(アマゾン)のプライムエア(ドローン宅配)サービス[5]は、英国のケンブリッジで小規模な実験が行われた程度で、未だに実用化には至っていません。しかし、アイルランドのダブリンから北に数マイルの場所にある小さなバルブリガンの町では、従来の原付バイクでの配送に代わり、コーヒー、ペストリー、野菜、テイクアウトなどのドローン宅配サービスが普及しています。バイクのエンジン音のような騒音がなく、静音なドローンが好評を博しています。

アイルランド企業のManna(マンナ)は、長年にわたりバルブリガンとその南に位置するゴールウェイでドローン宅配サービスを展開しており、航空ライセンスの取得を受けてヨーロッパへの進出を計画中です。配送時間は3分以内で、1時間あたり10件の配送に対応できます。これに対し、従来のスクーターでの配送は1時間あたり2〜3件程度が限界です。

同じくサンフランシスコに本拠を置くZipline(ジップライン)も、ヘリコプターの代わりにジップ(zip)と呼ばれる小型の自律型ドローンによる配送サービスを提供しており、ルワンダの郊外エリアにある350か所の医療センターに血液や医療物資を輸送しています[6]。こうした地域は、年間を通じて車でのアクセスが困難なことがほとんどです。

ルワンダでは、首都キガリ以外への血液輸送の75%にZiplineの自律型ドローンが利用されています。そのおかげで、陸路ではアクセスできなかったり、数日かかっていた輸送時間がわずか30分に短縮されました。同社は米国のWalmart(ウォルマート)と契約を締結し、サービス範囲をアフリカ全土に広げています。

蓄電池技術のブレークスルー

配送用ドローンの飛行距離や積載荷重は、未だに蓄電池技術の制約を受けています。ほとんどのモデルは2kgまでしか対応できません。イタリアのFlying Basket(フライング・バスケット)は、10km圏内で100kgの荷物を配送する実験を行っています。ただし、現在陸上で配送されている荷物やテイクアウトの大半も2kg以内です。

Teslaのイーロン・マスクCEOは、eVTOLが経済的に実用可能になるためには、バッテリーの重量エネルギー密度が400Wh/kgを超える必要があるとの見解を示しています[7]。現行のTesla Model 3のバッテリーは、260Wh/kgを達成しています[8]。日本の国立研究開発法人物質・材料研究機構は、500Wh/kg級のリチウム空気電池を開発し[9]、充電能力や信頼性の向上に取り組んでいます。

配送用の大型バンに中小サイズの配送用ドローンを搭載すれば、現在のようにバンだけで配送先を回るよりも、遥かに効率良く大量の荷物を配送できる可能性があります。バンの大容量バッテリーを活用してドローンのフラッシュ充電を行えば、わざわざ充電スタンドまで戻らなくても、飛行距離を伸ばすことが可能です。ドローンによる重量貨物の輸送が実現するのは何十年も先かもしれませんが、ラストワンマイル物流は巨大な潜在市場であり、短距離でのドローン活用が広く受け入れられるきっかけとなる可能性もあります。

消費者もこうした変化を概ね歓迎しています。ドローン配送に関する懸念事項についてのアンケート調査では、上位3つの優先事項に手渡しでの配送を挙げた人は12%未満だったのに対し、中国では74%がドローン宅配で配送時間を大幅に短縮できるのであれば追加料金を払うと回答しています[10]

インフラ上の課題

電動自動車と同様に、次世代空モビリティも現行の電気インフラが技術の進歩に追いついていないという課題があります。しかし、それは、乗り越えられない壁ではありません。次世代空モビリティによる大量輸送を実現するためには、一定区間内にできるだけ多くの着陸場を設置する必要があります。

McKinseyでは、以下の3タイプの着陸場を提唱しています。

  1. バーティハブ(バーティポート):多数の着陸用パッドが設置された垂直離着陸機専用のハブ。商業施設の展開の可能性もある。
  2. バーティベース:新しい建物、または広々とした屋上や駐車場などを活用した着陸場。着陸用パッド3つと収納スペースを備えるだけの広さが条件。
  3. バーティポッド:着陸用パッドがひとつのみの着陸場。私有地の個人用施設をはじめ、小規模な郊外や奥地での活用が考えられる。

各ベースには、eVTOL専用の充電施設が必要です。航空交通は陸上交通よりも多くの電力を消費しますが、現在のところ大型トラックやバス向けに「フラッシュ充電」と呼ばれる超高速充電施設の開発が進んでおり、これをドローンにも応用できます。既存の郊外の電力網では、主電源に直接接続した時のような1MWや2MWレベルの充電には対応できませんが、各着陸ハブに分散型蓄電システムを設置して電線経由で充電し、充電が完了した後にeVTOLの電池に急速放電することは可能です。これなら、電力網を刷新する費用を最小限に抑え、電力網に頼ることなく着陸用ポッドを設置することができ、都市圏外にまで飛行範囲を広げることができます。

McKinseyは、主要交通機関と郊外の住宅地に85〜100の着陸用パッドを分散配置した都市の場合、1日に約2,200回の移動があれば、1人当たりの料金をリムジンとほぼ同じ50〜75米ドルまで低価格化できると推測しています。これは、各着陸用パッドにつき1時間に1回の移動に相当します。

現在のタクシーなどの交通機関に近い低価格化を実現するには、1日あたり約1万回、ピーク時には各パッドにつき5分に1回の割合での移動が必要になります。ただし、航空安全対策を考えると、これはかなり困難といえるでしょう。また、McKinseyは、次世代空モビリティソリューションの普及化に欠かせない他の要因についても言及しており、空飛ぶクルマをすぐに充電できる体制(フラッシュ充電など)の整備に加え、「バーティハブ」の商業開発などによりオペレーターの副次的な収入源を確保すること、公共部門の補助金、着陸用パッドの建設コストを下げるモジュール式のインフラソリューション、革新的な電力ソリューションなどを挙げています。

Gridserve(グリッドサーブ)社が開発した[11]英国エセックス州の電気自動車用の急速充電施設「Electric Forecourt(エレクトリックフォーコート)」のように、専用のソーラーパネルをプライベートネットワーク経由でeVTOLハブに接続すれば、電力網や炭素集約型のガス/石油発電所への負荷を軽減でき、カーボンニュートラルな次世代空モビリティの実現が現実味を帯びてくるだけでなく、低価格化の可能性にもつながります。

パイロットライセンス

現在開発中の旅客輸送用eVTOLの機種はすべて、パイロットによる操縦が必要です[12]。自律飛行型の旅客機の飛行は、どの国の航空交通規則でも認められておらず、電動航空機は多くの人にとって未知の技術であることを考えると、そうしたサービスへの需要も少ないでしょう。

つまり、近い将来、ヘリコプターパイロットに大量の雇用機会が訪れるということです。従来のヘリコプターに比べ、eVTOLの操縦は比較的簡単であることから、パイロットを育成しやすいという大きなメリットがあります。また、eVTOLはその技術上、短距離の運航がメインです。そのため、定時で退社し、家族との時間をゆっくりと楽しみやすいことや、コスト削減/機会創出のメリットもあります。

しかし、混雑の激しい都市圏でアマチュアパイロットが自家用機を操縦することは危険が伴うことから、ほとんどのアナリストは、自家用ライセンスの普及には前向きではありません。むしろ、完全自動化された安全システムやナビゲーションシステムの導入化を進めた方が、パイロットが不要になる分コストを下げることができ、現在の道路交通の安全レベルより安全性も高まるでしょう[13]。現在、米国のFAA(連邦航空局)とNASAの間で高度400フィート以下の空域を対象とする無人航空機管制(UTM)システム[14]を開発中です。

空飛ぶクルマの実現に向けて

着陸場(バーティハブ、バーティベース、バーティポッド)、UTM、MannaやZipwireなどの軽貨物のラストワンマイル配送、Jobyをはじめとする効率的な短距離運航用のeVTOL旅客機などの開発が進み、エアモビリティ技術は開花の時を迎えています。低価格化への見通しも明るくなっていることから、優れた計画、起業家の熱意、厳格なコスト管理、規制当局の協力が揃えば、空飛ぶクルマが電動自動車やeスクーターと同様に普及する日も近いかもしれません。従来の地上交通に代わる空の移動が一般化するにつれ、道路が静かで快適になり、歩行者に優しい環境が生まれ、安全性への懸念の声も収まっていくでしょう。

また、JIMCOなどの先見の明のある投資家のリソースやコミットメントを通じてバッテリーの電力密度や再生可能エネルギー源といった技術上の課題が段々と克服されれば、重量貨物やコンテナ貨物の航空輸送も可能になり、空の移動革命が完成するでしょう。

今後30年で、道路は清潔になり、穏やかで静かな雰囲気が漂っているかもしれません。また、居住地に関わらず、通勤が大幅に短縮されることも考えられます。その日の到来が待ちきれませんね!

 

[1] https://www.un.org/development/desa/en/news/social/urbanization-expanding-opportunities-but-deeper-divides.html

[2] https://assets.verticalmag.com/wp-content/uploads/2021/05/Morgan-Stanley-URBAN_20210506_0000.pdf

[3] https://www.mckinsey.com/industries/travel-logistics-and-infrastructure/our-insights/taxiing-for-takeoff-the-flying-cab-in-your-future

[4] https://www.mckinsey.com/industries/aerospace-and-defense/our-insights/up-in-the-air-how-do-consumers-view-advanced-air-mobility

[5] https://www.amazon.com/Amazon-Prime-Air/b?ie=UTF8&node=8037720011

[6] https://flyzipline.com/global-healthcare

[7] https://electrek.co/2020/08/25/tesla-elon-musk-batteries-enabling-electric-aircraft-coming/

[8] https://www.forbes.com/sites/jamesmorris/2021/09/04/this-company-has-the-battery-technology-to-beat-tesla/?sh=2582807e48f3

[9] https://www.sciencedaily.com/releases/2022/01/220120140724.htm

[10] https://www.mckinsey.com/industries/aerospace-and-defense/our-insights/up-in-the-air-how-do-consumers-view-advanced-air-mobility

[11] https://www.gridserve.com/braintree-overview/

[12] https://www.mckinsey.com/industries/travel-logistics-and-infrastructure/our-insights/commercial-drones-are-here-the-future-of-unmanned-aerial-systems

[13] https://www.mckinsey.com/industries/travel-logistics-and-infrastructure/our-insights/taxiing-for-takeoff-the-flying-cab-in-your-future

[14] https://www.faa.gov/uas/research_development/traffic_management/media/FAA_NASA_UAS_Traffic_Management_Research_Plan.pdf