国連主導のパリ協定は、世界中の目をグローバル経済の「脱炭素化」の必要性に向けさせました。しかし、脱炭素化とは何を意味し、またそれは実現可能なのでしょうか?

アブドゥル・ラティフ・ジャミール副大統領兼副会長のファディ・ジャミール。

簡単に言えば、脱炭素化とは、世界の経済活動における温室効果ガスの排出量の削減、さらにはより高い目標である廃絶のことを言います。温室効果ガスには、主に二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、その他が含まれます。

パリ協定に基づく目標は、世界の温室効果ガス(GHG)排出量を1990年の量の半分に減らすことです。この困難な目標を達成するには、人間の活動によって排出される温室効果ガスの量を、ネットゼロエミッションを目標として、今世紀末までに、木や土壌、そして海洋が自然に吸収できるレベルまで減らす必要があります。

それはすぐに実現可能な変革ではありません。世界気象機関(WMO)による最近の研究によると、過去5年間(2015-2019年)に記録された気温が過去最高となっており、気候変動が加速しています。[1]

同時期に、CO2 排出量は過去最高を記録するほどに増加し、同時に海面が大幅に上昇しました。実際、 一流の科学者とジャーナリストで構成される 独立系非営利組織であるクライメートセントラルが、最近が発表したデータによると、2050年までに最大3億人が毎年洪水に見舞われるようになり、2100年までにはその数が6億4,000万人に達する可能性があるとのことです[2]

脱炭素化はどの程度達成可能であるか?

当然のことですが、気候変動の緊急性と重大性を考えるならば、グローバルな脱炭素経済への移行には膨大な変化が必要であり、私たちの経済と社会に大きな影響を与えます。

政府は、質の高い、より持続可能な職業への移行を可能にするために、全産業の労働力の再スキル化を優先して行う必要があります。これには、中央政府、そして同様に企業の先見性、投資、コミットメントが必要です。

公共支出と経済政策は、脆弱な低所得消費者(例えば、すでに燃料貧困にある人々)が脱炭素化措置による影響を、他の人よりも不釣り合いに大きく受けることがないよう保証する必要があります。

国の成功の定義を見直す必要があるかもしれません。この新しい脱炭素化の世界において、例えば、絶え間ない前年比のGDP成長は本当の意味で成功を示すものでしょうか?

困難な課題とは?

GHGの最大の排出源は、石炭、天然ガス、石油製品などの化石燃料の燃焼です。これらの燃料は、輸送、製造、建設、家庭での使用、企業向けに世界的に使用されるエネルギーの85%を提供しています。

状況は世界中で大きく異なりますが、一部の業界は、化石燃料へのこうした依存への取り組みにおいて、すでに勇気づけられるような進歩を遂げています。一方、真の進歩を遂げるには、本腰を入れて取り組む必要がある業界もあります。

緑の力

脱炭素化の議論の中心にあるのは電力部門です。化石燃料の約3分の1は、石炭やガスによる火力発電所の発電に使用されており、この数字を削減するには、より低(またはゼロ)排出ガスの発電所をできるだけ早く立ち上げて稼働させる必要があります。

多くの先駆的な国々は、すでに何が可能であるかということを示してくれています。たとえば、コスタリカは2019年のほとんどの期間、すべての電力を再生可能エネルギー源から生成しており、2021年までに完全にカーボンニュートラルにするつもりです。また、アイスランドの電力は2015年以降、ほぼ100%が地熱エネルギーなどの再生可能エネルギーから生み出されています。スウェーデンは、豊富な水力発電を持つことから、同国のエネルギーミックスにおいて再生可能資源は52%のシェアを達成しています。

オーストラリアも大きな進歩を遂げました。同国の再生可能エネルギープログラムは大きな成功を収めており、今後3年間で温室効果ガス排出の予測されている4%削減に寄与するでしょう。Abdul Latif Jameel Energyの一翼を担うFotowatio Renewable Ventures(FRV)は、そうした達成において重要な役割を果たしていることを誇りを持って申し上げます。FRVはオーストラリアの6つのソーラープロジェクトに関与しており、2012年から同国の再生可能エネルギー分野に7億米ドル以上を投資しています。

もう1つの主要な再生可能エネルギー源である風力発電も、発電において、すでに世界中で多大な貢献をしており、脱炭素化アジェンダの一環として、一層の貢献が期待されます。

IRENAの最新データによれば、陸上および洋上に設置された世界の風力発電容量は、1997年の7.5ギガワット(GW)から2018年までに約564ギガワットに跳ね上がりました、これは過去20年間で約75倍の増加となります[3]

過去には、タービン自体の性能によって、風力発電プラントの効率に限度がありました。しかし、より強力なタービンとO-Wind Turbineのような革新的な技術が、風力発電を新たな高みに引き上げる可能性があります。O-Wind Turbineは、幾何学的な通気口を固定軸上にもつ球体として設計されており、風がどのような方向から吹いても当たると回転し、従来のタービンのように風に変換する必要はありません。予測不能な風洞効果により従来のタービンでは効果が発揮できない都市や市街地に理想的であり、また、脱炭素化を成功させるならば、不可欠である革新的な考え方のようなものを凝縮しています。

ストレージの課題の解決

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー源は脱炭素経済の中核をなすものですが、完全な解決策ではありません。風が吹かなかったり、日が照らなければ、最も効率的な発電所でさえエネルギーを生み出すことは至難の業です。

昨今の最も胸躍る技術的進歩の1つである分野は、脱炭素化の取り組みにおける大胆な変革を実現できる可能性があります。それは、産業規模での分散型バッテリーストレージ(蓄電池)です。

つまり、環境条件が太陽光発電および風力発電に適さないときに、バッテリーが自動的に介入し、蓄電された再生可能エネルギーを放電し、常に配電網への中断されない電気供給を維持することを意味します。

チリは先駆的なFRV開発を行っており、脱炭素化の促進においてバッテリーが持つ可能性の実証を先導しています。540 GW/hのハイブリッド太陽風エネルギープロジェクトには、蓄電機能が統合されているため、気象条件に関係なく、年間無休で再生可能な電力供給が可能です。

同様のイノベーションが、世界中で再生可能エネルギープロジェクトの持続可能性に変革をもたらしています。これには日本の北海道で建設中の、25MW/hのリチウムイオンバッテリーを備えた出力規模92MWの太陽光発電所が含まれます。[4]

常に歩み続ける

航空機、貨物、列車、自動車など、あらゆる種類の輸送システムも、正味のCO2排出のもう一つの主な要因です。例えば、輸送はEUのGHG排出量の約72%を占めています[5]。しかし、ここでの進展も勇気づけられる状況があります。

世界中の各政府は、すでに、乗客と貨物を低炭素排出量の輸送モード(鉄道、バス、船舶など)に移行し、化石燃料を低炭素電力、水素、合成燃料などのより持続可能なエネルギー源に置き換えようとしています。

現在は、超低排出ゾーン(ULEZ)はロンドン中心部において年中無休で施行されています。トラックやコーチなどの非ULEZ準拠車両のドライバーは、2025年までにロンドン中心部を「ゼロエミッション」ゾーンにする計画により、多額の罰金を支払わなくてはならなくなります。同様に、パリとローマでは、平日は高汚染車の路上乗り入れを制限しており、2024年までには両都市で全面禁止が計画されています。世界中の多くの都市が同様のスキームを実施または検討しています。

電気自動車(EV)とハイブリッド車は、脱炭素化モビリティシステムへの移行において重要な役割を果たします。国際クリーン交通委員会によると、道路上には世界で約500万台のEVがあり、そのうち約200万台が2018年に販売されました。この数字は、世界の乗用車の年間販売台数(約9,000万台)に占める割合でみると、依然として比較的小規模ですが、急速に増加しています。

トヨタ、テスラ、およびアブドゥル・ラティフ・ジャミールが主要な投資家であるリビアン(RIVIAN)といった企業が、グローバルレベルでハイブリッドと電気自動車の境界線を押し広げ続けています。EVは2024年までに全新車販売数の10%を占めるようになると予測されており、全世界での販売台数は2020年には400万台、10年以内に2,100万台に増加する可能性があります[6]

パフォーマンスの向上、設計の改善、充電スタンドネットワークの急速な拡大、税制上の優遇措置、および競争力のある価格設定などを組み合わせることにより、EVは最終的に新車購入者のデフォルトオプションになると予想されています。

水素の活用

EVの人気の高まりは非常に勇気づけられるものですが、化石燃料を動力とする発電所で発電された電力で走るのであれば、二酸化炭素排出が削減されるのではなく、単に上流に移動するだけです。ここに水素が大きな役割を果たせる可能性があります。輸送だけでなく、産業および家庭用暖房もその対象となります。

課題は、水素製造自体の脱炭素化にあります。水素は、再生可能エネルギーを使用して電気分解により生成できますが、これはコスト的に高くつき、また膨大な量の再生可能電力が必要になります。一方、水蒸気メタン改質(高レベルの熱を使用してメタンを炭素と水素に「分解」する)により水素を生成する方が安価で、すぐに拡張が可能ですが、炭素排出量は多くなります。

これは、私たちが脱炭素化の未来に向けて取り組む中で、技術的に、かつ財政的に持続可能であるために綱渡りをしなければならない状況の典型です。

炭素の捕獲

現実的には、排出量だけを削減する場合、脱炭素化には数十年の年月がかかります。しかし、脱炭素化の旅を助けてくれるもう1つの重要なツールがあります。二酸化炭素回収貯留(CCS)を使用して大気中に排出される前に排出物を中和するものです。

CCSは、ネットゼロエミッションを達成する上で不可欠なものです。一部の発電所では、すでにCCSテクノロジーを使用して二酸化炭素排出量を「トラップ」しており、この技術は整備されていて今すぐ開始できます。

CCSプロセスは、CO2を廃棄物として処理するのではなく、それを商業的に実行可能な製品に変換します。他の化学物質を合成する原料、建設資材を生産する鉱物炭酸化反応の炭素源、またはバイオ燃料を生産する栄養素などが例として挙げられます。

この技術を産業規模で精製および開発するには、膨大な投資が必要になります。CO2が、単なる有害な廃棄物ではなく、価値ある製品に変えることが可能であると実証できれば、投資議論は突如としてずっと簡単なものになります。

より明るい未来のための選択肢

2050年にゼロエミッションエネルギーシステムに近づけることができるかどうかに影響を与える、今日決断できる多くの選択肢があります。それらの中には、現在のところ経済的に、あるいは政治的に実行可能ではないものがありますが、正しい選択を行うことは、最終的に経済を推進し、環境をh保護し、将来の社会を守る力となります。

それは綱渡りであり、これ以上高いリスクはありません。しかし、私たちはこうした選択を今、始める必要があります。気候活動家であるグレタ・トゥーンベリ 2018年の国連総会で次のように語りました:

「政治的に何が可能かではなく、何をする必要があるかに焦点を合わせることを始めるまで、希望はありません。」

[1] 2015-2019年の世界的な気候、WMO、2019年9月

[2] 洪水の未来、Climate Central、2019年10月

[3] 再生可能容量統計2019、国際再生可能エネルギー機関、2019

[4] 日本最大級のバッテリー併設型ソーラー発電所を北海道に建設予定、太陽光発電所事業、2017年9月6日

[5] 低排出モビリティのための欧州戦略、欧州委員会、2016年7月

[6] バッテリー式電気自動車:新しい市場。新規参入者。新しい挑戦、デロイト、2019年1月

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