逆境をいかに乗り越えるかによって本当の国力が問われるならば、サウジアラビアはまさに強大な力を持っていると言えます。2021年に入り、世界経済が新型コロナウイルス(COVID‑19)の影響でどん底に陥っていたとき、サウジアラビアの経済は後退ではなく回復に向かっており、その実力をすでに証明していました。

サウジアラビアの民間非石油経済を評価する同国の購買担当者指数は、2020年第4四半期に平均54.2となり、第2四半期の46.7、第3四半期の49.8から急上昇しました。さらに、12月には1年ぶりの高水準を記録しました。この空前の混乱の時代にありながら、GDPの減少は、IMFが当初予想した5.4%を大幅に下回ることが確実視されています。[1]

Saudi Purchasing Managers Index

このような再起力こそが、サウジアラビアが中東での偉大な成功事例である理由を明示しています。また、同国が世界の舞台での地位を高めるにつれ、景気回復を後押しする国民たちは、その起業家精神と勤勉さからもたらされた報酬を不動産の購入に当てるようになってきています。

人口動態の変化と展望の広がりを受けてサウジアラビアは、世界に注目される国として相応しい不動産革命を起こすべく、まさに一軒一軒の住宅の基盤作りに注力しています。

Saudi Vision 2030不動産は、同国の国家開発戦略である「ビジョン2030」の礎となっています。そこには、以下のように記載されています。「不動産産業はサウジアラビアの持続可能な開発を促進する上で重要な役割を果たしており、すべての主要なセクターにとって戦略的な生産要素となっています。

それはまた、多岐にわたる経済や社会の各分野で投資プロジェクトを立ち上げるための基盤であることに加え、収入を伴う雇用創出のための投資の重要なインセンティブでもあります」

「ビジョン2030」を推進する公的機関の一つであるInvest Saudi(インベスト・サウジ)は、不動産市場の成長は需要の高まりに支えられていると認識しています。サウジアラビアの人口は、他のGCC諸国のそれを大きく上回っており、最新の統計では初めて3,500万人を超えました。[2]興味深いことに、そのうちの半数近くが30歳以下となっています。彼らは若く、上昇志向が強く、自分の将来を保障するために、足元を固めたいと考えています。このような社会的・経済的変化は数十年前から進行中ですが、今後の10年間では世界平均を上回る人口増加が見込まれることから、この傾向がさらに続くものと考えられます。

Saudi Population Rates

これらの若くて意欲的な思考がもたらす効果は、すでに驚くべきスピードで現れています。「ビジョン2030」の大胆な目標に沿って、市町村・農村・住宅省(住宅省と市町村・農村省が最近合併して発足した省)では、2030年までに持ち家住宅率の70%以上の達成を目指していました。しかし、わずか4年間で新たに100万世帯以上が住宅を購入し、持ち家率は47%から60%へと大幅に上昇しました。[3]現在の傾向が続けば、サウジアラビアは、驚くべきことに予定よりも5年早く、2025年までに70%の目標を達成するという見通しが現実味を帯びてきています。

市町村・農村・住宅省と不動産開発基金は、この勢いを維持するための中心的な役割を担っています。[4]この統合組織は、国民に従来のように15年間も待たせることなく即時に不動産を取得する権利を与えることで、需要と供給のペースを事実上倍増させた「住宅プログラム」を成功させ、これを組織の礎とするでしょう。[5]

価値のある不動産戦略とは、単純に帳簿上の数字だけでなく、より微妙なニュアンスを含むものであり、サウジアラビアもその例外ではありません。立法側は、適切な場所に適切な種類が混合した住宅を推進することや、現在とは少し、あるいは大きく異なる可能性のある未来に相応しい住宅が建設されるように、慎重に対応を進めてきました。

最終的に70%の持ち家住宅率を達成するためには、民間部門の協力が欠かせません。そして民間部門にとっては、長期的な信頼が重要です。新型コロナウイルス(COVID‑19)が世界経済のルールブックを書き換えてしまったおかげで、現在は投機的な投資に適した時期とは言えないかもしれません。しかし、これまでのところ、サウジアラビアの不動産セクターは素晴らしい耐久性を見せています。世界的なパンデミックの発生も、その破壊力を持ってしても、この国の不動産ブームを止めることはできませんでした。

物件への情熱は揺るがず

国内の住宅市場は、この予想外の活況を反映しています。

リヤドでは、住宅価格が1.6%上昇して1m²あたり平均3,317サウジアラビア・リヤルとなったことが影響し、2020年第4四半期には不動産取引の総数が前年同期比で11%増加しました。[6]一方、ダンマーム都市圏では、アパートの販売価格が0.8%上昇し、1m²あたり2,930サウジアラビア・リヤルとなったことで、取引総額が3%増加しました。また、ジッダでは、同期間中、金融機関が承認した住宅ローンの件数が増加したことにより、住宅販売の件数と金額が、それぞれ17%と16%増加しています。

住宅ローンの使用は、2021年2月末までの12か月間で38%と急増しており、同月の新規物件契約数26,800件のうち約80%を住宅ローンが占め、約30億米ドルのビジネスとなりました。[7]サウジアラビア通貨庁(SAMA)によると、住宅ローンの総額は164億サウジアラビア・リヤルまで増加しています。[8]

商業を活性化するためにあらゆる戦術が取られており、投資省は2020年第4四半期に、前年比60%増の466件の外国人投資家向けライセンスを付与しています。そこには、情報通信技術 (ICT)、小売業、電子商取引、物流、製造業などの分野が含まれています。[9]このような措置は目に見える影響をもたらし、サウジアラビアの失業率は第3四半期の14.9%から第4四半期には12.6%に低下しました。

Saudi Unemployment Rates

 今後、国がパンデミックの影から抜け出すに従い、取引の増加に応じて住宅ストックも増加し、物件の供給が確保されると予想されています。

リヤドでは、既存の130万戸のストックに加え、2021年には約3万6,000戸の新設住宅が市場に登場する予定です。同様にジッダでは、現在の計83万8,000戸に加えて、1万2,000戸の新設住宅を見込んでいます。2021年第1四半期には、リヤドで約7,700戸、ジッダで約2,000戸の新設住宅が完成しました。[10]

中東・北アフリカ(MENA)諸国を拠点とする不動産顧問会社JLLは、ジッダの住宅セクターは地元の需要に支えられているのに対し、リヤドは地域のビジネスハブとして政府が推進しているという利点があることから、国際市場からの買い手が流入する可能性があると予測しています。

これは、政策立案側による奨励策が、現場の不動産パフォーマンスにどのように影響するかを示す例と言えるでしょう。

政策によって市場は新たな高みへ

不動産に対する進歩的なアプローチは、経済全体を支えることにつながります。機敏な政府は、変化する経済状況の中で、需要と供給を刺激する政策を確実に実施しなければなりません。

2020年10月、新型コロナウイルス(COVID‑19)による世界経済の大混乱の中、サウジアラビアは住宅用不動産市場から15%の基本付加価値税率を免除し、代わりに5%の不動産取引税を導入する政策を新たに導入しました。

不動産コンサルタント会社Knight Frank(ナイトフランク)の中東調査責任者であるファイサル・ドゥラーニ​氏は、この動きが「2020年の最後の数か月間、ビジネスの信頼性を向上させました… そして、不動産市場のすべての主要部門において、業績の好転に貢献しました」と述べています。[11]

付加価値税の免除は、民間企業のノウハウを活用し、建設をより早く、高品質かつ低コストで行うことを可能にする数ある施策のうちの一つでしかありません。

また、サウジアラビアでは、新規プロジェクトの開発を加速させるために、新しい2Dおよび3Dの建物モデルを採用するとともに、金融機関とデベロッパーとのマッチングや、ビジネス支援策や優先的融資の開始など、さまざまな試みが行われています。こういった動きは、今後ますます機敏性や流動性を持つ意欲的な労働層がもたらす将来の需要に対応していくでしょう。

どうしてそう言い切れるのでしょう? 国際経営開発研究所(IMD)によると、サウジアラビアはGDPの8.8%を教育に費やしており、これは世界平均の4.6%の約2倍にあたります。[12]このような大胆な投資は恩恵をもたらします。2017年の65歳以上の識字率はわずか62.4%でしたが、15歳から24歳の若者の識字率は99.3%でした。未就学の若者の数は、2016年の44,143人から2019年には15,343人にまで減少しています。[13]

これらの事実は、中長期的に不動産市場がさらに健全になることを意味しています。

課題に立ち向かい、チャンスを最大限に活かす

サウジアラビアの住宅不足問題は、その多くが低所得者層で発生しています。それゆえに、手頃な価格の住宅の供給は、今後10年間で国が成功するために必要な施策において重要な要素となります。

若年層の人口が増加する中、政策立案側は、どのような方法で手頃な価格の住宅を建設すれば、より多くの人々の生活に恩恵をもたらすことができるのかを検討しています。

サウジアラビアの「住宅プログラム」は、経験豊富なデベロッパーの不足や、既存の官民パートナーシップの少なさといった当初のハードルを乗り越え、他国の見本となるような成功事例として急浮上しています。

市場の急成長のために、いくつかの革新的なステップが取られています。Sakani(サカニ)のようなオンラインプラットフォームの登場により、民間の不動産デベロッパーとのパートナーシップが促進されました。一方、National Housing Company(不動産開発公社)とEtmam Center(イートマムセンター)の設立により、デベロッパーは総合的なデジタルプラットフォームを使って市場をナビゲートすることができるようになりました。また、「開発型住宅」プログラムでは、最貧困層への供給不足を解消するために、非営利セクターと協力して350を超える住宅コミュニティ協会を設立しました。

同時に、中央の規制機関として「不動産総局」が発足したことで、法制面での環境も大きく改善されました。

では、次のステップは? 「ビジョン2030」によると、「住宅プログラム」では、持ち家住宅率の向上を継続するべく、「最貧困層に引き続き焦点を当てながらも、さまざまな経済状況下での住宅部門の安定性と持続性を支えるために、民間資本による投資の魅力を高めていく」としています。[14]

70%の持ち家住宅率という目標に向けて、このような経済的に多様な国では、一律のアプローチは考えにくいものです。その代わり、プランナーや調査担当者は、地域によって異なる「購入能力」という言葉が意味するところや、売買物件や賃貸物件の適切なバランスを見極めなければなりません。

成功する解決策(またはいくつかの解決策の組み合わせ)は、国の政策目標と現地の市場力学を調和させ、良質なデベロッパーを確保するための教育や承認基準を法制化し、民間投資の商業的現実に対応するものでなければなりません。

これは大胆な野望ですが、Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)の意欲的な不動産開発が物語っているように、実現不可能なことではありません。

不動産革命の鍵を握るのは

好景気と急速な人口増加により、住宅の需要が高まっています。

Abdul Latif Jameelの歴史を振り返ると、「土地・不動産」部門の活動は当初、自社企業向け不動産プロジェクトの開発と供給、および中核事業の成長と拡大を支援することに重点が置かれていました。部門がこれらの目標を達成し成功を収めた結果、2012年にAbdul Latif Jameel Land(アブドゥル・ラティフ・ジャミール・ランド)が設立され、2013年には、私たちがサービスを提供する地域社会で、暮らしやすいライフスタイルの構築に努めるべく、サウジアラビアの不動産市場に正式に参入しました。

政府が民間企業と協力してサウジアラビア国民のマイホーム取得を支援する「ビジョン2030」に沿って、現代的な地域ライフスタイルを備えた高品質の住宅開発に特化した事業を展開し、手頃なコストで豊かな住宅生活を送る、すなわち「手の届く贅沢」という価値を市場に提案しています。

最近では、Abdul Latif Jameel Landは、質の高い住宅所有の普及を目指し、より住宅に特化するため優先順位を変化させてきました。

私たちの住宅開発チームは、2025年までにサウジアラビアで330万戸の住宅が不足するという予測に対処すべく、完成または進行中のプロジェクト(アパート、一戸建て、タウンハウスなど)の供給を進めています。

その代表的なものが、ジッダの北西に位置する警備付き居住区域「J|ONE Residences」で、65,000m²の敷地内に1~4ベッドルームのアパートメント242戸が建設されています。2019年に発売されたこの環境にやさしい住宅には、スポーツジム、映画館、プール、保育所、店舗などの施設が備わっています。

ALJ Properties Gallery N exteriorまた、ジッダ市内の国際的エリアであるアル・ナフダ地区の中心に位置し、学校やショッピングモール、市場にも近い3〜4ベッドルームのアパートメント街、Gallery Nも完成しました。

5,200m²の敷地に建てられた6階建ての建物は、熱の吸収を最小限に抑えるための屋上緑化スペースや、日中の光を遮るための居住空間内のスクリーンなど、環境への配慮がなされています。

これらの成功に続き、私たちはジッダのサラマ地区に158戸のファミリー向けマンション「Dari Q」の建設を進めています。このプロジェクトは、統合されたライフスタイルの理念に基づき、住民専用の公園、プール、遊び場、90人までのゲストを収容できるダンスホールが備わっています。

Dari Qでは、2つの建物が4つの独立した区画に分かれており、また13種類の異なる間取りは、さまざまな家族構成や好みに合わせて設計されています。

ALJ Properties Gallery N overview

この「手の届く贅沢」というアプローチは潜在的な顧客に好評となり、その結果、世界的なパンデミックの危機下にもかかわらず、Dari Qの80%以上が完成前に販売されました。

Abdul Latif Jameel会長兼CEOのモハメッド・アブドゥル・ラティフ・ジャミールは、Dari Qについて次のように述べています。「サウジビジョン2030で特定されている住宅開発と住宅所有の目標を引き続きサポートしていく中で、また市場での住宅需要に対する地域社会重視のソリューションの提供に引き続き取り組むうえで、弊社が誇りをもって成し遂げたもう一つの歩みといえます

J | ONEとDari Qの成功に続き、Dari IIの販売は、市場における主要デベロッパーに向けての確実な一歩を踏み出すことになります。住宅用不動産デベロッパーとしての新しい方向性が確立された今、より適切な新しい名前でビジネスを再スタートさせることがこの意欲を表明しています。そして、2021年後半には、「Abdul Latif Jameel Properties」(アブドゥル・ラティフ・ジャミール・プロパティ)として新たに生まれ変わります。今回の社名変更は、コアビジネスの再活性化を強調するために、また75周年記念の一環として行われたものです。

地主から活動的なデベロッパーへと変貌を遂げ、サウジアラビアの住宅所有者と入居者の生活の質を高めることを目指しています。

ALJ Properties Dari II construction
Dari IIの建設予定現場。

また、新しいデジタルの世界では、「プロップテック」の可能性を大きく発展させ、将来的にこの分野に進出することも視野に入れています。

ファディ・ジャミール
副社長兼副会長
Abdul Latif Jameel

Abdul Latif Jameel副会長兼副社長のファディ・ジャミールはこう述べています。「新型コロナウイルス(COVID-19)の混乱から脱し、生活が軌道に乗るにつれ、国家としても企業としても、現代社会に適した不動産インフラの確保に再び力を注ぐことができるようになりました。」

「つまり、現代的な生活スタイルを反映したデザインの住宅です。環境を破壊するのではなく、補完する住宅。これまで以上に多くの人が夢を持てるように、手頃な価格帯の住宅を提供しています。成長著しい若くて進取の気性に富んだ人々にはわかっているように、適切な場所に適切な家を建てることで、より良い生活を送ることができます。つまり、家族という概念だけでなく、より広いコミュニティという概念の中心となるのです。」

しかし、環境への配慮も必要です。地球上で水に次いで最も多く消費されている人工物であるコンクリートは、セメントを主成分としています。

何十年もの間、私たちの建築環境の多くを形作ってきたこの物質は、大量の二酸化炭素を排出します。セメント業界を国に例えた場合、この業界は中国、米国に次ぐ世界第3位の排出国となります。シンクタンクのChatham House(チャタム・ハウス)によると、この業界のCO2排出量は約8%にのぼり、航空燃料(2.5%)よりも多く、世界中の農業ビジネス(12%)に及ぶ勢いとなっています。これは、業界が直面しなければならない多くの問題の一つです。ファディはまた、次のように述べています。「より良いものを作り直すために、代替材料や材料の生産方法など、建築プロセスを脱炭素化するための新しい技術や手法を、不動産や建設の現場で積極的に模索しています。これらの技術が十分に成熟した暁には、将来の住宅開発プロジェクトにいち早く採用したいと考えています。」

未来は私たちが作るものです。まさに、Abdul Latif Jameelのような民間部門のリーダーが、増加し続ける人口が望むような住宅設備を提供することで、この国の可能性を引き出すことができると言えるでしょう。

 

[1] https://www.knightfrank.com/research/article/2021-02-28-saudi-arabia-real-estate-market-review-q4-2020

[2] https://saudigazette.com.sa/article/607239

[3] https://www.vision2030.gov.sa/v2030/vrps/housing/

[4] https://english.aawsat.com/home/article/2766096/king-salman-orders-merging-ministries-housing-municipal-and-rural-affairs

[5] https://www.vision2030.gov.sa/v2030/vrps/housing/

[6] https://www.knightfrank.com/research/article/2021-02-28-saudi-arabia-real-estate-market-review-q4-2020

[7] https://www.thenationalnews.com/business/property/saudi-arabia-s-property-market-shows-signs-of-post-covid-recovery-1.1217822

[8] https://www.jll-mena.com/content/dam/jll-com/documents/pdf/research/emea/mena/jll-mena-real-estate-market-overview-ksa-q1-2021.pdf

[9] https://www.thenationalnews.com/business/property/saudi-arabia-s-property-market-shows-signs-of-post-covid-recovery-1.1217822

[10] https://www.jll-mena.com/content/dam/jll-com/documents/pdf/research/emea/mena/jll-mena-real-estate-market-overview-ksa-q1-2021.pdf

[11] https://www.constructionweekonline.com/business/272161-improved-business-confidence-drives-ksas-post-covid-real-estate-recovery

[12] https://www.arabnews.com/node/1503356/business-economy

[13] http://uis.unesco.org/en/country/sa

[14] https://www.vision2030.gov.sa/v2030/vrps/housing/