未来を担う核融合エネルギー
最先端の核融合技術に挑むCommonwealth Fusion Systems創業者兼CEOへのインタビュー
Commonwealth Fusion Systems(コモンウェルス・フュージョン・システムズ、以下CFS)は、エネルギー産業の常識を覆す最先端科学で大きな注目を集めている企業です。2018年にMIT(マサチューセッツ工科大学)プラズマ科学および核融合センターのスピンオフとして設立されたCFSは、高温超伝導(HTS)マグネットの開発と世界初の核融合実証炉の実現に取り組んでいます。この革新技術は、無制限に生成できる持続可能なクリーンエネルギー源として大きな期待を集めています。
2021年12月、JIMCO Technology Fund(ジムコ・テクノロジー・ファンド)は、核融合発電の商業化への加速を目指すCFSの18億米ドルに上るシリーズB資金調達ラウンドに参画を表明しました。JIMCOは今回の投資を通じて、世界経済を牽引する主要産業の未来に貢献する最先端技術への支援を続けています。
今回は、CFS創業者兼CEOのボブ・マムガード氏と、Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)社長代理兼副会長のファディ・ジャミールに共同インタビューを敢行し、真に持続可能な再生可能エネルギーの実現を目指すCFSのビジョンや最先端技術について伺うと共に、優れたイノベーター企業やディスラプター(破壊的企業)への投資を推進するJIMCOにCFSへの投資の意図について尋ねました。
CFSの背景と理念について教えてください。
マムガード氏:CFSは、MITプラズマ科学および核融合センター(PSFC)の人材や研究アイデアを基に独立したスピンオフです。PSFCでは、数十年に及ぶ核融合エネルギーの研究の末、核融合技術が単なる研究の領域を超えて、商業化を目指せる段階に来たと確信しました。問題は、その具体案や商業化を加速する方法を策定することでした。MITで開発していた高磁場マグネット技術を基軸に2016年に商業化計画を立て始め、2018年に独立企業としてCFSを創業し、第1回目の資金調達を経て 技術的な計画を実行に移していきました。
核融合発電システムについて分かりやすく説明していただけますか?
核融合反応は、原子力発電の原理である「核分裂反応」の反対と考えると分かりやすいと思います。核分裂反応が原子核の分裂であるのに対し、核融合反応は、水素などの質量の小さな原子の原子核同士が結合(融合)して別の少し大きな原子核となる反応です。
核融合は宇宙の基本的な科学反応で、太陽をはじめとするすべての恒星のエネルギーの源になっています。私たちの身体を構成する原子も、核融合反応により生成されたものです。
地球上で核融合反応を人工的に起こす場合、恒星の内部と同じ条件を装置の中で再現する必要があります。そのためには、燃料を摂氏1億度に加熱してプラズマという状態にする必要があります。どんな物質も1億度超では固体の状態を維持できないので、プラズマを閉じ込める仕組みが必要になります。現在のほとんどの核融合技術は、磁場閉じ込め方式と呼ばれる、磁場でプラズマを隔離する方法を採用しています。プラズマを超高温に加熱すると核融合反応が起こり、エネルギーが生成されます。
© マサチューセッツ工科大学(MIT)/MITプラズマ科学および核融合センター
核融合反応を語る上で、重要な要素が2つあります。ひとつはマグネットで、もうひとつは核融合装置の形状とサイズです。基本的にマグネットの強度が高いほど、プラズマを効果的に閉じ込めることができます。また、装置の形状はプラズマを閉じ込める方式に応じて異なります。CFSを含め、ほとんどの核融合装置はトカマク方式を採用しています。これは端的に言えば、核融合プラズマを閉じ込める「磁場のボトル」を想像してもらうと分かりやすいと思います。
核融合エネルギーの画期的な点とは何ですか?
マムガード氏:核融合反応では莫大なエネルギーが生成されます。1回の核融合反応におけるエネルギー生成量は化石燃料の約2億倍と言われています。
核融合エネルギーは、現在のエネルギー産業に様々な影響をもたらします。ひとつは、核融合エネルギーに使う資源は基本的に無料で、燃料の確保が容易である点です。資源はどこにでもあり、誰でも入手が可能です。
つまり、エネルギーと資源を切り離して考えることができるようになり、エネルギーや発電に関する従来の概念を大きく覆すことになります。採掘の必要もなければ、風が吹いたり、太陽が出るのを待つ必要もありません。ただ装置を作るだけで良いのです。
もうひとつは、核分裂反応と真逆の科学反応であることから、原子力発電のようなリスクがないことです。核分裂連鎖反応やメルトダウンの心配がなく、原子力のように兵器に悪用される恐れもないので、燃料の追跡も不要です。処理に膨大な時間を要する放射性廃棄物も排出されません。こうした点において、核融合発電は非常にシンプルでクリーンな発電と言えます。
核融合技術の推進を図る上で、特筆すべき技術的ブレークスルーはありましたか?
マムガード氏:はい。トカマク方式は、核融合研究において現在最も主流な方式です。核融合プラズマを効果的に閉じ込められることが実証されており、その性能は他の方式に比べて約1,000倍と言われています。
ただし、核融合にはひとつだけ大きな欠点があります。現在のトカマク技術では、臨界プラズマ条件(核融合プラズマ生成に必要な加熱エネルギーよりも、そのプラズマで核融合反応が起きたときに生成されるエネルギーが上回る状態)に到達するための磁場を作るのに巨大な装置が必要だということです。例えば、現在南フランスでは、ITERと呼ばれる国際核融合実験炉の建設が進んでいますが、非常に巨大な施設です。トカマク装置のプラットフォームの寸法だけでも、幅400m x 縦1km(サッカー場60個分)に上ります。
当社では、従来の基準を大幅に超える超高磁場を形成する強力なマグネットを開発することで、トカマク装置の大幅な小型・低コスト化を実現し、臨界プラズマ条件を達成できると考えました。
そこで、新しい高温超伝導体(HTS)を使用して、従来の核融合マグネットよりもサイズが大幅に小さく、強度の高いマグネットの開発に取り組みました。
その結果、HTSマグネットを適切な構成で開発することで、ITERの約40分の1のサイズのトカマク装置を作ることが可能になりました。このことは、核融合システムに飛躍的な変化をもたらします。
HTSマグネットはどれぐらいの強度があるのですか?
マムガード氏:磁界の強度の測定には「テスラ」という単位が用いられますが、当社で使用するマグネットの強度は20テスラ[1](20T)です。これは、核融合マグネットの中で最強の強度です。分かりやすく例えると、15Tのマグネットはエッフェル塔31個分、19TのマグネットならボーイングB747 403機分、当社の20Tのマグネットなら戦艦に相当する重量を持ち上げることができます。
HTSマグネットはMITで開発されたのですか?
マムガード氏:我々が研究を開始した時は、HTSマグネットはまだ稀でした。現在あるような素材の一部を使って小型マグネットを作っている人たちはいましたが、核融合装置に必要な強度には全然及びませんでした。
CFSの創業時に、このマグネット技術を早急に開発することを目指し、創業から最初の3年は、MITと連携してマグネット技術開発に重点的に取り組みました。周囲からは最低でも10年はかかると言われましたが、我々には3年でできるという確信があったのです。実際にその通りになりました。
ファディさん、Abdul Latif Jameelは、再生可能エネルギー技術への投資において長年の実績があります。今回、Commonwealth Fusion Systemsに着目した理由は何ですか?
ファディ:初めはMITとの関係を通じてCFSのことを知りました。MITは当社の理念や事業に深く関わっており、MITの意見には常に耳を傾けています。これまでもMITとの提携により、様々な事業や社会貢献活動で大きな成功を収めてきました。
当社はこれまで、太陽光発電、風力発電、グリーン水素などの再生可能エネルギー技術に深く関わってきたので、CFSにもすぐに興味を惹かれました。CFSは、革新的な技術により世界の脱炭素化を加速するための道を切り拓いています。当社はその取り組みに共鳴し、支援したいと思いました。
英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に会長と共に参加したとき、核融合エネルギーに対する関心の高さを目の当たりにしました。他の技術に比べて実用化の可能性が高い核融合エネルギーに大きな期待が寄せられています。
今後こうした技術的ブレークスルーを加速し、持続可能な未来を築いていく上で、民間資本が果たす役割や責任のようなものはあると思われますか?
ファディ:ええ。民間資本や同族企業であることのメリットは、寛容資本が可能なことだと思っています。大勢の株主がいると、どうしても3〜5年以内に利益を上げることを要求されます。その点、同族企業は長期的な視野に立って投資を実施できますから、ビジネス継続性の取り組みの一貫として、未来を切り開く最先端技術に積極的に投資したり、未来の世代に対する責任を担うべきだと考えています。
現在、CFS以外にも世界各地で核融合発電プロジェクトが実施されています。CFSの技術がこうした他のプロジェクトと異なる点は何ですか? やはり、マグネットが1番の大きな違いなのでしょうか?
マムガード氏:当社の目的は、実証済みの科学と最先端技術を駆使して核融合技術の開発を推進し、商業化を加速することです。
現在最も普及率が高く、性能の高いトカマク方式を採用しているのはそのためです。そこにHTSマグネットを追加することで、従来のトカマク装置の問題点であった小型化に取り組んでいます。HTSマグネットをトカマク装置に追加することで、核融合発電を最短で商業化できると確信しています。
CFSが一線を画している点は、マグネット技術だけではありません。当社は他の機関や団体との連携を重視しており、様々なラボや研究機関と共同開発を行っています。また、研究成果を論文に発表し、積極的に査読を依頼して 装置を継続的に改良しています。当社が求める査読レベルは、通常よりも非常に高いのが特徴です。商業化までの期間を短縮するには、このアプローチが1番効果が高いと実証されているからです。気候変動は着実に進んでいますから、一刻も早く商業化を実現させたいと考えています。
質問:核融合発電が商業化されたら、太陽光発電や風力発電は不要になりますか?それとも、核融合発電は太陽光発電や風力発電を補強する位置付けになるのでしょうか?
マムガード氏:核融合発電は、他の再生可能エネルギーを補強するものです。エネルギー市場は人類史上最大規模を誇りますが、今後は発電の仕組みを根本から変革しなければなりません。難しい挑戦ですが、エネルギー移行を実現するにあたり、避けては通れない道です。
今ある技術を総動員して再生可能エネルギーの普及化を進めていく必要があります。太陽光発電や風力発電は 完璧ではありませんが、化石燃料を燃やし続けるよりはずっと良いでしょう。エネルギー問題を解決するまで、気候変動の解決はあり得ません。
核融合エネルギーは資源の抽出が不要で、二酸化炭素や放射性廃棄物を排出せず、小さな発電所で膨大なエネルギーを生成することができる脱炭素エネルギーです。エネルギーミックスの中でも非常にユニークな特色を持っています。
マムガードさんは、2030年代初期までに核融合発電の商業化を目指すとおっしゃいましたが、その目標の実現に向けた次のステップは何ですか?
マムガード氏:当初の目標はHTSマグネットを開発し、その有効性を実証することでした。2021年9月にその目標を達成したので、次はSPARCの建設と稼働を目指します。SPARCは、HTSマグネット技術を搭載した初のトカマク装置です。これで正味のエネルギー生産の実証に成功すれば、核融合発電に必要な臨界プラズマ条件と自己点火条件を達成した世界初のトカマク型核融合炉になります。SPARCは、商業化の実現の目安となる「消費量の10倍のエネルギー」を生成するよう設計されており、2025年に完工する予定です。
SPARC自体はエネルギーグリッドに接続されませんが、もうひとつ、ARCと呼ばれる世界初の核融合発電所の建設が予定されています。
SPARCの建設はすでに着工しており、2025年に操業開始を予定しています。SPARCを通じてプラズマ物理学やトカマク装置などの技術面の理解を深め、発電所の建設やコストに関する実践的な経験を積むことで ARC(商業核融合炉)も自信を持って建設できるはずです。SPARCの実際の稼働を通じて核融合発電所の操業やコスト、送電網への接続などにおける専門知識を蓄積し、2030年代初期までにARCを稼働したいと考えています。
ファディさん、こうした目標を踏まえ、今後数年でCFSに最も期待していることは何ですか?
ファディ:当社では、今後の展開を非常に楽しみにしています。
CFSの取り組みを積極的に支援し、核融合エネルギーの商業化を共に推進していければと思います。当社にとって、これは単なる利益目的のベンチャービジネスではありません。
JIMCOの新たな方向性を位置付ける重要な事業であり、今後のエネルギー産業や社会を大きく転換するきっかけになることを願っています。
マムガード氏:核融合発電に向けた取り組みは、すでに着々と進んでいます。我々も、今後がとても楽しみです。必ず成し遂げられる自信があります。これまでも野心的なスケジュールを掲げ、懐疑的な見解を覆して目標を達成してきました。今後もこの勢いに乗り、更にパートナーを増やして、未来のエネルギーに向けた次のステージへの道を切り拓いて行きたいと思います。
[1]テスラ(記号:T)は、磁界の強さを表す磁束密度のSI組立単位。1Tは、磁束の方向に垂直な面1㎡当たり1ウェーバの磁束密度と定義されている。1T:SI基本単位:1kg・s−2・・A−1(=Wb・m−2)、記号:T、派生SI単位:1 T = 1 Wb/m2