MIT(マサチューセッツ工科大学)機械工学部アーメッド・ゴニエム(Ahmed Ghoniem)教授(上)とスクール・オブ・エンジニアリング(School of Engineering)博士課程学生ケビン・クン(Kevin Kung)氏は、今年初めにJ-WAFSの助成を受けたMIT研究プロジェクトの1つでリーダー役を務めています。二人の目標は主に地元の資源、労働力、農業廃棄物を用いて、新しいバイオマス処理技術を改良し、農村で肥料の小規模生産を行うことです。

オープニング・ドア(Opening Doors)は、プロジェクトとその狙いについて、アーメッド(以下、「AG」)とケビン(以下、「KK」)にお話をうかがいました。

研究プロジェクトのタイトルは何ですか?

AG:「多収量で灌漑を節約可能な肥料を生産するための分散型焙焼」です。

どのような問題に取り組みたいですか?

KK:特に途上国では、農村の多くの小規模農家の人たちが、海外から輸入された高価な合成肥料に頼っています。こうした肥料の濫用、つまり間違った状況で、間違った肥料を使うことが、土壌の酸性化や収穫量の減少につながることは珍しくありません。

例えば、2013年に私はケニヤで働いていたのですが、たくさんの小自作農が土壌の特異性を考えずに、見境なく1種類かそこらの化学肥料を使っていることに気づきました。場合によっては土壌改良につながりますが、逆効果になることもあります。多くの農業従事者は土壌劣化に気づいていましたが、誰もその理由は知りませんでした。

この問題の一端は知識でした。彼らは、状況に合う適切な肥料も入手方法も知りませんでした。輸入肥料の費用は高い傾向があるため、往々にして、農業従事者は一番安い種類のものしか買えません。土壌のタイプに応じて5種類、10種類の中から選べないのです。

あなたが提案する解決策を、簡単な言葉で短く説明していただけますか?

KK:有機性廃棄物を燃やして肥料を作るという一般的な概念は、昔からあるものです。数千年の間、人々は木や植物を燃やしてできた「炭」を土に混ぜて、土を肥やしていました。

この技術をスケールアップして商業化する、いわゆる「焙焼」も、目新しくはありません。ただし、これは非常に規模の大きなプロセスで、生産量は1日数百トン、設備費用は数百万ドルに及びます。

私たちの目的は、焙焼工程を地域レベルに落とし込むものを設計することです。そうすれば、農村で、現地で手に入る資源や労働力を使って、村やコミュニティの規模で肥料をコスト効率よく生産することに取り組めます。

 

AG:2つめの目的もあります。煤のように環境に有害な化合物を出さない、バイオマス焙焼の「クリーン」な方法を開発することです。バイオマス焙焼の概念は新しいものではありませんが、私たちは、農業従事者にとって採算がとれ、利用しやすい規模で、環境面で許容度がより高いものにしようという試みを行っています。

MITのラボで籾殻を焙焼リアクターに入れるケビン・クン氏は、バイオロジカルエンジニアリングを志すTataフェローの博士課程学生。熱化学プロセスはバイオマスをよりエネルギー密度の高い形に変換します。それにより、輸送や燃料としての使用が容易になります。 写真:ベン・ミラー(Ben Miller)氏、MIT

焙焼工程について説明していただけますか?

KK:焙焼とは、熱化学プロセスのことです。まず、ヒネ物や農業廃棄物などのバイオマスを加熱します。熱によって物質に化学反応が起こり、酸やCO2といったたくさんの「悪い」ものがなくなります。

炭酸ガス豊富な残留物が、「焙焼バイオマス」や「バイオ炭」と呼ばれるものです。これはアルカリ性なので酸性土壌では石灰剤となり、土にたっぷりの栄養を戻してpHバランスを回復させます。

適切な条件下で生産されると、多孔質構造ももち、栄養と湿気をより効果的に土にためられます。それが漂白土壌の状態改善に役立つのです。

その技術は個々の農業従事者向けですか?それとも、村やコミュニティのレベルが対象ですか?

KK:多くの場合、村レベルを対象に考えています。500~1,000人ほどの農業従事者がいる半径10~20kmの範囲でしょうか。収穫期がかなり集中する村レベルでは、技術の調整が非常に楽です。

AG:これは、実は、私たちが今も取り組んでいる問題の1つなのです。私たちのコンセプトのベースは、背負ったり、トレーラーなどに乗せたりしてあちこちのコミュニティに運べる移動式焙焼システムです。工程をはっきり最適化するということは、つまり、焙焼リアクターを置いて工程を実行し、残った炭を農場で使うために残したり、現地で配ったりできる、ほどよい広さの農場や村を探す必要があるということです。売れば副収入になる余剰生産物もあるかもしれません。

この生成物を最も必要としているコミュニティで、十分な低価格で商業化できる自信はありますか?

KK:それが、今後12か月の間に工夫して、この生成物が効果を発揮することを実証したい点の一つです。

基礎技術の準備はすでに整っており、ラボではその効果を実証済みです。次の課題は、規模を広げて、私たちが焦点を当てている環境で、あるいは調整が必要な場合に、効果を発揮するようにすることです。そしてその次は、それを現地の材料をできる限りたくさん使う設計に変える方法です。

AG:現地の製造要素は重要です。要素の大半を現地で作って組み立て、コストを最小限に抑えられるように、各地域で地元の人材と能力を探したいと考えています。

その大志達成に役立つという点で、J-WAFS Solutionsの資金調達はどのくらい重要ですか?

AG:命綱です。私たちのこれまでのバイオマス焙焼研究のほとんどは、バイオマスを肥料ではなくエネルギーに転換することに注目していました。農業と食糧生産のすべての領域が、私たちにとっては比較的に目新しいものなのです。

この市場に参入する肝心な第一歩を踏み出し、さらにうまくいけば、我々のビジョンを現実に変えることができるのは、J-WAFS Solutionsの資金援助におかげです。

また、技術開発面だけでなく、技術の多様化や商業化を模索するという面でも、J-WAFSとの協力が私たちの助けになってくれると確信しています。