Z世代が「働くこと」に求めるもの

彼らは明日のビジネスリーダーです。すでにその地位を確立している人もいれば、企業社会のシニアレベルへとつながる道を模索している最中の人もいます。通常は1997年から2012年の間に生まれた年代を指す「Z世代」は、現在その多くが精力的に野心を追求し、職場でのキャリア構築を目指す段階にあります。実際、今年(2025年)はZ世代にとって節目となる年です。経済協力開発機構(OECD)加盟国において、組織の労働力の27%がZ世代であると試算されました[1]。彼らは、雇用主が彼らの不利益を見ないようにしている、労働力における拡大セグメントの象徴なのです。
史上初の「デジタルネイティブ」世代であると呼ばれることの多いZ世代の世界は、家でも職場でも、常にテクノロジーに支配されてきました。彼らはライフスタイルの必要不可欠な一部として、インターネットとともに育ちました。
しかし、このZ世代が職場に求めることは何なのでしょうか? そして雇用主は、彼らを惹きつけるためにどう対応し、適応しているのでしょうか? Z世代の優先順位リストで上位に来るのは、企業の社会的責任、メンタルヘルス問題への意識、ワーク・ライフ・バランス、そして多様性とインクルージョンへのコミットメントです。こういったヒューマニティの問題が、一般的にZ世代の求職の際の動機の一部を成しています。
企業の人事部門にとって、Z世代の採用と、重要な点として彼らを維持するための要件には、それ以前の世代とは異なる課題が連なっています。繊細なアプローチが求められるのです。雇用主は、ますます増えていくZ世代の集団を理解する必要がありますが、成功する雇用慣行は必ずしもある特定のグループに注目したり、より幅広い労働力の要件を無視することで達成できるとは限りません。
Z世代が期待すること
仕事について考えるとき、多くのZ世代の考えに共通する特徴は、従来の「9時〜5時定時の仕事人生」というキャリア追求とは違う何かを見つけたいという欲求です。コンサルタント会社のMcKinsey(マッキンゼー)による研究[2]では、典型的なZ世代の従業員は「真実」に基づいた行動を求めることが明らかになりました。
- 個々人の表現に価値をおく
- インクルーシブである
- 対立を避け、対話を増やす
- 分析的かつ実際的に行動する
これらのキャリア追求は、利他主義に近いと言えるかもしれません。実際、McKinseyはZ世代がそれ以前の「私、私、私」なミレニアル世代とは対照的な、「真実の世代」であると説明しています。
給与額より目的を優先?
それだけではありません。2025年のDeloitte(デロイト)の調査[3]では、Z世代の89%(そしてミレニアル世代の92%)が、仕事における目的意識を持つことがモチベーション、エンゲージメント、仕事満足度、ウェルビーイングの鍵であると考えています。お金のためだけでなく、Z世代は職場において、彼ら自身の個人的な価値観と社会貢献のために取り組みたいとし、第一のキャリア目標をリーダーシップの地位に就くこととしたのはわずか6%でした。これは、経済的保証と仕事の安定性を優先してきたそれ以前の世代とは対照的です。
Top Employers Institute(トップ・エンプロイヤー・インスティテュート)によるZ世代のマインドに関する別のインサイト[4]では、彼らは安定性、持続可能性、安全性を求めていることが分かりました。さらにZ世代は、雇用主にキャリア追求の支援と同時に、仕事を超えて健全な生活を送れるようサポートを求めています。
では、企業には具体的に何が必要なのでしょうか? Z世代の従業員にとって重要な優先事項は、以下のように特定されます。
- 成長の機会が提供されること
- 職場が従業員にとってより安全で健全であること
- 雇用主として財務的安定性があること
興味深いことに、McKinseyの調査の回答者の62%が、ワーク・ライフ・バランス向上のためなら給与が下がってもよいと回答しています。
International Journal of Science and Research(IJSR)は、「Z世代の従業員はそれ以前の世代、すなわちミレニアル世代(1981年〜1996年生まれ)、X世代(1965年〜1980年)、ベビーブーム世代(1946年〜1964年)とは大きく異なる独自の視点と期待、職業倫理を持っている」[5]としています。
雇用主が直面する主な課題とは
これらを思慮深い職場の方針とすることに異議のある人は少ないと思いますが、雇用主にとってその実行は言うほど簡単ではないかもしれません。手始めに、満足できるワーク・ライフ・バランスの達成は、Z世代の職場の優先事項として重要な要因ですが、そこに「全員に当てはまる」解決策はありません。これに関連するのは、メンタルヘルスの重要性の高まりと、従業員のサポートに関して雇用主が担うべき責任は何かという問題です。
グローバルコンサルティング会社のDeloitteによると、新型コロナウイルス感染症以降におけるZ世代とミレニアル世代のメンタルヘルスに関する調査では、依然ストレスと不安が高いレベルで続いていることが分かっています。特に、緊張感のある職場と燃え尽き症候群は、メンタルヘルスの問題として増加傾向にあるとされています[6]。
職場のストレスと仕事への不満のひとつの帰結として、離職により「意思表示をする」という事態が起こります。人材派遣のManpower Group(マンパワー・グループ)の調査では、Z世代では、全世代で最多となる47%が、今後6ヶ月で現在の役職を自発的に離れるつもりであると回答したと述べられています[7]。しかし、自身のニーズを満たす仕事を見つける自信が最もないのもこの世代です。
この自信の欠如は、雇用主にとって、職場に関するZ世代の不満は、積極的に行動すれば彼らを惹きつけるチャンスにもなりうることを示唆しています。離職したいけれど次のステップに迷っているZ世代の従業員がいるということは、彼らを引き止められるような職場への変化を起こすのに最適なタイミングかもしれません。
雇用主はこれらの問題にどう対応しているか
Z世代の採用面接で、準備のできていない雇用主は候補者の率直な仕事への希望に面食らうかもしれません。「御社のESG(環境・社会・ガバナンス)ポリシーは? フレキシブルな勤務は可能ですか? 職場はどのくらいインクルーシブですか?」
雇用主がZ世代に合わせて職場慣行を適応させるやり方はいくつかあり、変化は、より幅広い労働力にとってもメリットとなりえます。Manpower Groupの調査[8]では、雇用主がZ世代の提示する課題に対応するための5つの主な方法を挙げています。以下がその方法です。
- 回答した雇用主の73%が勤務時間のフレックス制導入を検討していると回答
- 73%が報酬レベルの拡充を検討
- 73%がキャリア開発の機会を検討
- 75%がウェルビーイングに注力している
- 76%が技術ツールの強化を優先事項だと考えている
同様に、米国のジョン・ホプキンス大学の専門家[9]は、以下のような問題への対応を進めることは雇用主にもメリットがあることを強調しています。
- メンタルヘルスへの意識向上
- 多様性とインクルージョン
- キャリアアップ
- Z世代が好む形式、特に対面(オンライン上であっても)でのコミュニケーションの強化
- 同一賃金
- 環境、社会、ガバナンス(ESG)
ESGは、雇用主の積極的で継続的な行動をZ世代が強く期待する典型的な分野です。Z世代とミレニアル世代の約60%が、環境についての懸念を抱き、半数以上が就職を決める前にブランドの環境への影響とポリシーを調べています[10]。
ハイブリッドな働き方はZ世代の従業員の意欲を高められるか
新型コロナウイルスの世界的流行により、フレキシブルでハイブリッドな働き方が大規模に導入されました。今日、多くの雇用主が従業員の出社を促すのに苦慮しているという事実は、フレキシブルな業務形態が浸透していることを表しています。最近の研究では、年齢で分けると25歳〜34歳のグループが、ハイブリッドな就業形態から出社しての就業に戻ることに最も消極的とされています[11]。
Deloitteによると、Z世代の従業員の63%がハイブリッドな就業形態を最も好ましい就業形態であるとしています。ただし、このオプションを選択できているのは、彼らのうちの30%にとどまります[12]。雇用主にとって、一方では生産性と収益目標を念頭に置き、もう一方で従業員の就業形態の嗜好を考慮しながら両者のバランスをとるのは、容易ではないかもしれません。しかし、従業員の嗜好を尊重することに価値を見出すのは雇用主かもしれません。
Z世代は、仕事の世界が自分たちに何をもたらすかについて確固たる信念を持っていますが、彼らには耳を傾ける準備もできています。実際、彼らの多くが、正しいビジネスリーダーに学び、倣うことを熱望すると述べています[13]。
Z世代は感情知能の高いリーダーを求めています。また、彼らは双方向的なコミュニケーションを期待し、雇用主が彼らの声に耳を傾け、意見を尊重することを求めています。メンタリングやジョブシャドーイングは、シニアリーダーシップがZ世代の従業員とより効果的に関わり、理解するために理想的な方法かもしれません。
トップへの上昇志向はすでに見られ、McKinseyの調査では最高経営幹部に上り詰める意欲を示すZ世代が増えているとしています。事実、X世代やミレニアル世代と比べて、Z世代ではCEOになりたいという人が2倍以上います[14]。そのため、企業は柔軟性を持つ必要があり、さもなければZ世代の人材はキャリアの成功を求めて流出してしまいます。
Z世代のエンパワーメントにテクノロジーが果たす役割
いわゆるデジタルネイティブであるZ世代は、これまで別の世代の同僚が思いつかなかった方法で自身のテクノロジースキルを活用し、職場の生産性を高めることができる、潜在的な救世主とみなすことができるでしょうか。答えはイエスであり、ノーです。
Google Workspaceのアンケートでは、回答したZ世代の93%が週に2つ以上の人工知能(AI)ツールを使用するとしています[15]。職場でのAI活用は、雇用主がZ世代の優先事項を叶えるのに役立ちます。これにより、特にハイブリッドな働き方においてマネジメント能力を高め(同時に昇進の見込みも高まり)、時間を節約し、コミュニケーションを向上させることができるからです。
ただし、テクノロジーのノウハウ共有は、必ずしも一方向ではないかもしれません。Z世代が全般的にテクノロジーに精通しているのは事実ですが、どの程度そうであるかはやや曖昧です。EYの2024年サイバーセキュリティにおけるヒューマンリスクの調査[16]で、同社の専門家はZ世代のテクノロジースキルに限度がある可能性を指摘しています。この調査では、「Z世代は、最も一般的でだましやすいソーシャルエンジニアリング攻撃の方策のひとつであるフィッシングの検知能力に自信がなく、疑わしいリンクを開いてしまいがち」であることが示唆されています。
おそらく、これは別の世代の同僚たちが自身の得意分野でZ世代をサポートできるケースかもしれません。また、雇用主がZ世代の従業員に特有の能力と課題を理解する重要性も示されています。つまり、すべての従業員が、より個人的で思いやりある雇用主の方針が示されているとして歓迎できるような、個別のアプローチをとることです。
Abdul Latif Jameelは職場のZ世代のニーズにどのように対応しているか
Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)は、グローバルな事業運営全般にわたる多様な世代の労働力をサポートするより広範な取り組みとして、Z世代を理解することに強い関心を持っています。能力ある人材が集まる重要な年代層を惹きつけるための課題は、35ヶ国を超える1万1,000人以上の労働力全体で広く認識されています。人事専門センターが主導するイニシアチブにより、私たちは多様で幅広い人材プールにアピールする採用プロセスの標準化を目指しています。同様に、帰属意識とインクルージョンに関するアジェンダの策定を継続し、女性向けリーダーシップ開発プログラムなどのイニシアチブを通じて労働力の多様化を進めています。
テクノロジーをアップグレードしてリモートと柔軟性の高い働き方を促進するとともに、文化的多様性にも力を入れています。これは、80ヶ国以上から集まる従業員たちが調和して協働するために欠くことができません。
近年、私たちはZ世代を迎え入れることにますます重点を置いています。そのために、キャリアアップや柔軟な働き方に関して何を提供できるかを、CSRの枠組みの中で再考する必要があります。その多くは私たちの倫理と事業目的に結びついています。実際に、力強い企業文化の構築と維持の一環として、2023年に「ジャミール・プリンシプル」を策定し、組織としてのコアバリューを定義しました。
- リスペクト
- 改善
- パイオニア精神
- エンパワーメント
ジャミール・プリンシプルは、充実したキャリアを追求できるタイプのビジネスという点で、Z世代の希望とよく合致しています。
ALJは、ジェンダーの多様性を尊重する企業はパフォーマンスに優れているだけでなく、明らかにイノベーションを加速させるということに明確な証拠があると考えています。Community Jameel(コミュニティ・ジャミール)とCommunity Jameel Saudi(コミュニティ・ジャミール・サウジ)の非営利活動に代表されるように、ALJの共同責任という文化は、Z世代が雇用主に期待することと共鳴しています。
Z世代と多様な世代の労働力の 適正なバランスをとる
企業が、Z世代の価値観に合わせて多くの面でアプローチを変えている一方、雇用主の行動とZ世代の好む方向性にミスマッチが起きてもいます。HRソフトウェア企業のCangrade(キャングレード)のレポート[17]によると、例えばZ世代の26%が職場に不満を抱き、17%が離職を検討しています。
また、過渡期の課題を指摘する報告書もあります。ある調査[18]では、マネージャーの4分の3が、Z世代の新入社員は他の世代の従業員よりチームに溶け込みにくいと考えていることが明らかにされています。実際、半数近くのマネージャーが、多くの場合、もしくは常に、Z世代のマネジメントは他の世代よりも難しいと答えています。
Z世代のニーズを優先させることの潜在的な課題として、労働力内の他の世代の視点を見落としてしまう可能性があります。アルファ世代(2013年〜2024年生まれ)が彼ら特有の仕事観をもって職場に参加してくるのも、そう遠い未来ではありません。そのときには、Z世代の職場規範は新しい世代の採用需要に取って代わられる可能性もあります。
双方にメリットがある未来をいかに築くか
当然ながら、雇用主にも従業員にも最も快適な状態は、おそらく中間地点にあります。Z世代を雇用する際の妥協はおそらく必然ですが、これが企業や他の従業員の長期的な成果の低下を意味する必要はありません。
希望が持てることに、EYの2024年の働き方再考に関する調査[19]では、未来の職場についてのプラスの点が指摘されています。EYは「世界の労働力は、それぞれが個別の経験と期待を持てるようになってきており、キャリアや報酬全体、職場のロケーションに関する画一的な考えはますます当てはまらなくなっています」と述べています。
雇用主が推進すべきは、労働力の階層全体を横断する最も影響力のある報酬の強化を見出すことです。そうすることで、互いが満足できる状況を達成できるはずです。Z世代が自分に合っている職場だと感じられ、同時に他の従業員が疎外感を感じることのない職場です。
目指すべき目標は、Z世代が帰属意識を感じられ、すべての従業員が尊重されていると感じられる職場で、誰もが意味ある形で貢献できる、活気あふれる環境を生み出すことです。
職場におけるZ世代:5つのクイックファクト
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2025年のOECD加盟国の労働力におけるZ世代の割合は何%か?
2025年のOECD加盟国の労働力におけるZ世代の割合は27%と推定されています。 -
Z世代のキャリア追求は、それ以前の世代と比べてどうか?
X世代やミレニアル世代と比べて、Z世代にはCEOになりたいという人が2倍以上います。 -
ハイブリッドな働き方を好むZ世代の割合は?
Z世代の従業員の63%がハイブリッドな就業形態を好みますが、このオプションを選択できているのは彼らのうちの30%にとどまります。 -
Z世代が雇用主に求めるコアバリューは何か?
Z世代は、個々人の表現に価値をおき、インクルーシブで、対立を避け、分析的かつ実際的に行動できる職場を望んでいます。 -
「ジャミール・プリンシプル」はZ世代の価値観とどのように合致するか?
ジャミール・プリンシプルの「リスペクト」「改善」「パイオニア精神」「エンパワーメント」は、充実したキャリアを追求できるビジネスというZ世代の望みに合致しています。これらの価値観は、Z世代だけでなくすべての世代の従業員とも共鳴するものです。
[1] https://www.weforum.org/stories/2022/05/gen-z-don-t-want-to-work-for-you-here-s-how-to-change-their-mind/
[2] https://www.mckinsey.com/industries/consumer-packaged-goods/our-insights/true-gen-generation-z-and-its-implications-for-companies
[3] https://www.deloitte.com/gr/en/issues/work/genz-millennial-survey-2025.html.
[4] https://www.top-employers.com/blog/gen-z-redefining-the-future-of-work/
[5] https://www.ijsr.net/archive/v14i3/SR25316115930.pdf
[6] https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/global/Documents/deloitte-2022-genz-millennial-mh-whitepaper.pdf
[7] https://www.manpowergroup.co.in/whitepaper/MPG-Gen-Z-White-Paper-2025.pdf
[8] https://www.manpowergroup.co.in/whitepaper/MPG-Gen-Z-White-Paper-2025.pdf
[9] https://imagine.jhu.edu/blog/2023/04/18/gen-z-in-the-workplace-how-should-companies-adapt/
[10] https://www.deloitte.com/cbc/en/services/risk-advisory/blogs/gen-z-and-millennial-survey.html
[11] https://www.peoplemanagement.co.uk/article/1902075/third-25-34-year-olds-quit-forced-back-office-study-finds
[12] https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/global/Documents/deloitte-2022-genz-millennial-mh-whitepaper.pdf
[13] https://www.top-employers.com/blog/gen-z-redefining-the-future-of-work/
[14] https://www.mckinsey.com/~/media/mckinsey/email/genz/2023/06/2023-06-20b.html
[15] https://workspace.google.com/blog/ai-and-machine-learning/rising-leaders-embrace-ai-new-research-google-workspace-and-harris-poll
[16] https://www.ey.com/en_us/newsroom/2024/05/ey-2024-human-risk-in-cybersecurity-survey
[17] https://www.cangrade.com/blog/hr-strategy/what-you-should-know-about-generational-happiness-at-work-research/
[18] https://www.resumebuilder.com/3-in-4-managers-find-it-difficult-to-work-with-genz/
[19] https://www.ey.com/en_gl/insights/workforce/work-reimagined-survey