過去一世紀におよぶ経済発展により生み出された前例を見ないようなレベルの世界的な富にもかかわらず、地球上の広大な地域では、何百万もの人々が、医療不足により不必要に死に追いやられています。

このグローバルヘルスケアの課題の中心にあるのは、アクセスの問題です。必要な専門知識、施設、および治療を人々が手に入れることができるようにするということです。

基本的な問題は、地理的なものです。世界でも最も不平等な国の多くは、同時に最も広大な国であり、人々は広く分散しており、最寄りの主要な医療ポイントから何キロもはなれたところで暮らしています。

例えば、サハラ以南の国の3分の2は、世界保健機関(WHO)の世界的な目標である、病院から2時間以内のところに80%の人が居住するという目標を達成していません。[1]人々が救急医療にすぐにアクセスできたのであれば、低中所得国における全死亡の約半分(および身体障害者の3分の1)は回避できたという統計は、憂慮すべきものです。[2]

Gap

しかし、より良い医療へのアクセスの実現には、単に最寄りの医療センターからどれだけ遠く離れたところで暮らしているかというより多くのことが関係します。低所得国においては、病人やけが人が病院や医療センターになんとか到達したとしても、必要なケアを受けるためには、さらに多くの難題に直面することがよくあります。機器や医薬品不足、長い待ち時間、医薬品や医療補助品の品質のばらつき、医療の選択肢に関する不十分な情報、紹介制度の不備などの基本的な問題があります。これは当然ながら、支払い不能な医療コストや、このギャップを埋める手頃な保険の補償が欠如していることにより、さらに悪化しています。

ヘルスケアの困難な状況にさらに追い打ちをかける要素もあります。医療へのアクセスを向上することは、個人の健康だけでなく、人々が居住する国の経済的な「健康」にも恩恵をもたらします。WHOが述べているように、より良い健康は「経済発展に重要な貢献をします。なぜなら、健康な人々は、より長生きし、より生産的で、より多く貯蓄するためです」[3]

事実、発展途上国の経済パフォーマンスは、公衆衛生の改善に伴い大幅に向上したと推定されています。[4]平均余命が1年伸びる毎にGDPは4%伸びます[5]

ジャミールファミリーは、25年以上にわたり、世界的なファミリー慈善活動であるコミュニティ・ジャミールを通じて、医療へのアクセス向上に自ら貢献してきました。

遡ること1995 年には、サウジアラビア初の非営利リハビリテーション病院であるアブドゥル・ラティフ・ジャミール病院を設立しており、また キング・サルマン障害研究センターの出資者ともなっています。ごく最近では、アブドゥル・ラティフ・ジャミールは、サイバーダインセルスペクト および JOMMDといった医療機器イノベーターや、イノベーションファシリテータとの提携を確立しています。

医療のグローバルなアクセス改善へのごく最近の取り組みとしては、今年初めに発表されたアブドゥル・ラティフ・ジャミール・ヘルスの創設が挙げられます。

Akram Bouchenaki
アクラム・ブシェンキ
CEO、アブドゥル・ラティフ・ジャミール・ヘルス

Gilead Sciences元執行役員のアクラム・ブシュナーキが統括するアブドゥル・ラティフ・ジャミール・ヘルス は、中東、アフリカ、南アジア、東南アジアを含む発展途上のコミュニティを対象に、手頃な価格で質の高い医療へのアクセスを可能にするプロジェクト、パートナー、製品へ投資することを主眼としています。

2回にわたるインタビューの2回目では、私たちはアブドゥル・ラティフ・ジャミール・ヘルスの機会と目標、そして将来のビジョンについて、アクラム氏に伺いました。

アブドゥル・ラティフ・ジャミール・ヘルスの最大の機会はどのような点にあると思いますか?

現在のパンデミックは、医療システムのもつ中心的な重要性、および医療システムは強力で、資金があり、きちんと組織され、十分に資材が供給されていなくてはならないことを実証しています。個人的には、この危機により世界の医療政策の方向性が変わるkとおになると考えています。特に、世界的にも私どもの地域においては、公的医療制度のレジリエンスを強化するために、政策立案者がより多くのリソースを投入することが、さらに重要になるでしょう。

この背景において、アブドゥル・ラティフ・ジャミール・ヘルスは、国内レベルおよび国際レベルの両方で、供給の促進と加速、およびアクセシビリティの向上において、主要なプレーヤーであると見ています。

すでに、医療政策や医療機関に関するガバナンスには何らかの変化が見られています。例えば、アフリカの医薬品庁が、アフリカ市場に対する新薬承認を加速させるという話がもち上がっています。

アフリカ連合の役割は、絶対的に増大していきます。私たちは、新興市場で大きくなりつつ問題である、伝染病と非伝染病の両方について、公衆衛生の問題への対処を試みる医療を巡る対話を促進し、それを実現していく立場にありたいと願っています。

それは、実際には、どのような種類の関与を意味するでしょうか?

ビジョンは、医療ソリューションのエンドツーエンドのプロバイダーになることです。これには、特定の市場ニーズによって、数多くの形態がありえるでしょう。また、新薬開発における研究所との協力、医薬品の流通や上市についての政府やNGOとの協力、高品質の医療ソリューションへの持続可能なアクセスの確保なども関係します。

Access to Healthcare

例を挙げてみましょう。B型肝炎やC型肝炎のような病気を見ると、世界の多くの地域でよくみられることですが、多くの人は、肝癌や肝硬変が進行し、遅すぎる段階になって、ようやく診断を受けています。例えば、B型肝炎は出生時の幼児に予防接種を行うことで容易に予防できます。C型肝炎は、健康診断または審査キャンペーン中に診断ツールが利用できることで治療が可能になります。これは、ポータブルな「ポイント・オブ・ケア検査」(POCT)機器により、広範囲におよぶ検査が実際に可能となる、分散した人口の場合に特に当てはまります。

当社の目標は、このような状況に対して、まとまりのあるソリューションを提供する企業としての地位を確立することです。私たちは、特に遠隔地や貧困地域で、より簡単に、より速く、より安価に人々が検査を受けられるよう、コミュニティーにとって診断ツールとPOCTをよりアクセスしやすくする立場にありたいと願っています。

これは、心臓病、糖尿病、感染症などの疾患に関係なく、非常に重要なステップの1つです。また、これは、最先端のポータブルテストツールを開発している日本企業のセルスペクト社とのパートナーシップを通じて、当社がすでに進歩を遂げている分野です。

その後で、治療フェーズ、そして新しい治療法や製品を市場により早く投入する必要性が出てきます。調査によると、製品がヨーロッパまたは米国で承認された後、世界の遠隔地にこれが到着するまでに7~16年かかることがわかっています。私たちは、規制当局と協力してこのプロセスをスピードアップし、医薬品への早期アクセスを提供することにより、この過程を加速させたいと考えています。

Access to Healthcare Infographic教育と意識は、その他の重要な問題です。人々がリスク、症状、病気の発生方法、検査方法などを理解できるように、医療当局や医療従事者と共同して、疾病に対する意識向上プログラムに取り組んでいく必要があります。

これらは、私たちの領土においてエンドツーエンドの医療ソリューションプロバイダーである私たちが関与している状況の一部です。

どの地域に重点的に取り組みますか?

私たちの計画は、アブドゥル・ラティフ・ジャミールの既存の、そして成長中のフットプリントを活用し、最もニーズの高い分野に、直接またはパートナーシップを通じて拡大していくことです。北アフリカは重要ですが、西アフリカ、ケニアやタンザニアなどの国々を含む東アフリカ、そして医薬品と医療の主要市場である南アフリカも重要です。

中東は、多くの国が既存の十分な資金のある医療システムを持っている一方で、新しい革新的な医薬品へのより良いアクセスへの大きなニーズを抱えている、もう一つの重点分野です。私たちは、これらの医薬品やソリューションを地域に迅速にもたらすための促進役となることを目指しています。また、多様な医療事情と満たされていない医療ニーズが数多く存在する南アジアと東南アジアについても検討中です。このように、かなり広範なフットプリントを私たちはターゲットとしています。

このような多様な地域の課題にどのように対処したいとお考えですか?

こうした市場の一つひとつにカスタマイズされたアプローチを採用することが必須です。ほとんどの場合、病気のパターン、感染率、治療上の問題、医療へのアクセスは多種多様です。もう一つの大きな問題は、財政面です。各国での治療資金はどのように調達されるかということです。これらの要因すべてが、当社のアプローチをどのように適応させるかを決定します。すなわち市場にとって、および当社のパートナーシップの商業上、最適な結果を出せるよう、アプローチをカスタマイズします。

こうしたことにもかかわらず、当社の提案の核心には、常に一環した構成要素がいくつかあります。

まず第一に、当社は、品質と信頼性の点から、あらゆる市場に対し、可能な限り最高の流通を提供したいと考えています。私たちは、顧客とその資産を当社に託したパートナーの両方に対して、ベストインクラスの存在でなければなりません。次に、市場固有のニーズに的を絞ることができるよう、様々な市況に関する現地情報を活用します。例えば、HIV感染率を見ると、新規の感染件数が毎年何十万もある国と、毎年数千件の国では、必ずしも同じ対処方法が取られるわけではありません。

同様に、糖尿病のような代謝性疾患では、新規症例が急増している国もあれば、他の国では、これが経済発展に結びつく傾向があることから、ずっと低くなっているところもあります。様々な市場に対するアプローチにおいては、このような調整や整合を検討していきます。

これを達成するためには、どのような戦略とモデルを採用する必要がありますか?

重要なのは、各市場の具体的な状況を理解することです。国に中央診断ラボがないところもありえます。そうしたシナリオでは、診断にはリモートアクセスのためのポイント・オブ・ケア検査を提供し、医療従事者と患者間の通信システムを強化し、人々がケアや治療を求めるためのシステムやプロセスを組織することに尽力します。

もう1つの側面は、提携パートナーの観点からオファーをカスタマイズすることです。現地で築いたパートナーシップは非常に重要であり、提携先は、そうした分野における最高の実践者との関係を持っています。特定の地域に適用できないようなソリューションを提供するため、組織と提携する意味はまったくありません。人々が本当に恩恵を受けられるような、その国の医療制度において実行可能で、かつこれに準拠しているものである必要があります。そこで、私たちがその知識を発展させ、最も差し迫ったニーズに対するソリューションに取り組む上では、医療当局、プロバイダー、企業との会話が不可欠になるわけです。

結局のところ、それは信頼です。

人々は、あなたが彼らに提供する医療ソリューションを信頼していなくてはなりません。そして、私たちは提供するソリューション、仕事をする人々、ビジネスの仕方との関係において信頼を獲得する必要があります。

ヘルスケア市場には、文化的問題や政治的問題など、コントロールできない要因があります。これはあなたの仕事にどのような違いをもたらし、どういったパートナーがこうしたことへの対応について支援してくれますか?

まったくおっしゃるとおりです! 資金提供、文化、慣習、インフラストラクチャなど、医療へのアクセスに影響を与える要因は数多くありますが、それに対する私たちの影響力には限りがあります。それは、地域のダイナミクスを理解し、それに適応し、最も適切なパートナーを特定し、特定の状況に適応できるサービスを提供する必要があるもう1つの理由です。パートナーということでは、NGO、現地の医療従事者、政府機関、医療会社などが考えられます。

アブドゥル・ラティフ・ジャミールは、サイバーダイン、セルスペクト、JOMDD、およびその他のイニシアチブへ投資することで、すでに医療セクターの投資家となっています。これらは、アブドゥル・ラティフ・ジャミール・ヘルスの全体像にどのように当てはまりますか?

これらの例は、当社が特定の市場やセクターで追求する可能性のあるオペレーティング・モデルのタイプを示しています。すなわち、画期的なイノベーションを採用し、商業開発を加速し、テクノロジーの可用性を拡大するということです。そのことは、セルスペクトのような画期的なポイント・オブ・ケア検査、あるいはサイバーダインのような世界最先端のリハビリテクノロジーにも言えることです。私たちの役割は、医療従事者を教育し、情報提供し、時には研修も実施することです。私たちは力を合わせることで、取り組みを加速させ、これらの進歩を最も恩恵が得られる人々にとって身近なものにすることができます。

しかし、これは1つのモデルにすぎません。先に述べたように、私たちは機会開発に対して非常に汎用性の高いアプローチを構築しています。私たちは、様々な種類の契約を検討し、過去にグループにとってうまく機能したことを活用し、可能なパートナーシップモデルを評価し、私たちが行うすべてのことが、特にアクセス性がこれまで困難であった市場において、可能な限り多くの人々が質の高い医療を受けられるようにするという当社の包括的目標に近づくものであるようにします。

 

[1] https://www.thelancet.com/journals/langlo/article/PIIS2214-109X(17)30488-6/fulltext

[2] https://elibrary.worldbank.org/doi/10.1596/978-1-4648-0527-1_ch13#

[3]https://www.whho.int/hdp/en/

[4]「経済成長に対する健康の影響のモデリング」 Journal of Health Economics、第20巻第3号

[5]https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/529000