MIT機械工学科ノイス・キャリア開発教授のスアンヘ・チョウ氏とMITの水と食料のアブドゥル・ラティフ・ジャミール教授およびJ-WAFS所長であるジョン・リエンハード博士は、今年初めにJ-WAFSの資金調達を受けた7つの研究プロジェクトの1つを主宰しています。スアンヘとジョンは、化学薬品を使用しない、振動に基づいた膜洗浄技術の開発を目指しています。これは逆浸透の効率を劇的に改善し(そしてコスト削減し)、世界で最も広く使用されている海水淡水化のプロセスです。

 Opening Doorsは、チョウ教授およびリエンハード教授にプロジェクトとその狙いについてのお話を伺いました。

 研究プロジェクトのタイトルは何ですか?

プロジェクトは「逆浸透膜防汚のための高効率で化学薬品を使用しない逆洗戦略」です。

どのような問題に取り組みたいですか?

淡水は私たちが存在するため基礎となるものですが、安定した持続可能な供給を確保することは、特に中東や北アフリカ(MENA)のような水不足の地域では大きな課題です。

理論上、地球上には70億人の人々を支えるのに十分な淡水がありますが、分布が不均一であったり非効率的な消費パターンが混在し、膨大な量が無駄にされ、汚染され、または持続的に管理されないことで慢性的に水不足の地域が増えています。

世界銀行のデータによると、MENAの人口の半分以上が、需要が供給を上回る「水ストレス」の条件下で暮らしています[1]。世界で最も水不足の国々のうち、12の国を含む地域ではあまり驚くべきことではないかもしれませんが、この需要と供給との間の差異の規模には驚かされます。

人口の増加と世界的な気候変動の悪影響がでてくるにつれ、水の供給に対するプレッシャーがさらに高まる中で、MENA地域の1人当たりの利用できる水の量は2050年までに半分になると予想されています。[2]

淡水の供給を増やすために海水淡水化技術を使用する、世界中で使用されているいくつかの技術があります。例えば、UAEでは90%の水を海水淡水化によって得ています。

世界的に広く使用されているプロセスは逆浸透です。私たちの研究は、効率を大幅に改善し、持続可能性を高め、逆浸透プロセスのコストを低減する新技術の開発を目指しています。

逆浸透とは何ですか?

逆浸透は塩水地下水の淡水化および海水淡水化の両方のために使用します。また、排水の再利用システムや様々なその他プロセスの構成の一部としても使用されています。

逆浸透プロセスでは、高分子膜の片側に生理食塩水を加圧することで、水が膜を通って低圧(純水)側に通過します。膜表面の化学的性質は注意深くデザインされているため、塩は膜を通過できません。

これに関連する問題はありますか?

注目している主な問題は膜の汚れです。使用している間に、この膜の塩水側に生物活性材料の薄膜が形成されることがあります。さらに、塩が膜表面に結晶化することもあります。このどちらのプロセスも効果的に膜を「詰まらせ」、水が片側からもう片側へ移動することを減少させ、より高いエネルギー消費およびコストをもたらします。そのため、これをコントロールすることは非常に重要です。

バイオフィルム膜による汚れの問題は、通常、流入する水を薬剤でしっかりと前処理することで対処されます。ただし、これはコスト高く、時間とエネルギー効率が悪く、環境に対しても好ましいものとは言えません。さらに、これは膜の汚れを完全に除去するわけではなく、そして膜の寿命も圧迫します。従って、膜の動作寿命をさらに延長し、動作およびメンテナンスのコストを削減する、化学薬品を使用しない方法を持つことが好ましいのです。

研究ではこれらの課題をどのように克服するように提案していますか?

私たちが研究しているアプローチは、圧力をかけて膜を振動させることです。細菌は自分たちがコロニーを形成するために十分な数があるかを検知するために、「クオラムセンシング(密度感知)」と呼ばれるものを使用します。この振動は「クオラムセンシング」を妨げ、バクテリアがバイオフィルムに繁殖することを防ぎます。

この振動は、膜の片側にだんだんと圧力を加えることによって発生させます。膜の反対側では、圧力は一定です。片側の振動勾配と反対側の一定圧力との間の差異で膜が振動します。これは通常の海水淡水化プロセス中に行うことができます。

細菌が膜表面にどのように付着するか、そして振動が細菌間のコミュニケーションにどのように影響するかについては、研究室でさらに研究を進める必要があります。これがいったん終了した段階で、この原則を現実世界で適用することができます。

この技術の潜在的メリットは何ですか?

主なメリットは、逆浸透プロセスのメンテナンスおよび稼働コストの削減です。膜がバイオフィルムで汚れていないため、膜洗浄のための停止時間が短くすみ、生産性が向上します。クリーニングのためにプロセスを停止する必要がなければ、一定時間により多くの水を生成することができます。同様に、クリーニング自体に関連するコストも避けることができます。膜の防汚対策をなくすことは、ペルシア湾や世界のその他の地域で見られる非常に塩分が高く、温かい水での逆浸透を容易にします。

さらに、消費者にとっても、水のコストを下げるべきであるという点でのメリットがあるはずです。現在、運転および維持費は、逆浸透プラントからの水の費用の約4分の1を占めています。膜のクリーニングと交換はこの費用の大半を占めます。そのため、これらの費用を削減できれば、生産コスト全体が大幅に低減するはずです。

また、膜に穴が開いてしまったり、そこを何かが通過してしまう危険性も少なくなるため、水の品質もおそらく向上するでしょう。

今回のJ-WAFS資金提供が終了する2019年8月までにこの研究を完了する予定ですか?

はい、研究の現段階であるこの仮説の証明は完了すると考えています。その後、このプロセスをさらに洗練させ、商業的にどのように応用するかについてのさらなる研究をおこなっていく必要があります。

私たちのプロジェクトの最初の焦点は逆浸透膜の防汚ですが、この研究の視野と私たちが得る知識は、生物汚損が問題となる、例えば船舶の船体や医療インプラントのようなその他のアプリケーションでも適用できます。そのため商業的にも大きな可能性があります。

[1] 上昇と乾燥:20165月、世界銀行、気候変動、水そして経済

[2] http://blogs.worldbank.org/arabvoices/numbers-facts-about-water-crisis-arab-world