インドの電動モビリティ革命を推進するパートナーシップ契約
Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)は、2022年6月にGreaves Cotton Ltd.(グリーブス・コットン、NSE:GREAVESCOT、BSE:501,45)の子会社であるGreaves Electric Mobility(グリーブス・エレクトリック・モビリティ)に1億5,000万米ドルの投資を行い、今後12か月で更に必要に応じて7,000万米ドルの出資を行うことを確約しました。これは、過去75年以上に自動車事業に携わってきた経験を基盤として、急成長中のグローバル・モビリティ産業の電動化を推進する姿勢や専門性を新たに示すものです。またこれは、インドで急成長を示している電動モビリティ分野への同社初の投資となります。インドは現在、世界第2位の人口(約14億人)と世界第4位の自動車市場を擁しています。[1]
今回の契約により、Abdul Latif Jameelは株式の35.8%を取得し、インドの二輪・三輪車分野において過去最高の投資額を記録しました。
また、今回のこの投資は、米国のEV自動車メーカーRIVIAN(リビアン)や、個人用電気飛行機輸送のパイオニアでありeVTOL(電動垂直離着陸機)の開発を手がけるJoby Aviation(ジョビー航空)に続き、世界の持続可能なモビリティの未来を牽引する企業に投資するAbdul Latif Jameelの戦略に沿ったものとなります。
最新の戦略的合意を通じて、すでにインド市場で急成長中のEVブランドであるGreaves Electric Mobilityを、インドにおける電動二輪・三輪車分野の大手へと加速的に成長させ、最終的にはグローバル・サウス市場全体にポートフォリオの幅を広げる可能性を模索する構えです。
Abdul Latif Jameel社長代理兼副会長のハッサン・ジャミールは、今年8月にインドを訪問し、インドの人々に向けて環境に優しいモビリティ開発を手がける同社の取り組みを視察しました。今回は、この投資の詳細をはじめ、今後の成長機会や将来へのビジョンについてハッサン・ジャミールに話を伺いました。
背景を知らない方のために、今回の投資機会と、インドのモビリティ市場の規模について少しご説明いただけますか?
ハッサン・ジャミール(以下HJ):インドは現在、世界第4位の自動車市場を擁しています。インドは、新型コロナウイルス感染症の流行以前の2017〜2018年に年間生産台数2,900万台を記録し、世界第6位の自動車生産国になりました
。その約83%は二輪車(スクーターやバイク)と三輪車が占めています。
二輪車は個人での使用が一般的ですが、いわゆる「ラストワンマイル」配送業者にも広く利用されています。一方、三輪車はほとんど商業用に購入され、都市部での人や物の移動に利用されます。
これまで電動車の普及率はかなり低く、2021年には二輪車で1%程度でした。しかし、ここに来て二輪・三輪車分野の電動化が急速に進んでいます。2022年5月、主に電動リキシャを中心に、電動三輪車の販売台数が初めてICE(内燃エンジン)搭載車を超えました。これは大方の予想をはるかに上回るスピードで、2021年12月以降から前月比4~5%程度に留まっている二輪車市場よりもずっと急速に電動化が進んでいます。インド政府は遅くとも2030年までに三輪車の大半を電動化することを目標に掲げていることから、今後3〜5年で電動車の台数は更に大幅に伸びると予測されます。
二輪・三輪車分野で電動車種が売れている大きな理由のひとつに、政府が「FAME II.」と呼ばれるエコカー普及補助金制度を設けていることが挙げられます。この補助金制度は、ICE搭載車に対する価格競争力を高めて電動車の普及化を推進し、二酸化炭素排出量実質ゼロの公約を果たして、世界最悪レベルの都市公害を軽減する目的で設けられました。
また、世界的な燃料価格の変動の激化により、さらに持続可能な電動車への注目が高まっています。
これらの利点に加え、ランニングコストやTCO(総所有コスト)の面でも電動マイクロモビリティが有利な状況になりつつあります。
Greaves Electric Mobilityの名を初めて耳にしたのはいつでしたか?
HJ:昨年です。しかし、真剣に投資を検討しはじめたのは2022年1月です。複数の大手投資会社と競合していたので、迅速に行動する必要がありました。
投資先にふさわしいと判断した理由は何ですか?
HJ:投資を決断した背景には3つの側面があります。
まず、Greaves Electric Mobilityおよび親会社のGreaves Cottonについて入念な調査とデュー・ディリジェンスを実施しました。Greaves Cottonは19世紀半ばに設立された老舗企業で、1947年にタパール家に買収されています。現在はカラン・タパール氏が会長を務めています。
タパール一族の所有下で、同社は伝統的なインドの三輪車向けディーゼルエンジンのパワートレイン市場において75%の市場シェアを獲得しました。その歴史はある意味でAbdul Latif Jameelに似ています。老舗企業であり、主要市場にて大成功を収め、強力なブランド名と、当社に通じる価値観を有しています。
次に、Greaves Electric MobilityおよびGreaves Cottonの経営陣にお会いして、優秀なチームが揃っていること、人材の採用や定着へのアプローチが素晴らしいこと、従業員を大切にして能力開発に積極的に取り組んでいることなどに大きく感銘を受けました。
最後の側面は、やはり製品そのものに関してです。もちろん、製品はデザイン性に優れ、信頼性が高くて人気があり、市場で高い評価を受けています。二輪車は「Ampere」のブランド名で販売されています。2021年半ばでは、Ampereの登録販売分野における市場シェアは5〜6%でした。
今年の6月には市場シェアが約15%に増加しています。現在ではインド市場の大手電動二輪車メーカーに成長していることから、同社の能力とポテンシャルを確信しました。早期の市場参入による競争優位性を得られることを期待しています。
Greavesは、インドの市場機会を捉える先見の明があり、いち早くEV分野に着手しました。二輪車・三輪車の製品ラインナップは、B2BとB2Cの両方のセグメントに訴求力があります。
電動二輪車・三輪車市場はかなり競争が激しいのですか?
HJ:元々競争は激しかったのですが、近年はますます激化しています。電動スクーターに対する政府の補助金政策を利用して市場への参入を試みる新しい企業は後を立ちません。
同時に、ICE搭載の二輪車の市場を独占してきた既存のスクーターメーカーも、電動モビリティ分野への参入を検討しています。いずれ、政府の補助金制度は廃止されるでしょう。長期的には、製品の品質だけでなく、販売前後のカスタマーサービスに優れ、ブランド認知力の高い製品の提供できる、総合力のある企業が数社残り、長期的に競っていくことになると見ています。
三輪車に関しては、ほとんどの既存企業はまだ本格的に電動市場に参入していません。しかし、それも時間の問題でしょうから、競争力を高めておく必要があります。
電動リキシャ市場は非常に断片化されており、市場の70〜80%は組織化されていない小規模の地方企業で形成されています。しかし、この市場も急速に発展しつつあります。規制も強化され、規格も改善されてきていますから、いずれは大手企業が参入し、市場の統合が進むと思います。
インドでは、電動モビリティのインフラはどの程度整備されているのですか?
HJ:現在、インドの電動市場はまだ黎明期のため、充電インフラに関しては何でも少しずつ散らばっているような状態です。
ほとんどのスクーターは、自宅の高速充電器で充電が行われています。携帯電話を夜の間に充電するのと同じように、スクーターも一晩で充電できるわけです。
Greavesの電動スクーターは、携帯型バッテリーを搭載しています。ですから、バッテリーを取り出して電源に接続すれば、4時間程度で充電が完了します。
他社では、標準の充電器と急速充電器が付属した固定式バッテリーを提供するところや、バッテリースワップを提供しているところもあります。通常、1回の充電での航続距離は約80〜100kmです。都市の規模にもよりますが、1日の平均走行距離は20〜40km程度なので、現時点では十分だと言えるでしょう。
インド政府も充電インフラの整備に力を入れており、特にバッテリースワップ政策の導入に意欲的に取り組んでいます。まだ充電インフラが整備されていないこともあり、多くの人は航続距離に関する不安を抱えています。政府は、電動スクーターや電動三輪車が、交換ステーションに行けば消耗したバッテリーをフル充電のものと交換できるバッテリースワップを導入することで航続距離の問題を解消し、電動化への移行を推進したいと考えています。
今回の投資は、Abdul Latif Jameelのモビリティ戦略にどのように関わってくるのでしょうか?
HJ:Abdul Latif Jameelのモビリティ戦略は、「デザイン」「流通・販売」「投資」の3つを柱に据えています。通常、このうちの1つ、2つ、またはすべてを行うパートナーシップ契約を締結しています。
Greavesとの事業提携には、上記3つのすべてが該当すると思います。
当社はGreavesが市場最高の製品を設計するための支援を提供していきます。当社の既存のグローバルインフラと経験を駆使して販売・流通経路を強化し、状況を見て拡大していくこともできるでしょう。もちろん、Greavesの対象市場における市場機会を最大限に活かすための投資もすでに行っています。
こうした意味で、Greavesへの投資は、当社の総合的なモビリティ戦略に完璧に合致していると言えるでしょう。
では、今回の投資は、Abdul Latif Jameelの二酸化炭素排出量実質ゼロや脱炭素化の目標にどのように関わっているのですか?
HJ:Abdul Latif Jameelは、二酸化炭素排出量実質ゼロや脱炭素化を中心に、サステナビリティ全般にわたる長期的な取り組みを続けています。
当社の再生可能エネルギー事業部門であるFotowatio Renewable Ventures(フォトワティオ・リニューワブル・ベンチャーズ、FRV)を通じてクリーンエネルギーに、Almar Water Solutions(アルマー・ウォーター・ソリューションズ)を通じて水利用の効率化に、それぞれ大きな投資を行なっています。
また、EV開発にかけて世界を牽引するRIVIANや、eVTOL(電動垂直離着陸機)の開発を先駆けて行っているJoby Aviationへの投資を通じて電動モビリティ分野にも深く関わっています。Greaves Electric Mobilityへの投資は、世界的なエネルギー移行や、パリ協定で採択された二酸化炭素排出量実質ゼロの目標に対する継続的な関心や取り組みへの意欲を示すものです。
Greaves Electric Mobilityは、現在、インド市場に注力していますね。将来的には海外進出も視野に入れているのですか?
HJ:少なくとも今後3〜4年はインド市場を優先するつもりです。インドの電動モビリティ市場は急成長しており、その流れに乗る必要があります。当面は国内市場の成長に目を向け、特に二輪車・三輪車の分野における市場機会を捉えることが先決です。市場シェアを伸ばし、二輪車・三輪車分野のリーダー企業としての地位を確立する必要があります。
とはいえ、これは金融投資だけに留まりません。
当社は、Greaves Electric Mobilityの戦略的パートナーでもあります。それは、特に南アジアや東南アジア、中東、アフリカ、中南米といったグローバル・サウスにおいて、Abdul Latif Jameelの既存のインフラや主要市場でのプレゼンスを利用し、新たな事業成長の機会を獲得することを意味します。この点をいつも質問されるので、重視していきたいと考えています。
Abdul Latif Jameelは、Greavesの経営にどの程度関与するのですか?
HJ:Greaves Electric Mobilityとパートナーシップを締結した大きな理由のひとつは、経営陣が非常に優秀で、明確な事業戦略を掲げているからです。経営陣を心から信頼できるからこそ、投資に踏み切ることができました。当社は、この(二輪車・三輪車)市場にそれほど精通していません。すでに優れた経営手腕があるのですから、私たちが口出しをする必要はありません。
それと並行して、戦略的な観点から言えば、当社は販売、物流、インフラ、国際関係などに独自の強みを持っています。そこが私たちの腕の見せどころです。当社独自のリソース、専門知識、経験をGreaves Electric Mobilityに余すところなく提供し、同社が可能性を最大限に発揮して事業目標を達成する支援をしていきたいと考えています。
それが、私たちの役割です。経営陣にも名を連ねており、取締役として事業成長を実現・促進する役割を担いますが、実際の経営に口を出すつもりはありません。
Abdul Latif Jameelでは、今後も電動モビリティ市場に投資を続ける予定ですか?
HJ:当社の長期的なアプローチに合った戦略的パートナーシップを継続的に検討していくつもりです。当社は、短期で利益を上げて撤退するような金融投資家ではありません。長期的な価値のあるパートナーシップを重視していることは、RIVIANやJoby Aviationなどの企業への投資を通じて実証済みだと思います。実際、トヨタ自動車とは1955年から67年以上にわたる事業提携が続いています。
こうした長期的なアプローチを採用することで、ダイナミックで持続可能な企業が事業目標を達成しやすくなり、ひいては当社の事業目標の達成にもつながります。
そのため、電動分野で当社の戦略とビジョンに見合う投資機会を常に模索しています。今後、それがいつどこになるのかは分かりませんが、適切な投資機会を見出し、ビジネスの可能性を最大限に引き出し、より豊かな未来を築くことは、当社の課題のひとつです。
[1] 2021年 推定値、 Our World in Data: Population & Demography Explorer(2022年7月)