Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)の再生可能エネルギー事業を担うAbdul Latif Jameel Energy(アブドゥル・ラティフ・ジャミール・エナジー)の事業部門であるFotowatio Renewable Ventures(FRV)が今、優れたイノベーションと著しい事業成長により存在感を高めています。

FRVの太陽光発電およびエネルギー貯蔵技術の専門家は、5大陸にわたり50基を超える再生可能エネルギー発電所の開発を手掛けました。オーストラリア、ヨーロッパ、中東、インド、アフリカ、米国、中南米にわたる太陽光発電市場で、2.5GW以上のプロジェクトポートフォリオを有しています。そのひとつがチリでの太陽光・風力発電ハイブリッドプロジェクトです。このプロジェクトは、年間を通じて約25万世帯にクリーンエネルギーを供給できる可能性を秘めています。

また、オーストラリアのクイーンズランド州ダルビーでも別のハイブリッド発電所の開発が進んでおり、2.4MWの太陽光発電所と、2.5MW/5MWhの蓄電池を併設したハイブリッド発電所となる予定です。これは、FRVのオーストラリア国内初のハイブリッド発電所であり、クイーンズランド州でのバッテリーエネルギー貯蔵システムプロジェクトの先駆けでもあります。

FRV’s Battery Energy Storage System (BESS) at Contego, West Sussex, UK.
FRVが手掛けた英国ウェスト・サセックス州コンテゴのバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)

現在ダルビーで開発されているような実用規模のエネルギー貯蔵電池は、FRVと、その専門イノベーション機関であるFRV-Xが最先端で活躍しているエネルギー供給市場で急成長中の分野です。2021年9月、FRV-XはHarmony Energy(ハーモニー・エナジー)と共同で英国エセックス州のクレイタイに第3の産業用エネルギー貯蔵電池施設を建設するプロジェクトに着手しました。現在は、99MW/198MWh規模を誇る英国最大のバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)を建設中です。

英国ウェスト・サセックス州における34MW規模のコンテゴプロジェクトには、28個のリチウムイオン電池を使用したTesla(テスラ)の大型蓄電システム、Tesla Megapackが採用されました。このコンテゴでの成功を受け、クレイタイでは更に規模が拡張されます。

一方で、英国ドーセット州ホールズベイにある蓄電プラント(発電能力 7.5MW)は、英国の国家送電網のエネルギーを貯蔵し、需要ピーク時の供給に対応することで、送電網の安定化と英国の脱炭素化計画の推進を図ります。

FRVは現在、メキシコで、市場を牽引する高度な蓄電池技術を駆使した画期的な最新プロジェクトを実施しています。エネルギーソフトウェア会社Energy Toolbase(エネルギー・ツールベース)とメキシコのデベロッパーEcopulse(エコパルス)との事業提携により、最先端の「Energy Storage-as-a-Service」(サービスベースのエネルギー貯蔵/EnSaaS)モデルに基づいたエネルギー貯蔵プロジェクトの開発と実装を計画しています。

The Iztapalapa Industrial Center, BESS system in Mexico City
メキシコシティ、イスタパラパの産業センター(BESSシステム)

新しいBESSシステムは、メキシコシティ中心部のイスタパラパに建設される予定です。

公称電力 480kWで最大2時間分の貯蔵電力を放出して、イスタパラパの産業クライアントの生産能力を低下させることなく使用電力量を抑制し、電気料金を節約します。この方法であれば、設備投資や運用コストをかけることなく、効率的に電気を節約することができます。

FRVは、すでにメキシコで約1GWの太陽光発電プロジェクトを手掛けており、メキシコ大手第2位の再生可能エネルギー開発会社として存在感を示しています。今回のエネルギー貯蔵プロジェクトは、メキシコ最大のプロジェクトであり、国内外にEnSaaSモデルを普及させる足がかりとなるものです。

Alejandro Limón Managing Director FRV Mexico and Central America
アレハンドロ・リモン
FRV メキシコ&中央アメリカ地域担当
マネージング・ディレクター

今回のインタビューでは、FRV-Xのマネージング・ディレクターを務めるフェリペ・エルナンデスと、FRVのメキシコ&中央アメリカ地域担当マネージング・ディレクター、アレハンドロ・リモンにメキシコのエネルギー市場についてインタビューを敢行しました。

FRVとFRV-Xはメキシコに進出してどれくらいになりますか?

リモン:FRVがメキシコにオフィスを設けたのはメキシコ政府が外国資本や民間資本の参入を許可し始めた2012年頃で、

それ以来、同国で太陽光発電の開発事業を拡大してきました。

メキシコは、太陽光発電の設備容量が約700MWで、世界第2位を誇ります。そのため、我々にとって大きな可能性を秘めているのです。

エルナンデス:FRV-Xは2020年に正式にメキシコで開業し、2021年に最初のプロジェクトに着手しました。今回の最新のEnSaaSプロジェクトをきっかけにメキシコ全域や海外でも、同様のモデルを展開できればと思っています。

イスタパラパのような工業地帯に、このような専用ソリューションが必要な理由は何ですか?

リモン:このソリューションが役に立つのは、イスタパラパだけに限りません。メキシコ全域で応用が可能です。ただ、工業地帯を重視しているのは、電力消費量が非常に大きいからです。

産業消費者は、ピーク時の電力に莫大なコストを払っています。平均すると、日中のわずか数時間で電気料金の40%が発生しているのです。当社が提供するのは、工場の敷地内にリチウムイオン電池を設置する「Behind-the-meter(BTM)」ソリューションと呼ばれるものです。このソリューションでは、需要の低いオフピーク時に電力を貯蔵し、電気料金が高額になるピーク時に放出します。こうすることで、クライアントがコストを削減できるだけでなく、ピーク時の電力網への負荷を軽減し、電力供給の安定化を図ることができます。

企業にとってのこのモデルの魅力は何ですか?

Felipe Hernández Managing Director, FRV-X
フェリペ・エルナンデス
FRV-Xマネージング・ディレクター

エルナンデス:エネルギー産業は非常に複雑です。このソリューションから大きな恩恵を受けることができる産業クライアントや商業クライアントは、このような設備を運用するだけの専門知識や適切な人材が揃っていないケースがほとんどです。

EnSaaSソリューションの場合は、当社が投資や専門技術の確保から、運用・委託までシステム稼働に必要な実装や運用業務をすべて請け負うため、クライアントは本来の業務に集中できます。

ですから、クライアントにとってデメリットがないのです。当社がすべて請け負いますから。クライアントの電気料金を削減し、その節約分を分けあう形になるため、クライアントは経営の方に集中できます。

最悪のケースは思ったほど電気料金を節約できなかった場合ですが、その場合でもクライアントには何もコストがかかりません。当社のソリューションは、時間や資金を投入して独自のバッテリー貯蔵ソリューションを実装せずにすむという点で他社と一線を画しています。

このソリューションは、企業規模を問わず利用できますか?

エルナンデス:ほとんどの企業はこのモデルから受けるメリットが大きいと思います。ほとんどの生産会社と同様に、電力消費量が約100kW以上あれば大きな節約を期待できるでしょう。

リモン:そうですね、だいたいどの生産会社であってもメリットがあると思います。電力消費量が高いほど、節約も大きくなります。夜間などのオフピーク時にのみ電力を消費している場合はそれほど魅力がないかもしれませんが、ほとんどの企業は日中も操業しています。

このソリューションのメリットは、コスト削減だけにとどまりません。エネルギー効率を改善し、生産を最適化できるというメリットもあります。メキシコの一部の都市の中には、電気料金があまりに高いために生産コストが見合わなくなってしまい、日中のピーク時に生産の一時停止を余儀なくされる会社があります。また、ヨーロッパでも、日中の電気料金が法外なため、夜間に操業している工場があります。

当社のEnSaaSソリューションがあれば、こうした問題を解消でき、より効率的で一貫性のある生産活動が終日可能になります。

Energy ToolbaseやEcopulseといったパートナー企業との提携が重要なのはなぜですか?

エルナンデス:この2社は、それぞれ性質が異なります。Energy Toolbaseはエネルギー部門に特化したソフトウェア開発会社です。当社のソリューションを効果的に管理するには、機械学習とAIを基盤にしたスマートソフトウェアシステムが必要です。そこで、Energy Toolbaseと提携し、そのスマートエネルギー管理システムでバッテリーのパフォーマンスを管理することで、最大限の節約を実現しています。

Ecopulseは、地元のEPC(設計・調達・建設)パートナーです。プロジェクトの設置と実装を担当し、FRVとクライアントとの間をつないでいます。いずれも、今回のプロジェクトに欠かせない重要な役割を果たすパートナーです。

メキシコシティで初のプロジェクトを始動されましたが、今後はメキシコ全域や他の国々にも同様のサービスを展開される予定ですか?

リモン:はい。2022年は大胆な事業計画を実施する予定で、すでに見込み客との強力なパイプラインもあります。最初のプロジェクトで経験を積んだ今、メキシコ全域にEnSaaSモデルを展開する準備が整ったと思います。今年は、約20MWのバッテリー貯蔵プロジェクトを計画しています。当面はメキシコのみですが、いずれは中南米全域に事業を拡大していくつもりです。

一般的に、世界的に持続可能な電力供給体制を確立する上で、バッテリー貯蔵技術はどの程度の重要性を持つのですか?

リモン:当社は、今後10年をエネルギー貯蔵の時代と捉えています。エネルギー移行を果たす上で欠かせない重要な役割を果たす分野です。過去10年(2010年〜2019年)は太陽光発電の時代でした。2022年の今、バッテリー貯蔵技術は、ちょうど太陽光発電の10年前と同じ節目に来ていると思います。例えば、Bloomberg Energy(ブルームバーグ・エナジー)は、バッテリー技術への投資が今後10年で3,000億米ドルを超える可能性に言及しています。

エルナンデス:また、このバッテリーソリューションは、小規模な太陽光発電システムに統合して、送電網の電力と太陽光発電の電力を組み合わせることも可能です。現在、メキシコのシステムは送電網に接続していますが、必ずしもそうでなければならない訳ではありません。太陽光発電システムと併用すれば一層の節約になりますし、当然のことながら二酸化炭素排出量を削減できるので、より魅力的なシステムになると思います。

エネルギー貯蔵技術以外にも、FRV-Xが現在検討している最新エネルギー技術はありますか?

Toyota Mirai hydrogen fuel cell taxi, Madrid, Spain
燃料電池自動車(FCEV)のトヨタ MIRAIを採用したスペイン、マドリッドの水素タクシー

エルナンデス:スペインやオーストラリアで水素技術に積極的に取り組み、グリーン水素を導入した持続可能なモビリティ/産業ソリューションの開発を進めています。

まず、マドリッドのProfessional Taxi Federation of Madrid(プロフェッショナルタクシー連盟)と手を組み、2026年までに従来型のタクシー車両1,000台以上を、グリーン水素を搭載した車両に順次移行していく予定です。

Abdul Latif Jameelと長年提携しているトヨタ自動車は、環境に優しく、最大600kmの航続距離を誇る記録的な燃料電池車「トヨタ MIRAI」を供給します。同様に、スペインのアリカンテ州では、Vectalia(ベクタリア)との提携を通じて、初の大規模なグリーン水素バス交通システムを構築しています。

更に、バッテリーや水素などの高度なエネルギー技術の多くに欠かせないさまざまなデジタルソリューションの開発に力を注いでいます。電力管理を効率化して、電力取引や共有を行うための共通プラットフォームとなるスマートソーラー・ソリューションなどがその一例です。このようなデジタルシステムを構築する上で、当社の経験と専門知識や人材が大きく役に立つと確信しています。すでに胸が高鳴るようなプロジェクトもいくつか進行中です。

最後に、メキシコでの今後数年におけるFRVとFRV-Xの計画について教えてください。

リモン:メキシコでは長期にわたって事業を展開しながら、市場での存在感を高めていきたいと考えています。当社はすでにメキシコ大手第2位の太陽光発電会社に成長しており、これから更に事業の裾野を広げていくつもりです。我々はこの国の底力を信じています。FRVも、FRV-Xも、メキシコでの見通しは明るいと思います。