活火山のカルデラを覗いたことがある人なら、そこに潜む巨大なパワーを肌で感じたことがあるでしょう。時には、火山がその威力の片鱗を見せることもあります。1815年にインドネシアで発生したタンボラ山の噴火は、1883年のクラカタウ(クラカトア)山の噴火[1]の約10倍の威力があり、地球を呑み込むくらいの硫酸塩の雲を噴出しました。この影響で気温が下がり、気象パターンが乱れたため、広い地域で農作物が不作となり、飢饉が蔓延しました[2]

May 18, 1980, 8:32 am: A 5.1 magnitude earthquake triggered a colossal eruption at Mount St. Helens. Ash blasted up to 16 miles into the atmosphere, and about 230 square miles was devastated within a few minutes. Photo Credit: USGS; colorization S Dullaway
1980年5月18日 午前8時32分、M5.1の地震が発生し、セントヘレンズ山の巨大噴火を引き起こした。火山灰は、地上16マイル(約25.7km)の上空まで噴出し、ものの数分で約230平方マイル(約600㎢)が壊滅的な被害を受けた。写真提供:USGS(カラー化:S. Dullaway氏)

近年では、1980年に発生した米国のセントヘレンズ山の噴火で24メガトンの熱エネルギーが放出されました。これは、1945年に広島に投下された原爆[3]の1,600倍に相当するものです。

地球の内部の熱に由来する地熱エネルギーは、地球自体が持つ膨大なエネルギーを活用するという独自の特徴があります。米国エネルギー省(DOE)は、米国だけでも5テラワットの熱資源があると推定しており、これは地球全体で必要なエネルギーを供給するのに十分な量です[4]

他の再生可能エネルギーと比べて、地熱エネルギーは電気と熱を同時に供給でき、付加価値の高い鉱物を採掘できる可能性もあります。また、発電効率が良く、温室効果ガス排出量が低いため、小さなエコロジカルフットプリントで安定した発電が可能です。適切に管理さえすれば、低コストで長期運用でき、必要に応じて拡張できる持続可能な再生可能エネルギー源になります。さらに、熱を直接供給することで電力効率を向上させ、冷暖房に必要な電力消費を抑えることができます。

1899 Geothermal scaled

このように、地熱発電には大きなメリットがある一方で、開発にはさまざまな課題があり、地熱資源が豊富な地域でも思うように開発が進んでいません。

地熱発電プロジェクトは、プロジェクト開発期間が長期にわたることが多く、多額の初期費用が必要な上に、初期段階で行う探索作業には大きなリスクが伴います[5]。さらに、資金調達、政策や規制の枠組み、制度・技術的な専門知識の不足、技術的進歩の必要性といった障壁もあります。こうした課題が発電と熱利用の両方の面の足を引っ張り、いまだに地熱エネルギーの潜在能力を最大限に引き出せていないというのが現状です。

しかし現在は、革新的な技術や画期的な資金調達プログラムにより、こうした状況が急速に打開されつつあります。

日本を例に見てみましょう[6]。2011年の福島原発事故以後、日本政府は補助金とFIT制度(固定価格買取制度)を通じて再生可能エネルギーの支援強化に乗り出しました。FIT制度とは、事業者に優遇買取価格の長期契約を提示して、地熱発電をはじめとする再生可能エネルギーの電力供給を促すものです。これが功を奏し、日本では45ヶ所の地熱地帯に最大設備容量2MWeの小型地熱発電所が60基以上建設されました。小型地熱発電所が他と異なる点は、リスクが比較的小さく、投資の要件も低めで、大規模な探査を行うことなく操業を開始できることです。

地熱発電の仕組み

地熱エネルギーは、地殻内に蓄えられた熱を利用するものです。地下を掘削し、地熱貯留層に溜まった地熱流体を地表に取り出して エネルギーを抽出し、発電や熱利用を行います。

地熱貯留層にはさまざまな深さや温度があります。現在は、地下の深部に注水し、透水性の岩石を循環する熱を抽出する熱水システムが最も一般的です。

地熱エネルギーは、温度に応じて 高温(150°C超)、中温(90〜150°C)、低温(90°C未満)の3つの区分があり、それに応じて利用可能性が異なります。

発電に最適なのは高温の地熱エネルギーです。中温の地熱エネルギーは、暖房をはじめ、工業プロセスや農業・食品製造などの用途に使用されます。低温の地熱エネルギーは、建物の暖房をはじめ、スパやプールを温めるのに理想的です[7]

Basic principle of geothermal energy

地熱電力

地熱発電には、地熱エネルギーの変換方法に応じて、ドライスチーム方式、フラッシュ方式、バイナリー方式の3種類があります[8]。ドライスチーム方式は、地熱貯留層にある高温の天然蒸気でタービンに連結された発電機を回転させて発電するものです。発電に使用された蒸気(タービン排気)は、タービンを回す蒸気の効率を高めるためコンデンサーで圧縮されます。小型地熱発電所の場合は、タービン排気をそのまま大気へ放出する「背圧式」が採用されることもあります。これは、よりシンプルでコスト効率の高い方法です。

地熱貯留層内で発生する二相流を利用するフラッシュスチーム技術は、世界中の地熱発電所で最も広く採用されている方式です。地熱流体をフラッシュ(減圧沸騰)して蒸気と熱水に分離し、その蒸気でタービンに連結された発電機を回転させて発電します。タービン排気はコンデンサーで圧縮されるか、大気に直接放出されます。分離した熱水をフラッシャー(減圧器)に導入してさらに蒸気を取り出す「ダブルフラッシュ方式」もあります。

バイナリー方式は、水よりも沸点の低い二次媒体に熱を電動させ、閉ループシステムで発電するもので、比較的低温(70〜80°C)の地熱流体でも発電できるメリットがあります。

坑口発電設備(発電量が10MWe未満のモジュラー発電設備)は、地熱開発の初期段階で早期に収入を創出できる魅力的なソリューションです。既存の生産井を利用するため、投資回収期間が短縮され、大型発電所よりもパイプラインが短く、設置が早いなどのメリットがあります。

新興市場での可能性

現在、複数の新興市場を含む80ヶ国以上がすでに大規模な地熱発電を行っています。2022年の発電量ランキングでは、インドネシアが2,356MWで世界第2位に躍進し、その後をフィリピン(1,935MW)、トルコ(1,682MW)、メキシコ(963MW)、ケニア(944MW)が続いています[9]。こうした国々の中には、投資誘致の促進と地熱発電の迅速な普及を目指して財政的な枠組みの再編に取り組んでいるところもあります。

とりわけ新興国は、地熱エネルギーが持つ可能性を強く認識しており、エネルギーミックスにおける地熱発電の割合を増やす意欲的な目標を掲げています。化石燃料発電に大きく依存しているインドネシアでは、2025年までに総電力の23%を再生可能エネルギーでまかなうことを目標に掲げており、政府は国営の地熱発電事業者Pertamina Geothermal Energy(プルタミナ・ジオサーマル・エナジー/PGE)に多額の設備投資予算を割り当てています。PGEは2023年に2億5,000万米ドル、2027年までに16億米ドルに上る資金調達を受ける見込みで、この資金を元手に地熱発電容量を約700MWから1,300MWに拡大する予定です[10]

インドネシアはまた、投資誘致のために外国企業と積極的な事業提携を行っています。例えば、三菱重工はPGEと事業提携契約を結び、日本の国際協力機構(JICA)の協力の下でスマトラ島南部のルムット・バライII地熱発電所に55MWの地熱発電設備を納入する予定です。

イタリアのExergy(エクサジー)も、PGEと共同でインドネシアにおける地熱発電開発に関する研究を実施する旨の了解覚書に調印しました[11]。イタリアは、世界第8位の地熱発電国です。

さらに、インドネシアは、PGEの新規株式公開(IPO)で株式を取得して初の地熱発電投資を行ったMasdar(マスダール)を筆頭に、アラブ首長国連邦の企業とのパートナーシップにも盛んに取り組んでいます。

フィリピンも、2040年までにエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を50%に引き上げる目標を掲げ、地熱エネルギーの有効利用に取り組んでいます[12]。フィリピンは2040年までに地熱発電容量を75%増加する計画を立てており、地熱開発を推進するための政策に取り組んでいます。例えば、フィリピンのコングロマリットSM Investments(SMインベストメンツ)が所有するPhilippine Geothermal Production Company(フィリピン・ジオサーマル・プロダクション・カンパニー)は、新規の地熱発電開発プロジェクト5件を通じて、250〜400MWの地熱発電容量を追加する計画を発表しています。フィリピン政府は外資誘致を促進するため、現地法人所有の要件を撤廃し、外国企業が地熱発電関連資産を100%所有することを許可しました。

ケニアでは、アフリカ初の地熱発電所を建設しただけでなく、2020年から2021年にかけて総電力量に占める地熱発電量が48%を占めています。地熱発電に意欲的な同国は、2030年までに地熱発電容量を現在の944MWから1,600MW、2037年までに現在の10倍にあたる1万MWまで拡大することを目指す野心的なグリーンエネルギー開発目標を掲げています[13]

ケニアもインドネシアと同様に、外国企業の投資やノウハウを積極的に誘致しています。2023年3月には、イタリア・ケニア地熱ビジネス投資フォーラムを主催し、オーストラリアの再生可能エネルギー企業Fortescue Future Industries(フォーテスキュー・フューチャー・インダストリーズ)および独立系発電事業者のGlobeleq(グローベレック)と、グリーンエネルギー産業および製造業への投資協定を締結しました。その一環として、地熱発電を利用するナイバシャのグリーンエネルギー肥料プラント(設置容量300MW)の建設も計画されています[14]

資金調達の課題の解決

上記のような動向は、地熱発電に大きな追い風が吹いていることを示しています。これまで地熱エネルギーの開発を阻んできた主な要因のひとつに、コスト面の課題があります。自己資金を調達できない場合は、長期的な視野を持つ投資家を誘致・確保するための財務的な枠組みを確立しなければなりません。そのため、地熱発電プロジェクトを、年金基金を含めた機関投資家がポートフォリオに組み込むような資産クラスへと成長させる必要があります。

Global Geothermal Alliance

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)などもこの点について認識しており、世界中の地熱発電事業者間で知識の共有・調整を図るためにグローバル地熱アライアンス(GGA)と呼ばれるプラットフォームを設立しました。

 

 

Global Geothermal Market and Tech assessmentGGAは、最新の報告書「地熱発電市場および技術評価(Geothermal market and technology assessment)」[15]の中で、地熱発電プロジェクトには多額の先行投資や固有のリスクが伴うことから、地熱発電投資は特殊であることを指摘しています。開発の段階で資金調達を確保するため、15〜25年の長期電力購入契約(PPA)を結ぶのが通例です 。

こうした状況を改善するには、設備投資や運用コストに対する優遇税制措置や免税措置、直接補助金といった政府レベルでの対策を講じ、他のエネルギー源に対する地熱エネルギーの競争力を高める必要があります。日本のように、地熱プロジェクトの開発業者に優遇買取価格の長期契約を提示するFIT制度もまた、地熱エネルギーと他のエネルギー源とのコスト格差を縮小するのに役立ちます。

リスク管理も重要な要素です。稀ではあるものの、過去には地熱開発が地震を誘発した事例もあります。2017年に韓国で発生したマグネチュード5.5の地震はその一例です[16]。そのため、地熱発電プロジェクトに関する不確実性やリスク(探査で地下を掘削する際のリスク、坑井の生産能力の低下など)に対処するためのリスク低減措置や保証・保険制度が求められます。また、地熱発電プロジェクトは二酸化炭素排出量の削減に貢献できることから、炭素市場でカーボン・クレジットを販売して収入源を創出できます。

技術の進歩

地熱発電の限界のひとつに、場所の制限があります。太平洋を取り囲む「環太平洋火山帯(リング・オブ・ファイア)」[17]のような火山地帯か、地中海や東アフリカの断層のような地殻プレート付近でしか利用できません。

Pacific Ring of Fire

そうした考慮の結果、地熱エネルギーの最も有力な次世代技術のひとつである強化地熱システム(EGS)の開発も限定的なものにとどまっています。EGSとは、岩盤の浸透率が低く、通常は経済的に採算が取れないような地下深くの地熱貯留層を活用するための技術です。まず地下にある高温の岩石に井戸を掘り、そこに多量の流体を高速で注入することで裂け目を作ります(フラッキング)。その裂け目に水を送り込んで深層の鉱床に到達させることで、浸透率の制限を克服するのです。EGSの良い面は、地下に熱があればどこでも発電できることです。しかし、膨大なコストがかかるという難点があります。

ただ、米国の地熱発電技術のスタートアップ企業、Quaise Energy(クエイズ・エナジー)が開発した掘削技術[18]により、今後はこうした状況も一変するかもしれません。Quaise Energyが開発した掘削システムは、核融合研究で一般的に使用されている既存のジャイロトロンを再利用して地表から最大約20kmの深さに到達し、400℃を超える深部の地熱エネルギー源を活用するものです。フラッキングを必要としないため、地熱発電システムに伴う地震の可能性を回避できる画期的な技術です。Quaise Energyは、既存の1MWジャイロトロンを使用して100日以内にボーリング孔を完成させることを目指しており、この技術を通じて迅速で効率的な掘削が実現すると自信を覗かせています。

Quaise Energyは独自の掘削技術の開発に意欲的な目標を掲げ、2024年までに現場実証を実施し、2026年に蒸気の抽出実験を行い、2028年までに商業化する計画を立てており、最終的に均等化発電原価(LCOE)を1メガワット時当たり20~40米ドルに抑えることを目指しています。これが実現すれば、現在最も競争力の高い風力発電や太陽光発電の価格と互角に競争できるようになり、地熱発電は「採算の取れる環境に優しいエネルギー」に成長するでしょう。従来の技術では不可能だった地下深部を掘削し、高温の地熱資源を活用するQuaise Energyの手法が普及すれば、いずれは世界中の国々が地殻の活動に関わらず地熱発電を利用できるようになるかもしれません。

化石燃料技術の未来

地熱発電のもうひとつのメリットは、化石燃料産業のインフラや地下探査の経験を活かせることです。例えば、Quaise Energyは、老朽化で廃止された石炭火力発電所が持つ設備容量や送電網へのアクセスを活用し、地熱発電所としてリニューアルする計画を立てています。廃止された炭化水素田も、上手に活用すれば地熱エネルギーを生成できます。インド法人のCairn Oil & Gas(ケアン・オイル&ガス)は、Baker Hughes(ベイカーヒューズ)とラジャスタン州の廃坑を地熱エネルギー生産に転換する契約を締結しています[19]

天然の蓄電施設としての可能性

ある調査によると、EGS技術はリチウムイオン電池よりも太陽光発電や風力発電の余剰エネルギーを効率的に貯蔵できる可能性があります[20]。例えば、プリンストン大学と先進的な地熱開発企業であるFervo Energy(ファーボ・エナジー)社との共同研究では、地下深部の地熱貯留層で余剰電力を熱水や蒸気の状態で貯蔵できることが実証されました。蓄えられた熱エネルギーは、再生可能エネルギー源が不足した時に発電に利用できます。地熱貯留層のエネルギー貯蔵容量は、地熱発電所の建設時に追加コストをかけずに手に入れられるという利点があります。次世代の地熱発電所がこの技術的ブレイクスルーを活用し、これまでのベースロード電源としての運用モデルから脱却して風力/太陽光エネルギーの蓄電と供給を担うことができるようになれば、3つの再生可能エネルギーを一気に底上げできるでしょう。

Geothermal vs other nerGy tyoes

[1]   タンボラ山で発生した噴火は、そこから約1,500km離れたクラカタウ山の噴火の10倍の威力があったにも関わらず、あまり広く知られていない。その一因には、当時まだ伝達手段が発達しておらず、船で知らせが届いたためニュースが限定的にしか広まらなかったことが挙げられる。クラカタウ山の噴火が発生した1883年は電信が発明された後だったため、瞬く間にニュースが広まった。

[2]   https://experts.illinois.edu/en/publications/itamborai-ithe-eruption-that-changed-the-worldi#:~:text=When%20Indonesia’s%20Mount%20Tambora%20erupted,for%20more%20than%20three%20years

[3]   https://pubs.usgs.gov/fs/2000/fs036-00/

[4]   https://www.energy.gov/articles/doe-launches-new-energy-earthshot-slash-cost-geothermal-power

[5] https://www.irena.org/Publications/2023/Feb/Global-geothermal-market-and-technology-assessment

[6] https://www.irena.org/Publications/2023/Feb/Global-geothermal-market-and-technology-assessment, 32ページ

[7] https://www.irena.org/Publications/2023/Feb/Global-geothermal-market-and-technology-assessment, 14ページ

[8] https://www.irena.org/Publications/2023/Feb/Global-geothermal-market-and-technology-assessment, 16ページ

[9] https://oxfordbusinessgroup.com/articles-interviews/how-tech-can-unlock-geothermal-energy-in-emerging-markets/

[10] https://oxfordbusinessgroup.com/articles-interviews/how-tech-can-unlock-geothermal-energy-in-emerging-markets/

[11] https://oxfordbusinessgroup.com/articles-interviews/how-tech-can-unlock-geothermal-energy-in-emerging-markets/

[12] https://oxfordbusinessgroup.com/articles-interviews/how-tech-can-unlock-geothermal-energy-in-emerging-markets/

[13] https://oxfordbusinessgroup.com/articles-interviews/how-tech-can-unlock-geothermal-energy-in-emerging-markets/

[14] https://oxfordbusinessgroup.com/articles-interviews/how-tech-can-unlock-geothermal-energy-in-emerging-markets/

[15] https://www.irena.org/Publications/2023/Feb/Global-geothermal-market-and-technology-assessment

[16] https://www.rff.org/publications/explainers/geothermal-energy-101/

[17] https://education.nationalgeographic.org/resource/plate-tectonics-ring-fire/

[18] https://www.energymonitor.ai/tech/geothermal-can-provide-half-the-worlds-energy-quaise-energy-ceo/

[19] https://oxfordbusinessgroup.com/articles-interviews/how-tech-can-unlock-geothermal-energy-in-emerging-markets/

[20] https://www.weforum.org/agenda/2022/11/geothermal-renewable-energy-storage/