何十年にもわたる投資を経ても水の格差が解消されない理由
過去20年間で、安全な水と衛生設備へのアクセスは大きく改善しました。それでもなお、特にいわゆる脆弱国家、農村地域、低所得地域では、信頼できる飲料水、安全に管理された衛生設備、基本的な衛生サービスを利用できないまま暮らしている人々が何十億人もいます。こうした格差が解消されない背景には、水関連システムの計画、資金調達、ガバナンスのあり方に、より根深い構造的課題があることがうかがえます。

Almar Water Solutions
最高経営責任者
ALMAR Water SolutionsのCEOであるカルロス・コシンは、水の格差は、インフラ、資金調達、ガバナンスにまたがる、より広範な構造的脆弱性によって生じていると指摘しています。多くの投資では、水循環システム、水資源の強靭性、流域の長期的な持続可能性を十分に統合しないまま、サービス提供が優先されています。気候変動による圧力が強まり、水需要が増え続ける中で、カルロスは、水の格差に対処するには、水分野への投資に対して、より統合的かつ体系的なアプローチが必要になると考えています。
Jameel Environmental Services(ジャミール環境サービス部門)の傘下にあるALMAR Water Solutions(アルマー・ウォーター・ソリューションズ)は、この変化する環境の最前線に立っています。ALMARは、世界の水の安全保障、特に世界で最も脆弱なコミュニティにおける水の安全保障を向上させるというミッションのもと、2016年に設立されました。この10年間で、海水淡水化、廃水処理、再利用とリサイクルプログラムのポートフォリオを拡大させてきました。欧州、中東、ラテンアメリカ、アフリカ、アジア太平洋地域でプロジェクトを展開しているALMARは、海水淡水化と浄水から廃水処理、再利用、供給ネットワーク、長期的な運用と保守管理まで、水の全サイクルにわたってシステムの設計、融資の構造化、運用を行っています。
本Q&Aでは、カルロスが世界的な水の格差の原因を振り返るとともに、インフラ、資金調達、ガバナンス、資源管理の連携を改善し、格差を埋めるために必要な変化について語ります。
Q.なぜ水の格差は今もグローバルな課題として根深く残っているのですか?
2025年の世界水週間で発表された最新のWHO・UNICEF報告書『家庭用飲み水と衛生状況の進展2000~2024年』は、厳しい現実を浮き彫りにしています。現在も約21億人が安全に管理された飲み水を利用できず、44億人が家庭ごみの安全な廃棄や処理を含む、安全に管理された衛生サービスを受けられない状況にあります。さらに17億人が、自宅で石鹸と水を使用して手を洗える設備など、基本的な衛生サービスにアクセスできない環境下で暮らしています[1]。
この数字からは、構造的、地理的、そして財政的な不平等に組み込まれた現実の欠乏状態が見てとれます。水の格差が生じる根底には、分断されたシステム、持続可能性を欠いた計画、慢性的な資金不足といった問題があり、水道やトイレがないという状況をはるかに超える根深い問題が潜んでいます。
Q.この格差に拍車をかけている主な構造的要因は何ですか?
こうした格差がいつまでも解消されない背景には、互いに関連し合っている2つの主な理由があります。
- まず1つ目は、地理空間的な格差が根深く残っていることです。農村地域、脆弱な国家、低所得層が住む地域の水へのアクセスは、より安定した地域や都市部と比べて非常に低くなっています。脆弱な状況に置かれた地域では、たとえば、安全に管理された飲み水の普及率が、より安定した環境に比べて約38%低くなっています。これは、ガバナンス能力が最も弱い地域における構造的な投資不足を示しています。
- 2つ目は、相対的には少しずつ改善していても、絶対的な未解決課題が見えにくくなっていることです。世界全体で見ると、安全に管理された飲み水の普及率は2015年の68%から2024年には74%に改善しています。これは、数億人が新たに安全な水にアクセスできるようになったことを意味します。しかし、20億人以上の人々が未だに安全な飲み水に十分アクセスできない状況にあります[2]。人口増加と、運用、保守、回復力への投資不足は、サービスの拡大を上回る勢いで進んでいます。このことは、インフラの提供と長期的な運用面での回復力との間に、より大きな不均衡があることを示しています。
Q.投資が不十分なことが問題の主な原因ですか?
はい、そのとおりです。財政面は、特に必要な投資規模を考えると、この問題の重要なポイントの1つです。世界銀行の推定によると、途上国全体では水分野に年間約1646億米ドルが費やされています。同時に、各国が持続可能な開発目標(SDG)の目標を達成するには、水の供給や衛生設備に対する年間支出をさらに1314億米ドル~1408億米ドル増やす必要があります[3]。
財政面は、特に必要な投資規模を考えると、この問題の重要なポイントの1つです。
もう少し幅広い視点で見ると、OECDはSDG 6を達成するには世界全体で年間1兆米ドルを超える投資が必要になる可能性があると推定しています[4]。その他の研究でも、2030年までに安全に管理された水と衛生設備への普遍的なアクセスを実現するには年間約1140億米ドルが必要になる可能性があると指摘しており[5]、現在の投資水準と将来的なニーズとの間に大きな資金ギャップがあることが浮き彫りになっています。このギャップを埋めるには、回復力のあるシステム、統合された計画、長期的な運用面での持続可能性に重点を置いた、継続的な投資が必要です。
Q.現在の水投資モデルはどのような点で不十分なのでしょうか?
この分野における中心的な不整合の1つは、水サービスの提供と水資源の管理の間にあります。
多くの国では、水や衛生設備のインフラが、それを支える生態系や水文システムとは切り離されて計画されています。つまり、水処理プラント、パイプライン、衛生施設などの物理的な資産への投資が優先される一方で、多くの場合、水文計画の枠組みには十分に組み込まれていないのです。水供給システムが帯水層の涵養動態を理解しないままその上に構築されることもあり、衛生設備からの排水が下流の生態系や資源の長期的な質に影響を及ぼす可能性もあります。
世界の水格差に関する数字
- 21億人が、安全に管理された飲み水を利用できていない
- 44億人が、安全に管理された衛生設備を利用できていない
- 脆弱な国家では、安全な飲み水へのアクセス率が38%低い
- 2030年までに安全な飲み水と衛生設備を提供するには年間1140億米ドルが必要
このように取り組みが断片化されていると、気候変動によるストレスの下でさらに深刻な問題となります。水源や供給量が時間とともに変化する中で、運用が機能しなくなる可能性があるためです。SDG 6の枠組みでは、効率的な水の利用、下水処理、生態系の保護、国境を越えた協力などを含む、統合された水資源管理がすでに推奨されています。しかし実際には、多くの設備投資プログラムが縦割り化されたままです。流域の健全性、涵養域、気候変動に対する回復力などを考慮しないまま、主にサービスを届けることを優先してしまうのです。
Q.水の投資に対するより統合的なアプローチとはどのようなものですか?
まず最初に優先すべきことは、水、衛生設備、衛生面への投資を、統合された水資源管理と整合させることです。投資計画では、サービス提供と資源管理の両方を考慮する必要があります。たとえば、水処理場は流域の保護や帯水層への涵養戦略と調整しながら進める必要があります。また、サービス契約には季節的な変動や気候変動によるばらつきを織り込む必要があるでしょう。
次に優先すべきことは、コストモデルを改良して、資源の回復力や自然資本への依存を組み込むことです。従来の財務評価では、生態学的な閾値、生態系にかかるストレス、長期的な気候変動の不確実性を見落としがちです。見直した枠組みには、ライフサイクルコスト、生態学的な持続可能性、気候変動を考慮したリスク評価などを組み込む必要があります。
従来の財務評価では、生態学的な閾値、生態系にかかるストレス、長期的な気候変動の不確実性を見落としがちです
また、収益を生み出す資産と天然資源の回復力との間の隔たりを埋めるブレンデッドファイナンスの仕組みも必要です。民間資本は一般的に収益を生み出すシステムに集中する傾向がありますが、公共資本や慈善資本は、流域の回復、涵養機能の向上、生態系の保護などの支援により適している場合があります。これによって、慈善投資から商業投資まで、幅広い資本スペクトラムが形成されます。
Q.ガバナンス改革が水格差の解決策の重要な要素となるのはなぜですか?
水に関する制度の断片化は、多くの場合、投資モデルの断片化を反映しています。多くのシステムでは、水道事業者と水資源機関が別々の権限のもとで運営されており、お互いの調整も限られたものとなっています。
この問題を解決するには、省庁を横断する計画の強化、予算の共有、共同で監視を行う枠組みの整備など、統合されたガバナンス構造が必要です。こうした枠組みにより、サービスの指標を、帯水層の枯渇、水質、排水処理のパフォーマンスといった資源の指標と結びつけることができます。制度の整合性がとれていなければ、投資判断によって長期的な回復力が強化されるどころか、既存の非効率性が助長される恐れがあります。
Q.脆弱な地域や農村地域に対しては、なぜ異なる投資アプローチが必要なのですか?
脆弱な地域や農村地域では、特に資金面でのギャップが深刻です。サービス提供コストはより高く、インフラシステムも地理的に分散しています。このような地域では、焦点を絞った設備投資に加え、長期間にわたってサービスを提供し続けられるような運用面の補助金が必要です。
また資金調達モデルには、流域の回復や帯水層への涵養の促進といった資源保護策に特化した支援も含めるべきでしょう。このような保護策がなければ、インフラシステムは長期的な環境の劣化や資源供給の不安定化に対して脆弱なままです。
Q.世界中の誰もが水にアクセスできるようにするには、どのようなより広範な変化が必要ですか?
課題は技術面、財政面、制度面にあります。断片化したシステム、持続可能性を欠いた計画、慢性的な資本不足が水の格差に表れています。
断片化したシステム、持続可能性を欠いた計画、慢性的な資本不足が水の格差に表れています
解決するには、持続可能な資源の流れ、包括的な資金戦略、足並みのそろったガバナンスに支えられた回復力のある水文学的基盤にインフラが依存していることを認識する必要があります。そのため、投資モデルでは、サービス提供と長期にわたる資源の回復力を結び付ける必要があります。
そのためには、縦割り化された考え方を終わりにし、水、衛生設備、衛生環境への投資の方向性を統合された水資源管理と合わせながら、格差が最も根深く残っている地域へと資本を振り向けていかなければなりません。
世界的な水政策の議論が進展する中で、工学的ソリューションを水文学、資金調達の仕組み、ガバナンス改革と結び付けて考えることが、これまで以上に求められています。このレベルで統合が行われて初めて、水の公平性は、普遍的で持続可能なアクセスの実現に近づき、現在も十分なサービスを受けられていない何十億人もの人々と、未来の世代を支えることができます。
インフラ整備と回復力を併せて考える
世界的に水の格差が長引いている状況は、水システムの資金調達、ガバナンス、管理のあり方に根深く残る構造的な課題を映し出しています。水のインフラ整備の拡大は不可欠です。長期的な進展は、信頼できるサービス提供を可能にする水文学的、制度的、財政的なシステムを強化できるかどうかにもかかっています。より連携の取れた制度、気候変動を考慮した資金調達モデル、ブレンデッドファイナンスによる投資構造はすべて、より回復力があり公平な水システムの構築において重要な役割を果たします。
カルロスが上で述べているように、気候変動の圧力が高まり、人口も増加し続ける中で、統合的なアプローチの必要性はますます高まっています。水へのアクセスの格差を解消できるかどうかは、長期にわたって信頼性が高く公平なサービスを持続できるシステムを構築できるかどうかにかかっています。そして、そのシステムを下支えするのが、インフラ、回復力のある資源管理、協調的なガバナンスです。
水の格差:5つのクイックファクト
- 今もなお水の格差の影響を受けている人はどれくらいいますか?
世界では約21億人が安全に管理された飲み水にアクセスできていません。また、約44億人が安全に管理された衛生設備を利用できず、17億人が基本的な衛生サービスを受けられないまま暮らしています。 - 世界的に安全な水へのアクセスはここ数年で改善されていますか?
はい。ただし、改善スピードは十分ではありません。安全に管理された水の普及率は2015年の68%から2024年には74%まで向上しました。しかし、今もなお数十億人が十分なサービスを受けられていません。 - 途上国では水に対して毎年どれくらいの金額を支出していますか?
水分野に対する年間支出額は、途上国全体で1646億米ドルと推定されています。 - なぜ農村地域や脆弱な地域では安全な水を確保するのが難しいのでしょうか?
インフラコストが高く、システムがより分散しており、長期的な運用には継続的な補助金や資源保護対策が必要になることが多いためです。 - 現在の水投資モデルにおける最大の弱点の1つは何ですか?
多くのプロジェクトが、流域の保護、帯水層への涵養、長期的な気候変動に対する回復力を十分に統合しないまま、パイプラインや水処理場に焦点を当てている点です。
[1] https://www.who.int/publications/m/item/progress-on-household-drinking-water–sanitation-and-hygiene-2000-2024–special-focus-on-inequalities
[2] https://www.who.int/publications/m/item/progress-on-household-drinking-water–sanitation-and-hygiene-2000-2024–special-focus-on-inequalities
[3] https://www.worldbank.org/en/topic/water/publication/funding-a-water-secure-future
[4] https://www.oecd.org/en/publications/financing-a-water-secure-future_a2ecb261-en.html
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