Abdul Latif Jameel企業人事・改善部門 マリアナ・メリノとのQ&Aインタビュー

Abdul Latif Jameelは、常に「社員」を戦略的ビジョンの中心に位置付けてきました。しかし、ますます競争が激化し不確実性が高まるグローバル市場において、優秀な人材をめぐる競争も激しく、候補者も企業に高額な給与以上の待遇を求めています。Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)は35ヶ国に1万1,000名を超える社員を擁し、従業員の国籍は65ヶ国に及びます。

長期的な事業成功を図るには、エンゲージメントとエンパワーメントを通じて社員が可能性を最大限に発揮し、成長できる職場づくりが欠かせません。

今回は、企業人事・改善部門の専門センター長を務めるマリアナ・メリノ氏に、人材ファーストの経営信条とグローバル市場における人事の役割の変化について伺いました。

2021年にAbdul Latif Jameelに入社する前は、どのようなお仕事をされていたのですか?

私は、キャリアの中で一貫して人事に携わってきました。まず、出身地のスペインのマドリードで米国の多国籍企業に勤めた後、約10年前にアラブ首長国連邦に拠点を移して建設関連の多国籍企業に就職しました。

そこで4年ほど経験を積み、ドバイに本拠を置くコングロマリット(複合企業)に3年勤め、約2年前にAbdul Latif Jameel企業人事・改善部門の専門センター長に就任しました。

Abdul Latif Jameelに惹かれた理由は何ですか?

正直なところ、名前を耳にしたことがあるくらいで、詳しいことはほとんど知りませんでした。サウジアラビアを本拠に、多岐にわたる国際事業を展開している同族企業という程度の認識でした。しかし、この役職のお話をいただいてリサーチした時、そのビジョンや経営理念に深い感銘を受けたのです。Abdul Latif Jameel全体の人事開発・管理に携わり、組織変革に貢献できるところにも魅力を感じました。

私の職務が事業のあらゆる面に関わっていることにも興味を惹かれました。Abdul Latif Jameelは、社員に明確な焦点を置き、「リスペクト」「改善」「パイオニア精神」「エンパワーメント」のコアバリューを体現する社員ファーストの組織を目指しています。ただ、大企業にありがちなように、そこには理想と現実のギャップも存在します。私の課題は、業界トップクラスの適格な人事ポリシー、プロセス、プログラムを作成し、ギャップ解消を図ることです。

組織全体における専門センターの役割は何ですか?

人事専門センターの主な責務は、人事管理のベストプラクティスに基づいて、Abdul Latif Jameelの事業部門の標準化と調和を図ることです。

人事専門センターは、企業人事・改善部門の管轄です。人材計画、人材確保、人材管理、人材開発、トータルリワード、デジタル人事、M&A関連業務(M&A担当者のデューデリジェンスや合併・買収後のプロセス支援)など、さまざまな人事分野で構成されています。

私たちの目標は、組織全体で統合された一貫性のある人事エクスペリエンスを構築することです。サウジアラビアや中国のAbdul Latif Jameel Motors(アブドゥル・ラティフ・ジャミール・モータース)、スペインのAlmar Water(アルマー・ウォーター)、Abdul Latif Jameel Finance(アブドゥル・ラティフ・ジャミール・ファイナンス)のどこに社員が勤務していても、一貫した人事エクスペリエンスを実現することを目指しています。もちろん、地元の文化やコンプライアンスも考慮する必要があります。

現職に就かれて2年以上になりますが、これまで最も大変だったことは何ですか?

この2年は、実に多くの課題に直面しました。まず、最初に私たちが取り組んだのは、ビジョンの浸透です。目標を共有し、私たちの取り組みの目的や理由を 理解してもらう必要がありました。もうひとつは、インフラの構築です。目標を達成するために必要なエコシステムやテクノロジーを開発し、実用的なシステムを構築する必要がありました。

お仕事の一環に人事戦略の策定と実施が挙げられると思いますが、現在の進捗はいかがですか?

人事戦略の策定にあたっては、まずAbdul Latif Jameelの歴史と伝統を見直しました。Abdul Latif Jameelには、約80年の歴史と功績があります。ですから、これまでに培ってきた学びや気づき、ベストプラクティス、成功事例を整理し、Abdul Latif Jameelが過去にどう発展してきたのかを知る必要がありました。また、株主の抱負やビジョンに耳を傾け、組織としての戦略的目標を理解することも必要でした。

さらに、毎年恒例のCultivateアンケートをはじめ、さまざまなチャネルやツールを活用して社員のフィードバックを収集しました。このようにして得られた貴重な洞察を通じて、現状と改善点を把握し、理想と現実のギャップを特定していきました。同時に、世界の人事トレンドも幅広く参考にしました。このようにして、さまざまな情報をもとに人事戦略を策定し、その戦略を実現するための基盤づくりに着手しました。この基盤が完成するのは、2〜3年後になると考えています。それまでは戦略を毎年見直し、継続的な改善(「改善」)の精神の一環として、その時々の学びや気づきに応じて修正や適応を加えていく予定です。

私たちのビジョンは、社員全員が納得して実践できる、一貫した企業文化を醸成することです。企業文化は部署やチームに帰属するものではなく、社員が築いていくものだからです。Abdul Latif Jameelの事業部門に共通する企業文化を浸透させることは、企業人事・改善部門の重要な戦略的目標のひとつです。

拡大を続ける企業人事・改善部門のスタッフ(トルコ、イスタンブールでのオフサイト・カンファレンスにて撮影) 写真提供 © Abdul Latif Jameel

改善は、企業人事・改善部門において、どのような役割を果たしているのですか?

継続的改善は、すべての業務の根幹を成すものです。社員が職務を果たす上で不可欠な能力と考えています。現状を評価して問題やギャップを特定し、解決策を考えるのが改善アプローチです。それを各自の状況に応用できれば、エンパワーメントを通じて成長と学びを得ることができます。

改善の概念は、私たちの企業価値観からコンピテンシーに至るすべてに浸透しています。「反省して学ぶ」ことは、日常業務のあらゆる面に活かされています。

改善に関しては、実際に作業を行う現場のスタッフが率先して行う「ボトムアップ」アプローチが最善だと考えています。

つまり、大きな発明やイノベーションに頼るのではなく、現場で地道に小さな改善を積み重ねることで、大きな変革を生み出していくということです。

現在は、人口動態の変遷が労働市場に大きな変化をもたらしています。Abdul Latif Jameelなどのグローバル企業が採用で直面している主な課題は何ですか?

私たちが直面する大きな課題のひとつに、優れた人材の誘致と維持が挙げられます。これは、世界中の組織に共通する課題だと思います。昨今の労働市場のグローバル化に伴い、優秀な候補者をめぐる競争もグローバル化しています。この傾向は、技術職やエンジニア職、リーダー職など、特定の業種やスキルにおいて特に顕著です。こうした役職に最適な人材を見つけるのは非常に困難です。

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、採用を取り巻く状況はより複雑になりました。候補者が求める勤務条件や職場環境も変化しています。私たちも、在宅ワークを導入するためにテクノロジーを更新したり、社員の移動性に関して現地のコンプライアンスに対応する必要がありました。

文化の多様性も、継続的に取り組まなければならない課題です。Abdul Latif Jameelの社員の国籍数は65ヶ国に及びます。多様なコミュニティの中で事業を営むには、多様な文化を考慮しなければなりません。

人事部で勤務する中で、候補者が企業に求めるものはどう変化しましたか?

今の候補者は、採用プロセスに精通しています。会社について多くの情報を持っているため、要求も厳しくなっています。優秀な候補者が競合他社ではなく私たちを選んでくれるかどうかは、雇用主としてどのような価値を提案できるかにかかっています。ビジョンと経営理念を伝え、他社との違いを示すことが大事です。候補者の要求や期待値は上がっています。若い世代、特にZ世代やミレニアル世代の優秀な人材を誘致するには、従来とは異なる戦略が必要です。こうした世代は、キャリアアップ、フレキシブルな働き方、企業の社会的責任(CSR)、企業倫理、企業の目的などに強い関心を寄せています。

それが企業を選ぶ大きな判断材料になることもあるのです。

採用に関するもうひとつの大きな変化は、データ活用です。現在はデータドリブンなプロセスが普及しています。最新テクノロジーやAI、自動化ツールなどが導入され、候補者の募集や選別を素早く効率的に行えるようになりました。

Abdul Latif Jameelは、企業の社会的責任、多様性、平等性などの社会問題に対して強いメッセージを発しているのですか?

ええ。少なくとも、それを目指しています。私たちは、「リスペクト」「改善」「パイオニア精神」「エンパワーメント」の4つの価値観に沿って、組織と社員間の「相互信頼、相互リスペクト、相互責任」を人事方針に掲げていることを候補者に伝えています。

私たちの株主は、社会貢献を最優先事項と捉えており、共に社会的責任を共有する企業文化が根付いています。また、ジャミール・ファミリーは、Community Jameel(コミュニティ・ジャミール)Community Jameel Saudi(コミュニティ・ジャミール・サウジ)Art Jameel(アート・ジャミール)およびBab Rizq Jameel(バブ・リズク・ジャミール)など、さまざまな非営利活動や社会貢献活動を行っています。採用プロセスでは、こうしたことをメッセージとして伝えるようにしています。株主の社会貢献へのコミットメントに感激する候補者も多いです。社内ではそれを「美しい未来への取り組み」と表現しています。

一般的に、今の候補者は雇用主が求めるスキルを備えていると思いますか?

役職にもよりますが、特に若い新入社員の場合は、最初からオールラウンドに仕事をこなせるスキルは期待できないことを認識しなければなりません。社員が業務に必要なスキルを身につけるためのトレーニングや能力開発プログラムに投資しているのはそのためです。プラス面で言えば、若い人材は適応が早く、テクノロジーに精通している傾向があります。DX化に取り組むAbdul Latif Jameelのような企業にとって、そのスキルは大きなメリットになります。

多様な人材を誘致・維持することの重要性についてはどう思われますか?

職場の多様性を図ることは、重要な戦略的目標です。現在、女性のリーダー職への進出を促進するため、コーチングやメンターシップを含めた女性リーダーシップ開発プログラムを開発中です。また、職場のジェンダー平等にも力を入れています。こうした取り組みは、相互に助け合い、切磋琢磨する企業文化の一環として実施しています。

また、プログラムの成果の測定と投資対効果の評価を行うため、プログラム効果の追跡と監視を開始しています。現時点で結論を出すのは時期尚早ですが、すでに成功事例や改善点が見えはじめています。

その一例に管理職養成プログラムがあります。現在、目標に沿った効果があるかを測定するために、さまざまな関係者から継続的なフィードバックを受けているところです。管理職候補には、キャリアアップの促進を図るため、2年間のプログラムを通じて継続的なトレーニングや能力開発、コーチング、メンターシップを提供しています。実際にキャリアアップが達成できているかどうか、特定のKPI(重要業績評価指標)を設定して検証しているところです。

例えば、プログラム修了後に受講生がどのくらいのスピードで昇進しているかを確認します。2年以内に昇進できているか?といったことです。プログラムの効果を把握することで、目標に沿って修正や改善を行うことができます。

Abdul Latif Jameelの管理職養成プログラムは、人事における革新的な功績が評価され、ビジネス界のアカデミー賞と言われるスティービー®賞でゴールド・スティービー®賞を受賞しました。私は、このプログラムに貢献した部門横断チームを代表し、トロフィーを受け取る栄誉に預かりました。

今後のAbdul Latif Jameelの大きな課題とチャンスは何だと思いますか?

ビジョンを全社に浸透させ、一貫した企業文化とエクスペリエンスを確立するための枠組みを整備するまでが人事戦略の第1フェーズです。それが完了したら、次のフェーズに入ります。第2フェーズでは、プログラムの成熟化をはじめ、ディスカッションや取り組みを通じて、人事部が戦略諮問機関として長期的な事業戦略に本格的に貢献できる体制を整えていきます。Abdul Latif Jameelの価値観に沿って、社員が可能性を最大限に発揮し、活躍できる職場を 実現できれば、取り組みは成功と言えるでしょう。