再生可能エネルギー産業にとって、まさに「未来は今」です。

何十年にもわたる議論と開発、誤ったスタート、そして誇張にまみれた約束が繰り返されながらも、再生可能エネルギーは、ここにきて遂に化石燃料に追いつき、急増するエネルギー需要に応える主なエネルギー源として君臨しつつあります。

国際エネルギー機関(IEA)は、再生可能エネルギー分野の現状に関する年次報告書の中で、再生可能エネルギーが遅くとも2025年までに石炭を抜いて世界最大のエネルギー源になることを示唆しています[1]

現在では、世界の電気容量の3分の1以上が低炭素エネルギー源に由来しており、再生可能エネルギーが全体の26%、原子力発電が10%を占めています[2]。風力と太陽光を合わせた発電量は年間2,000GWに到達し、水力発電もさらに1,400GWを供給しています[3]

再生可能エネルギーの勢いはとどまるところを知りません。「石炭」「天然ガス」「石油」を燃料とする火力発電は今後減少していき、2027年には世界のエネルギー市場全体の38%を原子力以外の再生可能エネルギーが占めると予測されています。この傾向を主導しているのは、2027年までに発電量が倍増すると見られている風力・太陽光発電所で、世界のエネルギー需要の5分の1以上を賄うようになると言われています。

再生可能エネルギーが現在勢いを増している背景には何があるのでしょう?そうした疑問を抱くのは 当然のことです。

昨年11月にエジプトで国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催され、各国首脳が集まった時点では、再生可能エネルギーの先行きは依然として不透明なままでした。

国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27) 写真提供:© REUTERS/Mohamed Abd El Ghany

さらに交渉者が長期的なグリーン投資よりも短期的なエネルギー救済策を優先し、(批評家の目から見て)世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えることを事実上放棄したことから、環境保護運動家の怒りを買ってしまったのです[4]。また、各国政府も根本的な原因を無視して、新興国を対象に気候変動に起因する「損失と損害」を補償する基金にばかり焦点を当てたと批判されました。特に、石炭火力発電に関する「段階的廃止」の文言が「段階的削減」に差し替えられたことは、大きな非難を集めました[5]

主に変わったことは、低価格なロシアの天然ガスから遮断された長く寒い冬を経験したことです。電気代が大幅に上昇し、誰もがピーク時の停電の恐怖に怯えながら過ごしました。

昨年2月にウクライナ侵攻を開始した際、ロシアのプーチン大統領はグリーンエネルギーを推進することなど頭になかったでしょう。しかし、IEAが指摘するように、化石燃料の供給が遮断されたことで「再生可能エネルギーを国内で発電することのエネルギー安全保障上のメリットが浮き彫りになり、多くの国々が再生可能エネルギー支援策を強化することにつながった」のです[6]

このように、エネルギー安全保障や気候変動の長期的な影響に対する懸念が高まっていることで、今後はヨーロッパのみならず全世界でエネルギーの様相が大きく変わっていくでしょう。

再生可能エネルギーへの世界的な移行

中国では、国家能源局(NEA)が2022年の最初の11か月で65.7GWの太陽光発電設備容量と22.5GWの風力発電設備容量を達成し、世界最大の再生可能エネルギー開発国としての地位を確固たるものにしました[7]。合計88GW以上の設備容量の増加自体も感嘆に値するものですが、現在提案されている計画がすべて実現した場合、2023年の設備容量はその約2倍の160GWに上る可能性もあります。

中国大同市にあるパンダの形をした太陽光発電所(上空写真)

2023年末には太陽光発電容量が490GW、風力発電容量が430GWに達し、国内のエネルギーミックスの約3分の1をクリーンエネルギーが占めることになります。

現在、中国の主な電力源は石炭火力発電ですが、その代替となるクリーンエネルギーが急速に普及しつつあります。2015年当初、中国で供給可能な再生可能エネルギー量は100TWh(テラワット時)未満でしたが、2022年半ばには 約250TWhまで増加しました[8]。2022年に再生可能エネルギーの発電量は10%の伸びを見せ、石炭火力発電の5倍という驚異的な成長率を記録しました。

インドでは、2022年の最初の10か月で再生可能エネルギーの発電容量が14.21GW増加し、2021年の同時期の記録である11.9GWを上回りました[9]。また、2022年1月から9月にかけて151.94BU(billion units)もの再生可能エネルギー電力が発電されており、2021年の128.95BUから大幅な上昇を見せています。インドは、2030年までに再生可能エネルギーの設備容量を500GWにすることを目指しています。

同様に、米国も2022年の最初の8か月間で風力発電容量を7.5GW、太陽光発電容量を5.7GW追加しています。風力発電と太陽光発電は、米国の新エネルギー導入量の約70%を占め、全米の電力供給量に占める再生可能エネルギーの割合は過去最高の23%を記録しました[10]。企業の再生可能エネルギーの調達量は2022年に11GW超を達成し、再生可能エネルギーへの民間投資も1,000億米ドルの閾値を超えました。

大西洋を挟んだヨーロッパでは、2022年に太陽光発電容量が約50%増加し、EU全体で約1,240万世帯の消費電力量に相当する41.4GWの太陽光発電設備容量が新たに追加されました[11]。しかし、この成長はほんの手始めに過ぎません。IEAでは、ヨーロッパ諸国がロシアの天然ガスの供給減少に対応するには、今年中にさらに60GWの太陽光発電設備容量を追加する必要があるとの試算を示しています。現在は、2022年のドイツの8GWを筆頭に、EU諸国10か国が毎年1GW以上の太陽光発電容量を追加しています。

また、EUは2022年に、2021年から約33%増にあたる15GWの風力発電設備容量を導入しました。その90%以上は陸上風力で、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、スペイン、フランスがそのペースを握っています。

最新の風力発電所では1mWあたりの発電量が従来よりも増加しており、効率化が新たなキーワードとなっています。欧州の陸上風力発電所の平均稼働率(ピーク時)は35%超で、設備容量1GWあたり年間3TWhの電力を供給しています。洋上風力発電の設備利用率は50%に達し、設備容量1GWあたり年間4.4TWhの電力を生産しています[12]

従来の原子力(核分裂)発電は、その危険性にもかかわらず、現在も低炭素電力技術として世界中に普及しています。日本は2022年に4.2GWの原子力発電容量を導入しました[13]。英国も、フィンランド、フランス、中国に続き、サマセット州のヒンクリーポイントC原子力発電所に2基の第3世代原子炉を建設中です[14]。また、原子力発電は東欧や日本の脱炭素化計画にも含まれています。現在、世界の電力の約10%が従来の原子力発電に由来しています[15]。画期的な核融合エネルギー技術が今後も期待以上の進歩を遂げれば(下記参照)、無限に近いクリーンな原子力発電が実現する日も思うほど遠くないかもしれません。

大規模な水力発電を阻む原因となった2021年の干ばつ(2020年から3%減)は、2022年もヨーロッパに影を落とし、EUにおける今年最初の9か月間の水力発電出力は前年比15%減を記録しました[16]。しかし、このEUの水力発電の衰退は一時的である可能性が高いでしょう。欧州諸国がエネルギー自給率の向上を目指し、天然ガスからの脱却を進めているからです。

EU圏外では、ブラジル、米国、中国が2022年に前年の水力発電出力を上回り、水力発電の回復を遂げました。世界全体で見ると、2022年の水力発電量は2021年に比べて300TWh増加しており、2023年には 前年比400TWhに達するものと見られています。

2022年における再生可能エネルギーの世界的な普及は一過性のものではなく、今後もこの勢いは続くでしょう。

近い将来に環境に優しいエネルギーが家庭や企業における主な電力源となるよう、世界中の議員や立法者が力を合わせて法整備に取り組んでいます。

再生可能エネルギー分野における今後5年の展望

これから2027年までに、再生可能エネルギーは全世界で約2,500GWの成長が見込まれています。これは過去5年に比べて85%の成長率です。言い換えると、今後5年で過去20年分の再生可能エネルギーが世界中に供給されるということです[17]

世界の電力需要の90%を再生可能エネルギーで賄うことができるよう、世界中で野心的な法案が次々に可決されています。具体的には、ヨーロッパの「REPowerEU」政策、中国の第14次5か年計画、米国のインフレ抑制法、日本のグリーン成長戦略(グリーントランスフォーメーション/GX)、そしてインドの生産連動型優遇策(PLI)です。

  • ヨーロッパ:「REPowerEU」計画は、2030年までにエネルギーミックス全体に占める再生可能エネルギーの割合を現在の40%から45%に引き上げることを目標に掲げています。それを先導しているのがドイツとスペインです。スペインでは、再生可能プロジェクトに合わせて送電網の容量を増強し、太陽光発電所や風力発電所の認可手続きを簡素化しています。一方、ドイツも入札量を増加し、太陽光発電(PV)システムの収益性の向上に取り組んでいます。いずれの政策も、2030年までにヨーロッパ大陸全体で温室効果ガス排出量の55%削減を目指すEUの「Fit for 55」キャンペーンに沿ったものです。
  • 中国:中国の第14次5か年計画では、現在から2027年までの間に、世界の再生可能エネルギー発電容量の約半分を中国が占める野心的な目標を掲げ、市場改革と地方政府による包括的な支援を通じて、再生可能エネルギー産業の経済性の向上を図っています。現在は、産業規模の再生可能エネルギーの価格が石炭を燃料とするエネルギーより低くなっていることから、2030年までに1,200GWの風力・太陽光発電設備容量を達成するという中国の目標は、当初より5年ほど前倒しで達成されるのではないかと見る向きもあります。さらに、中国は今後5年で9,000万米ドル相当を太陽光発電所の建設に投じると宣言しています。この額は、世界の他の国々を合わせた投資予定額の3倍に上ります。
  • 米国:2022年8月に可決された米国インフレ抑制法(USIRA)により、税額控除制度が2032年まで延長されたことで、再生可能エネルギーの資金の安全性が確保されました。2027年までに、太陽光・風力発電の年間導入量は10年前の2倍になると予想されています。この再生可能エネルギーへの移行に向けた取り組みは、コスモポリタンの沿岸地域だけにとどまらず、現時点で37州が再生可能エネルギーの拡大を支援するポートフォリオ基準や目標を掲げています。USIRAを通じてよりクリーンな燃料を優先することで、バイオ燃料と再生可能ディーゼルの生産量を20%増加させ、廃棄物や残留物の実用的な応用研究を活性化させるきっかけになることが期待されています。

他にも、今年2月に承認された日本のグリーン成長戦略(グリーントランスフォーメーション/GX)は、同国の脱炭素化に向けた新たなルートマップを示しています。この新戦略には原子力発電、再生可能エネルギーの割合の向上、炭素価格のメカニズムの見直しなどの項目が含まれています。

インドの生産連動型優遇策(PLI)は、効率性の高い太陽光発電(PV)モジュールや先進化学電池(ACC)の製造を奨励することで、再生可能エネルギーへの投資促進を図るものです。

化石燃料に依存する社会は、人類にとって快適な住環境とは程遠いものです。発電所や送電網、ガソリンスタンドに至るまで再生可能エネルギーに完全に移行するには、最新の次世代テクノロジーの活用が不可欠です。ここで、再生可能エネルギー産業において最も有望とされる最近のブレイクスルーと、今後の見通しについて見てみましょう。

再生可能エネルギーの普及を支えるテクノロジー

最先端テクノロジーへの投資は「高い」と感じるものです。しかし、長期的に見ると、より高度な再生可能エネルギー技術は2050年までに世界経済に12兆米ドル規模のコスト削減をもたらすと言われています[18]。世界経済フォーラム(WEF)は、2023年に各国政府が既存の技術を拡大するだけでなく、最先端技術の開発を重視する必要があると唱えています。

科学者が現在開発しているグリーン水素(クリーンエネルギーで水を電気分解して作る水素)は、エネルギー効率が急速に改善されており、風力や太陽光が不足している地域の電力供給に役立っています。2022年3月、オーストラリアの研究者は、エネルギー効率95%を誇る特許取得済みの毛細管式電解槽セルを発表しました[19]。現在の技術に比べ、エネルギー効率が約25%向上しています。この最新技術により、グリーン水素のコストは2025年までに1kgあたり2オーストラリアドルまで低下すると言われています。

2022年9月、EUもグリーン水素プロジェクトに52億ユーロの補助金を交付しました。また、USIRAにより、さらに数十億米ドルの補助金がグリーン水素市場に投入されることが予測されています[20]。こうした動きは満を持してというところでしょう。水素の需要は、2050年までに年間1億5,000万トン〜5億トンに上るとする試算もあります[21]

さらに大きな可能性を秘めたニュースとしては、2022年12月に研究者が世界で初めて核融合の点火に成功したことが挙げられるでしょう[22]。カリフォルニア州にある国立点火施設(NIF)の研究チームは、2.05MJのレーザー光で燃料を加熱し、3.15MJのエネルギーを取り出すことに成功しました。実際にはやかんのお湯を沸かす程度のエネルギーですが、この実験の成功により、何十年も仮説の域を出なかった技術が実証されたことになります。WEFは、NIFの成果を受けて「今後の核融合研究に拍車をかけ、安全なクリーンエネルギーをほぼ無限に供給できる未来に近づくだろう」との声明を発表しました[23]

Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)もJameel Investment Management Company(ジャミール・インベストメント・マネジメント・カンパニー/JIMCO)を通じて、急速に発展している核融合エネルギー分野を牽引する世界的パイオニアに投資しています。MIT Plasma Science and Fusion Center(MITプラズマ科学および核融合センター)のスピンオフとしてボストンに設立され、ジェフ・ベゾス氏やビル・ゲイツ氏も出資[24]しているCommonwealth Fusion Systems(コモンウェルス・フュージョン・システムズ/CFS)と、同じくベゾス氏が出資しているカナダのGeneral Fusion(ジェネラル・フュージョン)の2社です。

General Fusionは現在、数十年にわたり英国の核融合研究の中心地として発展してきたロンドン近郊のカルハムに実証プラントを建設しており、2025年に操業を予定しています。同社は、2030年代の初頭までに核融合炉第1号機の商業化を目指しています。ボストンに本拠を置くCFSは、トカマク技術を基盤にした別の核融合形式を採用しています。CFSのCEO兼共同創業者ボブ・マムガード氏は、2028年までに核融合炉の実用化を目指していると語ります。

どの技術を採用するにしても、エネルギー生産をエネルギー貯蔵と切り離して考えることはできません。2022年は、蓄電池技術の大幅な進展が見られた年でした。まず、2022年の夏、ピーク時用の大量蓄電が可能な新タイプの「重力蓄電」をエンジニアが開発していることが明らかになりました[25]。このシステムは昔の振り子時計と同じ原理を利用したもので、日中に生成した再生可能エネルギーで重い錘を高く吊り上げ、夜間に錘を降下させてケーブルの動きで発電を行います。PoC(概念実証)では、750世帯分の電力に相当する約250kWの電力が生成され、鉱物を大量に消費するリチウム電池よりも低価格で環境に優しい蓄電が可能なことが検証されました。

一方、同年12月、オーストラリアのシドニー大学の研究者らが海水の塩から生成したナトリウム硫黄(NAS)電池の開発に成功したことを発表しました。このプロセスでは、熱分解(高温で加熱して物質を分解すること)と炭素系電極を使用して硫黄の反応性を高めることで、リチウム電池の4倍以上の効率性を発揮する蓄電媒体を実現しています[26]

蓄電は、世界中のエネルギー政策の重要な要素となりました。ドイツ、スペイン、ポルトガルなどの国々では、2022年に再生可能エネルギーと蓄電池を組み合わせたプロジェクトの入札が行われ、中国やインドもこれに続くものと見られています。一方、メキシコでは、Abdul Latif Jameel Energy(アブドゥル・ラティフ・ジャミール・エナジー)の再生可能エネルギー事業部門であるFRVが、革新的な「サービスとしてのエネルギー貯蔵(EnSaaS)」モデルを基盤に「ビハインド・ザ・メーター」と呼ばれる産業用のエネルギー貯蔵プロジェクトの開発と展開を進めています。

また、FRVとそのイノベーション事業部門のFRV-Xは、英国のドーセット州ホールズベイ、ウェスト・サセックス州コンテゴ、エセックス州クレイタイで先駆的なバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)プロジェクトを実施しており、オーストラリアのクイーンズランド州ダルビーでは太陽光発電所とBESSを組み合わせたハイブリッドプラントを建設しています。FRVは、2022年秋に英国でBESSプロジェクト2件を追加受注し、ギリシャでもBESSプロジェクトの過半数株式を獲得しました。

今後も最新テクノロジーの発展により、再生可能エネルギーへの投資意欲が高まっていくでしょう。

建物や自動車の窓ガラスに貼り付けて太陽光発電ができる新タイプの透明フィルムも開発されています。シリコンバレーに本拠を置くUbiquitous Energy(ユビキタスエナジー)などの企業がその例です。この技術では、可視光を透過しながら赤外線や紫外線のエネルギーを利用して発電を行い、冷暖房を稼働したり、バッテリーを充電できます[27]

まだ未開拓の無料クリーンエネルギー源である「海」に注目しているハイテク企業もあります。

オーストラリアのWave Swell Energy(ウェーブ・スウェル・エナジー)は、キング島沖で1年にわたる人工通風の検証を完了しました。このシステムは、中央チェンバーに海水を引き込み、空気を圧縮してタービンを回転させる仕組みになっています。スウェーデンのEco Wave Power(エコ・ウェーブ・パワー)は、水面に浮かぶ革新的な波力発電装置の開発に取り組んでいます。この装置は、上昇する波の波力を利用して流体圧力を増加させ、内部の水力発電モーターを回転させる仕組みになっています。この発電装置はすでにイスラエルとジブラルタルの沖に設置されており、年内にはロサンゼルス沖での設置も予定されています。また、スコットランドのAWS Energy(AWSエナジー)も、波力エネルギーに着目し、「Archimedes Waveswing(アルキメデス・ウェーブスイング)」と呼ばれる海底ブイのような巨大な装置を開発しています。Archimedes Waveswingは、通過する波の力を利用して発電や配電を行うものです。

しかし、このように技術革新が進み、法律の支援があるにも関わらず、再生可能エネルギーが急増する世界の電力需要を満たせていないのはなぜでしょう?

エネルギー危機の時代に求められる俯瞰的な思考

再生可能エネルギー事業がこれまでになく盛んになる一方で、IEAは、今後5年にわたり60%の成長率を維持できるかどうかが、2050年のネットゼロ目標の達成を左右すると予測しています[28]

それには複数の課題を克服する必要がありますが、どれも乗り越えられないものではありません。

まず、中国を中心に、石炭への依存が依然として高いことが挙げられます。都市圏で光化学スモッグの問題を抱えているにも関わらず、中国では石炭火力発電による二酸化炭素排出量が、2022年に史上最高となる45億トンを記録しました。これはヨーロッパのエネルギー産業全体における前年の二酸化炭素排出量を上回るものです[29]。少なくとも2027年まで、石炭は世界の総発電量の30%を占めると予測されています[30]

石炭の使用を減らすためには、代替エネルギーを奨励する方策を検討する必要があります。

IEAでは、政治家が認可や入札に関する規制を緩和し、再生可能エネルギー事業計画を促進する必要があるとの見解を示しています。その際、発電容量の拡大に合わせてエネルギー貯蔵システムや配電インフラも拡大していく包括的な思考が不可欠です。

新興国は、国内投資を刺激する政策や規制の枠組みを確立し、より調和の取れた国際規格への移行を図る必要があります。提案プロジェクトに対して迅速に資金を調達するための包括的な資金調達手段も用意しなければなりません。

初期費用が高く、法的な支援策が不足していることが、水力発電、バイオマス発電、地熱発電などの「負荷配分可能な(需要に応じて制御・調整が可能な)」再生可能技術の発展を阻む原因となっています。水力発電の成長は今後5年で17〜33GW程度に留まると予測されており、単年度の最高記録である2013年の45GWから減少を続けています。バイオエネルギーの世界的な成長率を主に支えているのは、中国、トルコ、そしてブラジルです。他の国には見られない廃棄物のエネルギー利用戦略や固定価格買取制度(FIT)を実践していることがその理由です。地熱発電が抱える課題は、地熱探査の難しさです。地熱探査は財務的なリスクが高い上に(そして結果、経済的に見合わないことが多く)、そのリスクを補う政策が不足していることもあり、今後5年の成長率は6%未満に留まると予測されています。

再生可能エネルギー市場は、いまだに経済の動向や地政学的な動向に左右される傾向があります。2022年、米国ではコスト上昇、国際貿易摩擦、インフレ、サプライチェーン問題などが重なり、再生可能エネルギー市場の成長が鈍化しました。中国でも新型コロナウイルス感染症の流行に伴うロックダウンにより、風力タービンや太陽光発電システムの部品の納品が遅れる事態が相次ぎました。

こうした供給問題から、ヨーロッパではクリーンエネルギーへの移行に向けて、自国の製造拠点への投資を強化する必要性に迫られています。IEAの予測によると、欧州が2030年までに電力需要の69%を再生可能エネルギーで賄うという目標を達成するためには、風力発電の設備容量の年間純成長率を2倍、太陽光発電の年間純成長率を30%以上伸ばす必要があります。入札方法に関しても、再生可能エネルギーのコスト増加とエネルギー安全保障のメリットの両方を反映させて刷新する必要があります。

上記の課題の多くは2023年も続くと予測されており、再生可能エネルギーへの加速が必要な時に、逆に減速するのではとの懸念が広がっています。

こうした逆風に対し、独自の立場から対抗できるのが民間部門です。

人類にパワーを:一世一代の戦い

気候変動との戦いとは、再生可能エネルギーに向けた戦いに他なりません。この時代を決定づける時間との戦いにおいて、民間資本はとりわけ強力な武器になります。

民間資本は本質的に寛容資本です。利益を重視する投資家の思惑や、選挙に左右される政治家の影響を受けません。数か月から数年ではなく、今後数十年にわたり長期的な利益をもたらす見込みのある戦略に資金を投じることができます。

Abdul Latif Jameelも、この大事な使命の一翼を担っています。FRVは現在、5大陸で50基を超える太陽光発電所と風力発電所を運営しており、発電量は2024年までに4GWに達する見込みです[31]。また、2023年2月、80mWを超えるプロジェクトを運営し、さらに200mWを建設中、1GWを開発中の英国にオフィスを開設しました。さらに、2022年に監視ツール「MODO Energy」が作成したランキングにおいて、コンテゴとホールズベイの蓄電池プラントが英国のトップに選出されています。FRVはまた、ドイツ市場にも参入する意向を示し、80万世帯にクリーンエネルギーを供給する計画を明らかにしました。ロンドンとドイツにオフィスを開設したことで「2025年までにヨーロッパで1GWの設備容量を達成する」という同社の目標がさらに推進されるものと期待されています。

上記に加え、FRVは最近、ニュージーランド初の太陽光発電所を開発する計画も明らかにしました。クライストチャーチ北部にあるローリストンでの52mWのプロジェクトは、2024年にフル操業が予定されており、9,800世帯に電力を供給する予定です。

隣国のオーストラリアでは、ニューサウスウェールズ州ワラワラで進行中の太陽光発電プロジェクトがファイナンス・クローズを迎えました。この発電所は同州で5番目、オーストラリア全体では10番目の発電所となり、FRVの総発電容量が1GWに達しました。

さらに再生可能エネルギーの発電だけでなく、Greaves Electric Mobility(グリーブス・エレクトリック・モビリティ)Joby Aviation(ジョビー航空)Rivian(リヴィアン)など、電動モビリティ分野を牽引するスタートアップ企業への投資を通じて、再生可能エネルギーを利用する交通機関のビジネスケースも推進しています。FRVを通じて、スペインのマドリッドにおける水素タクシーや、アリカンテの水素バスなど、公共交通機関の脱炭素化を図る試験的プログラムも実施中です。

私たちは今、世界の繁栄の鍵を握る「グリーンエコノミー」の実現に向けて、未来のエネルギーを開拓する途上にあります。WEFの見解が正しければ、ネットゼロ目標の達成に向けたエネルギー移行に不可欠な産業は、21世紀半ばまでに10兆米ドル以上の価値をもたらす可能性があります[32]

Abdul Latif Jameel
社長代理兼副会長
ファディ・ジャミール

「雇用を増やし、大気中の汚染物質を減らすために、皆で力を合わせなくてはなりません」とAbdul Latif Jameelの社長代理兼副会長を務めるファディ・ジャミールは語ります。

「現在、世界中でエネルギー貧困に陥る人の数が1世代ぶりに増加し、社会に不平等と争いの影を落としています。

グリーンエネルギーへの移行は、誰もが真摯に取り組むべきミッションだと思います。

再生可能エネルギーは、住宅、オフィス、車両などにかかる電気代の削減に役立ちます。再生可能エネルギーを上手に活用することで、未来の世代のために地球の繊細な生態系を守りつつ、誰もが人生のコントロールを取り戻せるようになるのです」

 

[1] https://www.iea.org/reports/renewables-2022

[2] https://www.weforum.org/agenda/2022/08/electricity-capacity-power-renewable-energy/

[3] https://iea.blob.core.windows.net/assets/ada7af90-e280-46c4-a577-df2e4fb44254/Renewables2022.pdf

[4] https://www.theguardian.com/environment/2022/nov/20/deal-on-loss-and-damage-fund-at-cop27-marks-climbdown-by-rich-countries

[5] https://www.theguardian.com/environment/2022/nov/17/draft-cop27-agreement-fails-to-call-for-phase-down-of-all-fossil-fuels

[6] https://www.iea.org/reports/renewables-2022

[7] https://www.pv-magazine.com/2023/01/03/china-aims-to-add-160-gw-of-wind-solar-in-2023

[8] https://www.reuters.com/business/energy/china-track-hit-new-clean-dirty-power-records-2022-maguire-2022-11-23/

[9] https://pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=1885147

[10] https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/us/Documents/energy-resources/us-eri-renewable-energy-outlook-2023.pdf

[11] https://www.euronews.com/green/2022/12/20/eu-solar-power-soars-by-almost-50-in-2022-which-country-installed-the-most

[12] https://windeurope.org/newsroom/press-releases/eu-wind-installations-up-by-a-third-despite-challenging-year-for-supply-chain

[13] https://www.spglobal.com/commodityinsights/en/ci/research-analysis/six-anticipated-trends-in-2022-for-global-power-and-renewable.html

[14] https://namrc.co.uk/intelligence/uk-new-build

[15] https://ourworldindata.org/nuclear-energy

[16] https://iea.blob.core.windows.net/assets/ada7af90-e280-46c4-a577-df2e4fb44254/Renewables2022.pdf

[17] https://www.iea.org/news/renewable-power-s-growth-is-being-turbocharged-as-countries-seek-to-strengthen-energy-security

[18] https://www.weforum.org/agenda/2023/01/5-technology-trends-to-watch-in-2023/

[19] https://www.theguardian.com/australia-news/2022/mar/16/australian-researchers-claim-giant-leap-in-technology-to-produce-affordable-renewable-hydrogen

[20] https://www.euronews.com/green/2022/12/29/green-hydrogen-fuel-of-the-future-has-big-potential-but-a-worrying-blind-spot-scientists-w

[21] https://www.pwc.com/gx/en/industries/energy-utilities-resources/future-energy/green-hydrogen-cost.html

[22] https://www.theguardian.com/environment/2022/dec/13/what-is-nuclear-fusion-what-have-scientists-achieved-ignition

[23] https://www.weforum.org/agenda/2023/01/5-technology-trends-to-watch-in-2023/

[24] https://www.economist.com/the-economist-explains/2022/02/09/what-is-nuclear-fusion

[25] https://www.weforum.org/agenda/2022/07/gravity-batteries-store-renewable-energy/

[26] https://www.sciencedaily.com/releases/2022/12/221207101037.htm

[27] https://www.cnet.com/science/green-tech-to-watch-in-2023/

[28] https://iea.blob.core.windows.net/assets/ada7af90-e280-46c4-a577-df2e4fb44254/Renewables2022.pdf

[29] https://www.reuters.com/business/energy/china-track-hit-new-clean-dirty-power-records-2022-maguire-2022-11-23/

[30] https://iea.blob.core.windows.net/assets/ada7af90-e280-46c4-a577-df2e4fb44254/Renewables2022.pdf

[31] https://frv.com/en/

[32] https://www.weforum.org/agenda/2023/01/global-energy-outlook-for-2023/