すべての人々の可能性を讃える

この10年間で、職場における人口割合は大きく変化を遂げました。世界中の組織が、ジェンダーの多様性は単に平等性の問題ではなく、競争上の優位性に関わる問題であることを認識するようになったからです。
リーダーシップ職に就く女性の増加は、現代の企業文化におけるもっとも顕著な変化のひとつです。しかし、今年も3月8日に祝された国際女性デーなど、評価に値する取り組みはあるものの、その足並みは揃っていません。着実に進歩し、女性の地位の新たなベンチマークがあらゆるレベルで確立されつつあるセクターや地域がある一方で、古い枠組みに固執し、個人の可能性や組織の成功を妨げる旧態依然とした世界も残っています。
ますます複雑になるこの世界でビジネスの舵取りを迫られるなか、事実ははっきりしています。ジェンダーの多様性を歓迎する企業は、パフォーマンスに優れているだけでなく、イノベーションを加速させ、より賢明な決定を行い、今後の課題に対応する態勢が整っています。しかし、真のジェンダー平等は善意だけでは実現できません。職場の文化とリーダーシップの根本的な再定義が必要です。
世界的に見ると職場の女性の割合は平均で約40%ですが、この数字には大きな格差が隠れています[1]。
先任権の観点から見れば、平等を実現するにはいまだ多くの課題があります。世界的に見て、CEOの役職に就く女性の割合は、エネルギー業界(2%)や金融業界(5%)、フィンテック(7%)、医療(8%)、そしてFortune 500社(11%)まで、全セクターにわたり20%未満とされています[2]。
違うことの強み
複雑に絡み合う今日の世界で成功を収めるには、実にさまざまなスキルや視点、人生経験などをつなぎ合わせて統合し、相互に組み合わせ、総合的にうまく活用することが 必要です。ビジネスのイノベーションを支えるためには他にどうすべきか? 技術的なブレークスルーを起こし、未来のリーダーを育て、成功のニュースを現実のものとするには、何が必要なのか?
単一的な文化を推し進めることは、貴重なインサイトや機会を失うことを意味します。何よりも、より公平でより環境に優しい、より繁栄する未来へ、一丸となって進む機運を失うことにもなります。
Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)は、この未開拓の可能性を強く意識し、人材に対する包括的なアプローチを積極的に採り入れています。当社では、全社的にすべてのレベルにおいて一連の管理職に女性が就いています。先頭に立って指揮を執る彼女たちの熱意とアイデアが、ビジネスをさらに豊かなものにしています。
例えば、上級法律顧問のレイチェル・サンド、Bab Rizq Jameel(バブ・リズク・ジャミール)およびNafisa Shams Academy(ナフィサ・シャムス・アカデミー)副マネージングディレクターのメイ・オマ・タイバー博士、人材採用部門長のモナ・アフメッド・アル・サハフィ、そしてグローバルブランド・コミュニケーション、コーポレートマーケティングのシニアゼネラルマネージャー、リンゼイ・ジョンストンなどが挙げられます。
レイチェルは、多様性と包括性を重視する当社の姿勢が彼女自身の価値観と深く響き合うと言います。「多様性は当社の大きな強みのひとつと言えます。Abdul Latif Jameelの新世代の女性リーダーの1人であることを嬉しく思いますし、私たちはさらにインクルーシブな職場を推進していると感じます」
メイは、当社のキャリアの成長と開発への取り組みを高く評価しています。「起業家の支援であれ、新たな戦略の開発であれ、あるいは製造などの新たな領域への挑戦であれ、会社が継続的な学びとキャリアの成長を後押ししてくれます」
モナは、Abdul Latif Jameelの能力ベースの文化が自身のキャリア形成に大きな影響を与えていると話します。「やりがいのあるプロジェクトに参加するチャンスを与えられ、それが全社にわたって女性の機会を拓くことになりました。これは私のAbdul Latif Jameelでのキャリアにおいて、もっとも成功を収めた取り組みとなりました」
一方、リンゼイは「これほど多くの世界市場と幅広い業界セクターで事業を展開する組織で働けることを幸運に感じます」と話します。
彼女たちやその他大勢の女性リーダーが、「Abdul Latif Jameelは自身のポテンシャルを体現できる場である」という当社の信念を体現しています。
グローバルな多様性
もちろん、多様性はジェンダーよりさらに根本的な問題です。創設以来80年の間、Abdul Latif Jameelは真にグローバルな展望を推進してきました。
今日、Abdul Latif Jameelは中東、アジア、アフリカ、欧州、オーストラリア、南米における40ヶ国以上で事業を展開しており、約1万1,000人の社員の国籍は80ヶ国以上に及びます。
複数の文化で成功を収めている地域的な事業運営は、地域コミュニティに対する深い理解と敬意により支えられています。
これらの異種企業をひとつに結束させるものは何でしょうか? それは、より美しい明日に向けてともに力を尽くし、よりよい未来を形づくるという共通の目的です。
それを実践するHRのインクルーシブな取り組みは、倫理的な意味だけでなく、財務的にも意味があるものです。
多様性による恩恵:インクルーシブなチームは競合を凌駕する
多様性に関する確固たるビジネスケースが研究により明らかになっています。ある研究では、世界の数百の企業からの包括的なデータにより、いくつかの重要な考察がなされています[3]。
- ジェンダー、年齢、地理的出自などの構成が「インクルーシブである」と分類されるチームは、均一的なチームより87%の確率でよりよい事業決定を行える
- ジェンダーの多様性があるチームは、個人よりも73%の確率でよりよい決定を行える
- インクルーシブなプロセスを構築しているチームは、狭い体制内でオペレーションを行うチームより2倍早く決定を行える
- 「多様性がある」とされるチームによる決定とその実施は、経時的に60%よりよい結果を導ける
「バイアスによって意思決定が逸脱することが明らかになっています」と、ハーバード・ビジネススクールのフランチェスカ・ジーノ教授は言います[4]。「脳に仕掛けられたバイアスを変えることは難しいですが、意思決定チームの構成を設計することで、決定が行われる環境をより多様性のある視点に変えることは可能です」
分析により、ジェンダーの多様性がある経営陣として上位4分の1に位置する企業は、ジェンダーの多様性が下位4分の1の企業に比べ、平均収益が25%上回る傾向があることが明らかになっています[5]。
この差異は、時間とともにより顕著になっています。わずか10年前の2014年には、ジェンダー多様性のある経営陣の収益優位性は15%でした。
文化的、人種的多様性に関しては、データはさらに説得力を増します。収益性の観点では、文化的、人種的多様性が上位4分の1に入る企業は、下位4分の1の企業より36%上回ります[6]。
これらの有力なエビデンスにも関わらず、世界的にインクルーシブな意思決定を推進するにはまだ多くの課題が残されています。
典型的な大企業では、重要な戦略選択決定の約38%がいまだに男性のみのチームで行われています。テクノロジーなど多様性の少ないセクターでは、意思決定力を持つチームに女性が1人でも含まれるケースは半分未満です[7]。多様性ある労働力を擁する企業は、イノベーションによる恩恵も大きくなります。
論理上、異なる背景を持つ従業員は、より国際的なスキルと問題解決能力を提供できます。
データによると、多様性あるチームではイノベーションの可能性が80%以上高まります[8]。
また、多様性あるチームを擁する企業は、顧客基盤に対するよりよい理解とその構築が可能です。インクルージョンへの進歩的な態度を示すことが、効果の高いマーケティング戦略になります。研究によると、購買決定を行った全顧客の約半数が、企業による公平性へのサポートにある程度の影響を受けています[9]。
また多様性は、ハイレベルな人材の採用にもきわめて重要です。求職者の76%が、多様性は重要な要素であると回答しているからです[10]。
多様性は仕事満足度と相関するため、社員の維持率においても重要な要素です。社員を維持できれば、コストのかかる採用と研修の必要性が減ります。これらをはじめさまざまな理由により、Abdul Latif Jameelでは長年、人材採用プロセスにおいてジェンダー、人種、文化に囚われない手法を採用しています。
社員全体に浸透する「インクルージョン」
国内的にも国際的にも、Abdul Latif Jameelはオープンで透明性と多様性のある職場環境の創出に尽力しています。同僚も私自身も、すべての人々が公平に認められ、キャリアを追求しながら個人の可能性を拓いていける文化を望んでいます。
Abdul Latif Jameelは、能力主義を貫いています。コミットメントと成功にはもちろん報酬が与えられます。
重要なこととして、そういった機会は性別や宗教、学籍や国籍に関係なくすべての社員に開かれています。
事業創設者のアブドゥル・ラティフ・ジャミールによりまとめられ、現在は現会長のモハメッド・ジャミール、KBEにより掲げられている4つの基本原則、すなわち尊重、改善、パイオニア、エンパワーの原則に従った、社員中心の組織であることを私たちは誇りに思います。
この多様な事業基盤全体に基準を調和させるために、HR専門センターを設け、全世界でチーム構築に関する原則のベストプラクティスを実施しています。
「私たちのビジョンの大部分を占めているのは、すべての人々が受け入れ、実践できる、事業全体で一貫した文化を構築することです」と、企業人事・改善専門センター長のマリアナ・メリノは説明します。「文化は部署やチームごとではなく、社員全体で共有されるものです」
女性のためのさらなる機会を創出することは、重要な戦略的目標です。[11]
現在、女性のリーダーシッププログラムを開発し、コーチングやメンタリングを実施して、より多くの女性社員の管理職登用を支援しています。
全社的なジェンダーの比率の公平化を目標に、一連のKPIを導入して効果を測定しています。
この戦略は、当社の本拠地であるサウジアラビアの人口割合の変化とも合致しています。同国では、2016年から2022年の間に女性の職場参加がほぼ倍増しています[12]。
この変化の大部分は、教育の向上と出生率の低下、そしてよりインクルーシブな文化的環境になったことによるものと言えます。
女性の才能の解放は、女性のエンパワーメントと若者のエンゲージメントを目標のひとつに据えるビジョン2030プログラムとも合致する形で、2032年までに同国の経済を390億米ドル(3.5%)拡大すると期待されています[13]。
若い世代の人々に転機となる機会を提供することで、労働力のさらなる多様性を求めていきます。1994年以来、米国のMITと連携して実施するジャミール・トヨタ奨学金プログラムは、27ヶ国からの200名以上の若者が実業界や学術界でキャリアを築くことを支援しており、MITのメリッサ・ノーブルス総長は「人生を変える」機会であると述べています[14]。
さらに、Jameel Energy(ジャミール・エネルギー)の傘下にあるFotowatio Renewable Venturesz(FRV/フォトワティオ・リニューワブル・ベンチャーズ)は、スペインのInstituto de Empresa Universityで才能ある若きリーダー奨学金プログラムを運営し、新興市場におけるFRVの持続可能な開発の近隣地域に居住する学生を支援しています。他にも、ジャミール・ファミリーの社会貢献活動であるCommunity Jameel Saudi(コミュニティ・ジャミール・サウジアラビア)は、サウジアラビアでBab Rizq Jameelを運営しています。「繁栄へのゲートウェイ」という意味を持つBab Rizq Jameelは、人々と仕事を結びつけ、若い世代が経済的自立の機会を得られるよう支援しています。
多様性のすべての例において、恩恵の対象はそれに関わる個人を超えています。包括性とは、公正性というような単なる概念ではありません。最近では、能力主義の包括性は、議論の余地なく進化と成功の前提条件です。
人材はあらゆる場所に
ある人々にはその才能が評価されていると示す一方で、他者のインプットが黙殺されるようなシステムにおいて、チャンスを逃しているのは誰でしょうか? 結局、それは私たち全員なのです。損失は、上層部から締め出される女性たちやその他マイノリティの人々を大きく超えて、企業全体と社会全体に及びます。
総合的な世界観を持った経営陣は、狭い視点のライバルたちより遥かに優れたかたちで自ずと潮流を予測し、顧客を代弁します。女性のリーダーが真の資産であることは、効果的な意思決定と商業的なパフォーマンスの間に95%の相関関係が認められるという研究により示されています[15]。決算期になれば、最終収益が自ずとそれを物語ります。
人口に幅広く存在する才能を逃し続けるわけにはいきません。地球温暖化、資源の枯渇、AI、将来的なパンデミックなど、予見される多くの脅威が迫りつつあります。それに対抗するには、かつてないレベルの知的リソースの集積が必要となります。Abdul Latif Jameelは、才能と先見性はどこにでも現れうることを認識しています。それらの優れた人材を見つけ出し、人々の可能性を可能な限り引き出す機会を提供することが私たちの使命です。
[1] https://www.qualtrics.com/blog/countries-ranked-by-female-workforce/
[2] https://www.holoniq.com/notes/the-2024-global-state-of-womens-leadership
[3] https://www.forbes.com/sites/eriklarson/2017/09/21/new-research-diversity-inclusion-better-decision-making-at-work/?sh=267e29904cbf
[4] https://www.forbes.com/sites/eriklarson/2017/09/21/new-research-diversity-inclusion-better-decision-making-at-work/?sh=267e29904cbf
[5] https://www.mckinsey.com/featured-insights/diversity-and-inclusion/diversity-wins-how-inclusion-matters
[6] https://www.mckinsey.com/featured-insights/diversity-and-inclusion/diversity-wins-how-inclusion-matters
[7] https://www.forbes.com/sites/eriklarson/2017/09/21/new-research-diversity-inclusion-better-decision-making-at-work/?sh=267e29904cbf
[8] https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/au/Documents/human-capital/deloitte-au-hc-diversity-inclusion-soup-0513.pdf
[9] https://www.fdmgroup.com/news-insights/diversity-for-business-performance/
[10] https://www.glassdoor.com/blog/diversity/
[11] https://alj.com/en/perspective/a-place-to-realize-your-potential/
[12] https://alj.com/en/perspective/developing-tomorrows-leaders/
[13] https://www.vision2030.gov.sa/en
[14] https://www.communityjameel.org/programmes/jameel-toyota-scholarship
[15] https://hbr.org/2010/06/the-decision-driven-organization