Abdul Latif Jameel Hospital: 患者ケアとイノベーションの30年を祝して

グローバルな医療環境が進化し、人口増加と寿命の伸長による新たな課題が年々顕在化する中で、サウジアラビアのAbdul Latif Jameel Hospital(アブドゥル・ラティフ・ジャミール病院)は、医療の持続可能な卓越性を体現する存在となっています。
同院は30年間にわたり、生活習慣病の発生率の抑制から、この地域で以前は手の届かなかった先進医療の先駆的導入まで、サウジアラビアの最も差し迫った医療ニーズに率先して対応してきました。
創設者である故シェイク・アブドゥル・ラティフ・ジャミールの名を冠したこの病院は、最先端技術の活用や継続的な医療教育、そして患者中心のケアへのコミットメントを通じて、この国の数えきれない人々の人生を変えるリハビリ医療インフラの要として機能してきました。
1994年12月の開業以来、この病院には12万5,000人以上の人々が訪れ、その多くが最新の技術とパーソナライズ医療により心身の健康を取り戻しています。
その間に、同院はサウジアラビア全域に医療リハビリテーションサービスを提供する主要な医療機関へと成長を遂げました。分野を超えた専門家のチームは、身体の不自由な人々がどんな困難に直面しようとも、それぞれの家庭やコミュニティに復帰できるよう献身的に支援しています。
Abdul Latif Jameel Hospitalは、故シェイク・アブドゥル・ラティフ・ジャミール(1909〜1993年)によって設立されました。同氏の名を冠した、多岐にわたる国際事業ネットワーク、Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)は、2025年に設立80周年を迎えます。人生をビジネス界のリーダーシップと社会貢献活動に捧げたシェイク・ジャミールは、重度の脳卒中を煩い、身体の大部分の自由を奪われました。自宅近くで受診可能な良質の治療サービスを見つけられなかった彼は、世界最高のリハビリテーション支援を受けるために英国やドイツ、スイスへと赴きました。しかし、病気や怪我に苦しむ誰もが自分のように幸運な立場にはないことを、彼はよく知っていました。その状況を彼は是正したのです。
今日のAbdul Latif Jameel Hospitalは、彼の取り組みの究極の成果と言えるでしょう。最新の医療ハブとして、また総合病院として、脊椎損傷、脳梗塞、対まひやその他の消耗性疾患に関する身体的・心理的リハビリテーションを提供しています。
同院は、ジャミール・ファミリーが長年をかけて確立してきたサウジアラビア国内での社会貢献活動であるCommunity Jameel Saudi Arabia(コミュニティ・ジャミール・サウジアラビア)の一部として、現場主義を通じてより健康的で安全な、設備の充実した生産的な社会運営のために尽力しています。
個人的な体験から導かれたヘルスケア革命
最初のアイデアから今日の最新技術を駆使した医療設備が実現するまでの道のりは、速やかで示唆に富むものでした。それは1990年頃、欧州からの帰路でシェイク・ジャミールが抱いた一つの願いから始まりました。彼は、自分や同様の状況にある人々が心身の健やかさを取り戻すために、健康的な活動を行える空間を地域社会に見つけたいと考えたのです。既存の施設にはふさわしい場所がないことを知り、彼は自身のビジネスキャリアを確立させる原動力となったエネルギーとモチベーションを再び燃え立たせました。
そして、この重要な療養施設が、シェイク・アブドゥル・ラティフ・ジャミールとその近親者にのみ提供されるのではないということが大切でした。彼は、アクセシビリティを優先した、良質なリハビリテーション施設を思い描いていました。すなわち、利益重視の病院ではなく、すべての市民が収入にかかわらず確実に利用できる病院です[1]。
自身がつましい家庭の出身だったシェイク・アブドゥル・ラティフ・ジャミールは、労働者階級の窮状に深い共感を抱いていました。「人は誰しもが自分の国に対する責務を担い、同胞たちを助けることを第一の目的とすべきです」と、彼は1981年のインタビューで話しています。
この言葉に、彼の先進的な世界観が垣間見えます。つまり、人生の目的は個人的な達成を上回り、多くの人々のニーズに対応するためのより大きな責任感を担い、皆の繁栄を目指すことだと。
その目標を見据えた彼は、1992年、個人的に医療およびケアチームの募集を開始し、高齢者のための住まいとなる施設を構想しました。彼がもともと計画していた建物には、患者さんの心身を癒すための緑あふれる自然のエリアが含まれていました。

1993年、その夢を叶える前に彼はこの世を去りましたが、現在もAbdul Latif Jameelの事業と社会貢献活動、そして病院運営に携わるシェイクの家族は、彼の遺志を実現しようと決意していました。彼らは「高齢者のための住まい」というプロジェクトを完成させただけでなく、同施設をサウジアラビア初となる民間で最先端のリハビリテーション病院へと拡大しました。
Abdul Latif Jameel Hospitalは、1997年、マジッド・ビン・アブドゥルアジーズ王子のスチュワードシップのもと正式に開業し、運営が開始されたのです。こうして同院の歴史の幕開けとなりました。入院患者のニーズが増加するにつれ、病院は組織を拡大して診療所をひとつずつ整備し、増え続ける患者リストに対応してきました。

その後の10年間で、Abdul Latif Jameel Hospitalは有名なヘルスケアのセンター・オブ・エクセレンスへと発展しました。あらゆる出自の人々が必要な治療を受けられ、治癒への道のりを早め、最大限に健やかな生活を送れるように支援しています。
現在、病院の4万3,000平方メートルの敷地には、8棟の病棟と合計100床以上の病床、さらに外来診察のための設備が整備されています。設立以来、120万回以上の治療セッションと数百万時間の看護時間を提供し、最も必要な人々に何千もの義肢を用意してきました。
同院は、Saudi Central Board for Accreditation of Healthcare Institutions(CBAHI/サウジ病院機能評価中央委員会)、CARF International、Joint Commission International(JCI)から認可を受けています。サウジアラビアの「ビジョン2030」戦略における医療セクター変革プログラムと、国連の持続可能な開発目標(SDG3)のいずれにも適合し、あらゆる年齢の人々の健全な生活の保障とウェルビーイングの増進を目指しています。
Abdul Latif Jameel Hospital全体で、ハイレベルなケアと次世代の技術に支えられた設立者の理念が実現しています。

患者中心のケアと最先端技術
現在、Abdul Latif Jameel Hospitalでは多様な病状に応じた一連の高度なサービスが提供されています。小児科、精神科、歯科、皮膚科、整形外科、眼科、心臓科、耳鼻咽喉科、さらには美容医療や泌尿器科、血管科もあります。
リハビリテーションサービスは、提供される治療の中心的な存在として、脊椎損傷や多発性硬化症、脳梗塞などの重度疾患から、脳性まひなどの遺伝的疾患まで、さまざまな症状に対応しています。
専門的な理学療法は、外傷から回復する患者が身体動作を取り戻し、自立する上で非常に重要です。個々人に合わせた意欲的な治療プログラムには、減圧療法、神経刺激、水治療法、ドライニードル、リンパドレナージなどが含まれ、いずれも運動能力と微細運動機能の改善を目的に考案されています。発話と言語療法は、患者さんが再びコミュニケーション能力を取り戻すのに有効です。
さらに同院は、高度なリハビリテーションを追求する過程で、画期的な新技術を積極的に活用していることでも特に知られています。
Abdul Latif Jameel Hospitalは、装着者の身体機能の改善を支援するために設計された最先端の装着型サイボーグ、Hybrid Assistive Limb®(HAL)の技術をサウジアラビアで初めて導入しました。HALシステムにより、患者は通常の運動療法時よりも多くの動力エネルギーを発揮でき、脳神経の発達が加速します。
これは、日本企業のCyberdyne(サイバーダイン)によって開発された、未来型テクノロジーです。同システムの導入を開始したサウジアラビアは、この技術を脊椎損傷の後遺症患者に提供した5番目の国となりました。

写真提供 © Abdul Latif Jameel Hospital.
現在、同院はGCC諸国全体におけるCyberdyneテクノロジーのトレーニングハブとして、医師や療法士、技術士に別施設で研修を行い、この装置の効果的な実施方法を指導しています。
人間の身体は複雑な有機体です。このため、同院の取り組みは、人々が再び歩けるようになるための支援の枠に収まりません。一連の追加的治療は、医療領域全般にわたる支援を提供しています。
- 呼吸障害治療の分野では、臨床医が投薬、酸素吸入、人工呼吸器により、喘息、がん、嚢胞性線維症などの呼吸器関連疾患を治療しています。
- 作業療法士は、身体的、感覚的、認知的な問題を抱える患者が着替えや入浴、車椅子の使用や運転の再開など、日常的なスキルの訓練を通じて再び自立できるように支援しています。
- 臨床心理士と行動療法士は、自閉症やその他見逃されがちな心的症状のある患者に寄り添い、メンタルヘルスの改善を促します。
- ウェルビーイングの包括的な視点に立って、Abdul Latif Jameel Hospitalは患者のより健全な食習慣の習得を助けます。食生活のサポートチームは、患者が各自の健康上の目標を満たしつつ、日常的な運動の重要性を意識しながら、栄養バランスの取れたサステナブルな食習慣を身につけられるよう支援します。
パーソナライズケアとイノベーションへのコミットメントを通じて、同院は患者を中心に据えた医療のグローバルスタンダードの向上に貢献しています。
今も、これからも「他人に仕える」
これまでの30年間の道のりを通じて、Abdul Latif Jameel Hospitalの中核となるミッションは変わっていません。それは、障害や疾病を持った患者さんに手ごろな価格で最高品質の医療を提供すると同時に、医療教育を推進してヘルスケアセクター全体のさらなるイノベーションを促していくことです。
同院は、親組織であるAbdul Latif Jameelが取り組むサウジアラビアの生活水準の向上と、国際舞台での同国の存在感増大に向けた多大な尽力を、日々具現化しています。
2024年12月に30周年を迎えた今、この施設の輝かしい歴史の次なる章を託された医療プロフェッショナルたちは、医療リハビリの分野で飛躍的進歩を起こすことを改めて誓っています。その取り組みにおいて、故シェイク・アブドゥル・ラティフ・ジャミールのビジョンは創造的な刺激を与えてくれます。
「人生は自分のためのものだと考える人もいるでしょう」と、彼は1981年のサウジアラビアの日刊紙「Okaz」とのインタビューで語っています。「彼らは、他人に仕えることが大きな善行であることを知りません」。
これらの基盤的な価値観、すなわち生活の質や他人への配慮、アクセシビリティを優先する考え方は、同院のDNAに深く浸透しています。画期的な協働を積極的に求める姿勢が、よりよい患者ケアと継続的な技術進歩を確実なものとします。
このアプローチは、社会のあらゆる構成員のニーズに応える医療セクター変革を目指す、サウジアラビアの「ビジョン2030」における「ビジョン実現プログラム」と軌を一にするものです。

Abdul Latif Jameel Hospital
副会長および取締役
Abdul Latif Jameel Hospital副会長および取締役のアラー・ハムザ氏は、こう振り返ります。
「この30年間、Abdul Latif Jameel Hospitalの存在は単なる医療施設に留まりませんでした。
この病院は、再び充実した人生を送りたいと願う患者さんの希望の光となっています。私たちは、このミッションが今後も長く続くことを期待しています」。
[1]サウジアラビアの関連法の下では非営利慈善事業として設立されていないものの、Abdul Latif Jameel Hospitalは営利原則ではない低料金で運営され、収益はすべて病院に再投資されています。