マサチューセッツ工科大学、アブドゥル・ラティフ・ジャミール世界水と食料の安全研究所、ジョン・H.・ リーンハード工学博士(Dr. John H. Lienhard V, PhD, PE)著

今後80年の間に、世界の人口は未だかつてないペースで成長します。  2030年までに世界人口は85億人に達すると国連は予測しています。これは2015年からのほんの15年間で12億人の増加です。  予測では、2050年までに97億人、次いで2100年までに112億人の人口となります[1]。

これは驚愕の数字です。人口増加率が非常に高いというだけでなく、この人口増加の大部分が、現在既に人口に対応する食糧と水のためにあがいている世界の地域で発生すると予想されているからです。土地利用の劇的な変化やその環境に対する影響を含む、地球に対する避けることのできない困難と、食糧と水の安全保障という課題は一体的に結びついており、したがってこの課題は拡大の一途をたどっています。

クリーンな水の入手を確保することは、すでに世界各国の政府が直面している最大の課題の1つとなっています。  世界の70%は水に覆われていますが、そのうち人がすぐに飲用できる淡水はわずか0.007 [R1]%にすぎません[2]。  現在の世界人口のおよそ20%が、水が不足している地域に住んでいます[3]。  既に制限されている資源に対する困難が増加するということは、さらに5億人もの人々がこのような状況に陥るということを意味します。

憂うべきは、この見通しは悪化する可能性があるということです。  十分な天然水の供給がある国に住みながら、世界の人口のおよそ4分の1の人々は、川や帯水層からの水を浄化して配水するために必要なインフラストラクチャがありません。 

これらの国々の人口が増加するにつれて、水不足と経済的水不足の複合的な影響、つまり2025年までに世界の3分の2が「水ストレス」の条件下で生活する可能性があることを意味します。[4]

これと並行して、世界銀行のデータ[5]は、2050年までに少なくとも50%さらに多くの食糧生産が必要であることを示唆しており、この時には気候変動により、世界でも最もその影響を受けやすい地域の多くで、水の供給と作物の収穫に重大な影響を及ぼすことが予想されています。

現状をそのまま維持することは明らかに難しいといえます。

中東への影響

すでに世界で最も乾燥した地域であり、12の世界で最も水不足の国々の本拠地である中東、北アフリカ、トルコ(MENAT)地域が、食料と水の危機に直面する最前線となり得ることは容易に想像できます。  このようなシナリオは、深刻な社会的および経済的影響という結果を引き起こします。

世界銀行は、移住群、紛争の可能性、そして今後30年間の食糧価格の上昇に対し、水不足がこれらの背後にある主要な原動力に成り得ると考えています。

世界銀行によると、食糧価格の激しい変動は既に「ニュー・ノーマル(新たな常識)」であり、食糧価格が高騰すると、貧困家庭は「子供を学校から離れさせ、安価で栄養価の低い食べ物を食べさせるようになります。 これは何百万人もの若者に対し、生涯に渡る社会的、肉体的、精神的幸福に重大な影響を及ぼす可能性があります。」[6]

一方、水不足は、人々の雇用の先行きに直接影響を及ぼします。  国連は、世界における現行の労働人口の約80%が、仕事上かなり水に依存している(農業、林業、内水面漁場、食糧生産や発電など)、または中程度に水に依存している(建設、レクリエーション、輸送、製造業)と推測しています。[7]

アラブ地域では、水不足が農村地帯で特に影響を及ぼしています。このような地域では、地下水資源の枯渇が所得水準の低下の一因となっています。  水不足は、農業生産性の低さと低レベルな灌漑効率と共に、農村地帯の雇用創出と保持に直接的な影響を与えると言われています。[8]

現状に満足している時間はない

水不足と食糧安全保障によってもたらされる問題の緊急性と規模が、まだ完全な公開討議を受けていないことは事実です。  いずれの問題も、例えば気候変動の場合と同じような主流の討論には至っていません。  世界人口のかなりの人々にとって、これは評価の低い課題なのです。  しかしながら、これらは無視できる問題ではありません。

これらの問題に対処するための試みは行われてきています。ところが、エネルギー集約型の海水淡水化プラントの建設により、その転機が訪れました。 淡水の蓄えを枯渇させるというよりも、現在国は給水を確保するために、さらに多くの化石燃料を消費しています。これは明らかに長期的な解決法ではありません。 

これらの差し迫った問題に取り組むには、全く異なるアプローチが必要です。ひとつは、世界クラスの研究および改革をグローバルな投資と実装で組み合わせることです。

継続可能な未来の成功への投資

2014年、モハメッド・ジャミールは、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)とアブドゥル・ラティフ・ジャミール世界水と食料の安全研究所(J-WAFS)を設立し、2015年にはCommunity Jameel(名高いサウジアラビアの企業、アブドゥル・ラティフ・ジャミールの継続可能な社会的企業部門)がJ-WAFS Solutions Programの立ち上げに対して別の大きな賞を贈りました。

J-WAFSは、水の供給と食糧安全保障の問題に取り組むための次世代技術の研究、開発、商品化をおこなうために、世界の主要な専門家や革新者達の知識と経験を活用しています。

J-WAFSは、単純に兆候を緩和するのではなく、社会問題の根源への取り組みに努めることによって、「コミュニティを助け、自身を助ける」というかなりユニークなCommunity Jameelのビジョンと同調しています。 J-WAFSは、自身がMIT卒業生である、モハメッド・ジャミールの支援を受けることを光栄に思っています。  彼のビジョンと支援のお蔭で、この研究所は、エンジニアリング、科学、都市計画、管理、および社会科学を含む様々な分野の教員や学生を集約させることができました。 この研究所は、彼らがベンチャーキャピタルを誘致し、新しい企業の基盤を形成する理想の位置まで新技術を進歩させるために、教員、博士課程修了者、学生のための資金を提供します。 研究所は国際的なパートナーシップも推進していく予定です。

J-WAFSは、水と食料の供給問題おいて大きな影響を及ぼす可能性のある革新的な研究のために、最長2年間、年間10万米ドルの立ち上げ資金を授与しています。  汚染水の電気化学的分離プロセスから真菌酵母を使用して廃物を食品に変換することに至るまでの広い範囲の問題に取り組む、17のプロジェクトが現在活動中です。

2015年のCommunity Jameelからの追加支援により、J-WAFS Solutionsのプログラムの立ち上げでJ-WAFSの力量範囲がさらに拡大されました。 J-WAFS Solutionsのプログラムは、MITの技術革新デシュパンデー・センター(Deshpande Center for Technological Innovation)とのパートナーシップを通じて、有望なアイデアを革新的な商品と最先端のスピンアウト企業に変えることで、MITの教員と学生が画期的な技術を商業化することの支援を目指しています。

J-WAFS Solutionsは、世界の水と食糧システムの生産性、入手しやすさ、および持続可能性を向上させるために、水と食品技術をMITの研究室から商品化に移行させるという使命を担っています。 

J-WAFS Solutionsは、主要な食糧および水の問題に委ねることができる技術に焦点を当てる、競争によって決定される申請プロセスを通してMITチームに毎年補助金を提供しています。これまでに、6つのプロジェクトに対して資金提供がおこなわれ、スピンアウト会社の1社はすでに営業を開始しています。インドの田舎のための安価な水フィルターから肉の細菌汚染物質を検出するセンサーなどの多様な技術の開発など、これらのプロジェクトは世界中の人々の生活を改善することを目指しています。 

次の段落では、これらのイニシアティブのほんの一部を選んで見てみましょう。

海水淡水化を持続可能にする

J-WAFS Solutionsが資金提供する研究プロジェクトおよび開発は様々ですが、それぞれが共通の目標に貢献することを目指しています。

例えば、電力工学科のカール・リチャード・ソーダ―バーグ教授およびMITの機械工学科部長であるガウ・チェン氏(Gang Chen)が率いるチームは、例えば分布スケールでの海水淡水化のための経済的技術の開発を目指しています。[9] 

淡水の貯蔵量が世界中で枯渇するにつれて、いくつかの地域では水の供給を爆発的に増やすためにより海水淡水化へ依存するようになってきています。  しかしながら、在来の海水淡水化プロセスは費用がかかり、多量のエネルギーを消費するものです。  したがって、クリーンかつ効率的に海水淡水化を実施する方法を見つけることは、環境および商業的に非常に大きな関心事であり、ガウ・チェン氏の革新は重要な意味を持つ希望を提供します。 

このチームは、オンサイトで淡水を生成するために、海上や湖面に浮遊することができる特殊な防水シート建築物(波長選択性があり、断熱された、太陽光発電型の蒸留器、または「WISPS」呼ばれています)を開発しています。

取付けが簡単で市販の材料で作られるWISPS建築物は、太陽光発電を利用して海水淡水化プロセスを稼働することができるいくつかの特性を備えています。  WISPSと簡単な水蒸気システムを組み合わせることで、チェン氏の革新は、低い初期投資コストと競争力のある生産コストで、海水からクリーンな水の生成を実現する可能性を持っています。

作物収穫量における大気汚染の影響の削減

もう1つの活気があるJ-WAFSプロジェクトは、作物の収穫量における大気汚染の影響を研究しています。[10]

地球上で増加している人口は、世界の食料供給に巨大な困難を与えています、 環境ストレスは食料安全保障をさらに大きな危機にさらします。 オゾンの大気汚染は作物にダメージを与えることが知られており、農業セクターは収穫量の低下で数十億ドルの被害を受けています。  しかし、食糧生産における大気汚染の影響についての我々の理解は未だに不完全で、このプロジェクトが対処しようとしている状況です。

土木・環境工学部准教授のコレット・ヒールドが主導している研究者達は、大気汚染物質に対する作物の応答をモデル化して測定することで、現在および2050年両方で微粒子大気汚染が作物収穫量に及ぼす影響を予測することを目指しています。  その目的は、大気汚染に関連する食糧生産のリスクの総合的な概算を提供することです。 この分析結果は、大気汚染に関連する食糧安全保障上のリスクと地域規模での作物の適応の必要性に関する活気のある新しい洞察を提供する予定です。

より安全な飲料水、より安全な食べ物 – 食糧と水の海上輸送汚染のモニタリング

食品生産の連鎖の反対側の末端は、もちろん消費です。

汚染物質のリアルタイムモニタリング[12]は、クリーンな水の必要性を満たす上での優先となっています。 同様に、食糧供給連鎖のグローバル化により、消費の時点で採用できる新しい検出プラットフォームの必要性が高まっています。  化学工学科のカーボン・P.・ダブズ教授であるマイケル・S.・ ストラノ氏(Michael S. Strano)が率いるチーム、そして微生物学および保健学・技術の教授であるアンソニー・J.・シンスキー氏(Anthony J. Sinskey)は、細菌、重金属、および/またはアレルゲンを同時にテストできる、多くの分離された個々の汚染物質検出技術を組み合わせ、単体で携帯可能な消費時点で使用する、統合型プラットフォームを構想し、開発しました。

グローバルな会話を主導する

J-WAFSは研究プロジェクトに資金を提供する機関であるだけではありません。  この研究所は現在、水不足および食糧安全保障分野の世界的リーダーであり、これらの課題に取り組むために学問的および商業的コミュニティで積極的に役割を果たしています。

2016年10月に、J-WAFSは低炭素海水淡水化専門家のワークショップを主宰するGlobal Clean Water Desalination Alliance(GCVDA)と協力することになりました。  11ヶ国からの招待された専門家達が、エネルギー要求と海水淡水化の炭酸ガス排出量を低減するための最新の進歩と最良の戦略について議論するためにMITに集まりました。

MITの研究担当副社長であるマリア・チューバ―氏(Maria Zuber)は、ワークショップ参加者に対し、ワークショップでおこわれた努力は「決定的に重要」であると指摘しました。 出席者達は、2016年11月にモロッコのマラケシュで開催された気候変動に関する国際連合枠組条約(COP22)の第22回締約国会議の間に報告書[13]が準備されました。 

MITでの水と食料の研究を支援するJ-WAFSの能力は、最近の初めての企業研究アフィリエイト合意の署名によりさらに進歩しました。  150ヶ国以上で操業する世界的な水技術の企業であるXylem Inc.は、J-WAFSとの3年間の契約期間、研究プロジェクトを後援します。  Xylem Inc.はまた、水の研究と革新的な活動のための学生ネットワークである、MIT Water Clubも支援する予定です。  Xylemとパートナーになることで、J-WAFSは、水のセクターにおける非常に優れた経験を持つパートナーをMITに導き、実社会の課題を取り巻く有意義なコラボレーションを推進しています。

より良い未来を築く

水不足と食糧安全保障は、明らかに人類が今までに直面した最大の課題のうちの2つです。 これらを解決するには、世界規模での投資および協力が必要となります。  新しい技術を開発する必要があります。  解決策が見つからない場合は、ほとんどの世界の人々の健康、繁栄、および経済的安全が危険な状態にあるという理解で、政府は学界や民間部門と協力する必要があります。

先の国連事務総長のバン・キムン氏(Ban Ki-moon)は、以下のように述べました。「水は、適切な仕事と持続可能な開発にとって不可欠です。  飲料水や公衆衛生を含む、水資源の保護と復興での投資を増やすべき時は今である。」[14]

彼の査定はCommunity JameelおよびJ-WAFSで全員と共有されました  中東およびより広い世界の両方で安全かつ食糧とクリーンで再生可能な水の供給を届けるための革新とアイデアを推進するために共に協力しなければなりません。 

そうすることで、私たちは、コミュニティの未来、都市の持続可能性、および今後何十年にもわたって経済の繁栄を確保するために必要な革新的な技術とパートナーシップを発展させるための援助ができるのです。

John H. Lienhard
John H. Lienhard

[1] www.un.org
[2] www.nationalgeographic.com
[3] www.un.org/waterforlifedecade
[4] www.unwater.org
[5] www.worldbank.org
[6] www.worldbank.org
[7] unesdoc.unesco.org
[8] unesdoc.unesco.org
[9] jwafs.mit.edu
[10] jwafs.mit.edu</a
[11]
jwafs.mit.edu
[12]
jwafs.mit.edu
[13]
unesdoc.unesco.org