2020年は、多くの企業にとって厳しい年となりました。売り上げ、収益、そして従業員と顧客にかつてないほどのプレッシャーがかかりました。幸運にもパンデミックによる最悪の影響を逃れた分野でも、グローバル市場の激しい浮き沈みに苦しめられることになりました。

このような経済の不確実性の中で、業界が生き残るだけでなく発展するということは、まさに特別なことです。それはより強い免疫力の証であり、その勢いは製品のDNAに組み込まれていると言っても過言ではありません。

そのためか、電気自動車(EV)はこの厳しい状況下でもブームを巻き起こし、不況を跳ね返しています。

国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、2020年は世界のEV販売台数が300万台以上に増加し、市場シェアは4%を超えるという、電動モビリティにとって記録的な年となりました。[1]それはつまり、世界全体での販売台数が2019年の210万台から40%増加したことになり、今や世界中で1,000万台を超えるEVが走っているということになります。

コロナ禍では、人々がウイルスの感染を恐れ公共交通機関を避けたことから、自動車の売り上げは全体的に急増したと考えられているかもしれません。しかし実際には同時期、自動車全体の販売台数は5分の1に減少しました。[2]

EVはまさに経済のアウトライヤーであり、消費者が一丸となって、メーカーや政府に対し、よりクリーンで環境に優しい未来を望んでいることを訴えかけている証でもあります。

現在の市場シェア4%という数字は十分に驚異的ですが、これは長期的な傾向のほんの始まりに過ぎません。大手コンサルティング会社のDeloitte(デロイト)は、今後10年間のEV販売台数の複合年間成長率を29%と予測しており、2025年には1,120万台、2030年には3,110万台と売り上げを伸ばし、新車販売台数の3分の1をEVが占めるようになるとの見方を示しています。[3]

Electric Vehicles Sales

その傾向は明らかで、揺るぎのないものです。では、どのようにしてEVは自動車業界の成功例となったのでしょうか。

EVの普及を後押しするものは何か

コロナ禍でのEVの売り上げ増加を正確に予測した数少ない機関の1つであるIEAは、ここ数年でEVがこれほどまでに過度な成長を遂げた理由をいくつか挙げています。[4]

  • 世界の多くの主要市場における、国家レベルでの強力な政策支援
  • 最も重要かつ高価な部品であるバッテリーの製造コストの低下
  • すべてのOEM(新規参入を含む)における、モデルの選択肢の増加と性能の向上
  • 運送業者による環境に優しい技術への移行
  • EVがもたらす環境面のメリットに対する消費者の関心の高まり

この中でも、政府の政策支援や対象を絞った奨励提案(一般的に購入優遇措置)は、当然のことながら、製品そのものよりも消費者の購買意欲を強く促すものとして、大きく影響力を持つことを実証しました。

方策は国によって異なりますが、一般的に、環境に悪影響を与える内燃機関(ICE)モデルの代わりに、EVを奨励するという方策がとられています。

主要な市場を見てみると、欧州連合(EU)では、2020年から2021年にかけて、走行1kmあたりのCO2排出量の上限を95gとする厳しい排ガス規制を設定しました。

フランスでは、低公害車の購入に6,000ユーロの補助金を支給するとともに、ICE車から低公害車への買い替えには補助金として2,500ユーロを支給する制度を設けています。また、2022年末までに、一般市民が利用できる充電ステーションを10万か所設置することを目指しています。

イタリアと英国でも購入補助金制度(それぞれ、最大6,000ユーロと最大3,500ポンド)が導入されました。

ドイツでは、将来的にすべてのガソリンスタンドに電気充電設備を設置することが義務付けられています。

中国と米国という2大市場が国を挙げての支援策に取り組めば、政策効果はさらに目覚ましいものになるでしょう。中国は実際のところ、2019年に、消費者が利用できる補助金を減らしていますが、他の優遇措置は残っています。政府は充電インフラに多額の投資を行っており、中国のメーカーによるEVの生産・販売への取り組みに引き続き力を入れています。米国では、カリフォルニア州をはじめとするいくつかの州が、大々的にEV推進の取り組みを行っています。「サンシャイン・ステート(太陽の州)」と呼ばれるカリフォルニア州は、長い間グリーンモビリティの世界的なトレンドセッターとして知られてきました。2020年9月には、2035年までに州内で販売されるすべての乗用車の新車をゼロエミッション化することを義務付ける行政命令を発行し、ガソリン、ディーゼル、さらにはハイブリッド電気自動車を含む内燃機関を動力源とする新車の販売を事実上禁止しました。ただし、ゼロエミッションではない中古車の使用・販売は引き続き可能です。この新しい行政命令は、2045年までにゼロエミッションではないトラックの販売を禁止するという、2019年に発表された同様の規制を補完するものとなります。

連邦レベルでは、バイデン大統領が温室効果ガスの排出削減に取り組み、電気自動車の販売を促進することを宣言しました。また、政府が保有する約65万台の車両を電気自動車に切り替え、55万基の電気自動車用充電ステーションを設置することで、クリーンなエネルギーの未来を築くことを約束しました。

新しいEV政策の多くは、2008年から2009年にかけての金融危機後に実施されたような、より一般的な「新型コロナウイルス(COVID-19)からの回復」プログラムに包括されています。しかし、IEAによれば、その2つには決定的な違いがあります。[5]まず、電気自動車やハイブリッド車の普及に向けた取り組みが強化されています。第二に、極めて重要なこととしていくつかの国では、充電インフラについて検討したり、公共交通機関やモーターを使わない移動の選択肢を支援したりするなど、モビリティに対するより統合的なアプローチの一部として、EVを捉えています。これは、欧州グリーンディール[6]など、コロナ禍以前に掲げられたクリーンエネルギーへの移行に関するコミットメントの広義に沿ったものです。また、今世紀半ばまでに排出量の正味ゼロ化を掲げる、他のコミットメントを支持するものと捉えられています。

これらの革新的な政策は歓迎すべきことですが、電気自動車の販売ブームには、これ以外にも功労者がいます。人気の高まりの大きな理由は簡単で、電気自動車がより優れた技術であることを消費者が認識しつつあるということが挙げられます。騒音や公害もなく、加速も良く、ランニングコストもこれまで以上に競争力のあるものになっています[7]。現在の課題は、価格が少し高いことですが、主に技術の進歩により、購入費用はすでに下がりつつあります。

テクノロジーが変えるEVの世界

Rivian Charger
Rivian(リヴィアン)は、米国とカナダの600箇所に3,500台の急速充電器を設置予定

EVは、定期的に充電ステーションに接続する必要があります。そうでなければ、ただの車庫の飾り物になってしまいます。

幸いなことに、EV所有者のための充電オプションは急速に拡大しつつあります。

2019年までに、全世界で充電ステーションが約730万か所設置されました。その内訳は、家庭や職場に設置されている個人用充電器が650万台、残りは公共の場で利用できるプラグアンドゴー方式の充電ステーションです。[8]

この730万という数字は、前年比60%増を表しており、EVの世界的な普及台数を上回る増加ペースとなっています。このことは、1台あたりの充電ステーションが増えたことを意味し、充電のための列に並ぶ暇のないドライバーには朗報です。

EUは、2025年までに100万台の公共充電器を設置することを目標として掲げています。[9]英国では、2021年から2025年の間に18億ポンドを充電インフラに投資する見込み[10]で、ワイヤレス充電と「ポップアップ」式充電技術が新たに資金を獲得しています。カリフォルニア州では、2035年に施行されるゼロエミッション車規制に先立ち、15億米ドルのグリーンビークル市場活性化計画を発表しました。これには、すべての州有施設に充電ステーションを設置するための3億米ドルの予算が含まれています。

Abdul Latif Jameel(アブドゥル・ラティフ・ジャミール)のパースペクティブ記事で詳しく説明されているように、バッテリー自体の改良も急ピッチで進んでおり、バッテリー容量の限界のためEVは短距離の移動でしか使えないという消費者の懸念を解消しています。2030年には、平均的なバッテリーの容量は70〜80kWhとなり、標準的な走行距離は350〜400kmとなるでしょう。それは実質的に、途中の1回の充電だけで英国を縦断できることを意味します。[11]

いわゆる「急速バッテリー交換」技術は、自動化された設備に車を入れると、わずか数分で自動的に充電済みのバッテリーに交換されるというもので、電気自動車に対する信頼性を高めるのに役立っています。Renault(ルノー)は、充電ステーションでの待ち時間を大幅に短縮できる[12]バッテリー交換機能の導入を検討していると報じられています。一方、中国のEVメーカーであるNIOは、今年初めにバッテリー交換回数200万回を達成し、2021年には中国国内のネットワークを倍増させ、バッテリー交換ステーションを500以上に増やす予定とされています。[13]

性能や航続距離の向上に加えて、バッテリーのコストも大幅に低下しています。バッテリーパックの価格は、2010年には1kWhあたり1,100米ドル以上だったのが、2019年には平均156米ドルと、消費者にとって魅力的な価格になっています。

加えて、バッテリーの設計や熱管理システムの今後の開発により、パックとモジュール両方の部品コストをさらに削減できるようになります。2030年以降は、現在のリチウムイオン電池の性能限界を超えるような、さらなる飛躍的開発が期待されています。リチウム固体電池、リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池、リチウム空気電池のどれもが、コスト、エネルギー密度、耐用期間の改善の糸口となる可能性を秘めています。

こういったメーカーの投資に伴い、バッテリーを動力源とする自家用車の長期的な利用可能性に対する消費者の信頼は高まっており、EVが自動車市場で確固たる地位を築くための競争力を備えてきているのは当然のことと言えます。

さらに、消費者にとっては、価格が下がれば選択肢が増えるという嬉しいニュースもあります。最近の各社の発表によると、今後10年間に発売されるEVモデルの数は、これまで考えられていたよりも大幅に増えることが明らかになっています。欧州運輸環境連盟の統計によると、欧州では2021年に22種類、2022年に30種類、2023年には33種類の新型モデルが登場するとされています。[14]このことは、EUで販売されているBEV(バッテリー電気自動車)のモデルが2022年には100種類を超え、2025年には172種類まで増えることを意味しています。米国では、2026年までに43のブランドから130種類のモデルが発売されるとIHS Markitが予測しています[15]

Electric Vehicles Consumer Study

EVの普及に向けた各市場の取り組み

EVの台数は世界中で増えつつありますが、増加の速度はさまざまで、スローペースの市場もあれば、フルスピードの市場もあります。

パンデミックによる自動車販売台数の減少傾向に反して、グリーン復興基金と広範なマーケティングにより、欧州では2020年、前年比137%増となる約140万台のEVが新規登録されました。[16]

実際、欧州は2015年以来初めて中国を追い抜き、EV市場の成長のトップに立っています。欧州のEV比率は、2019年の3.3%から2020年には10.2%に増加し、同時期の中国の5.1%から5.5%の増加率を上回っています。

とはいえ、当然のことながら中国は依然として強大な市場であり、2020年後半の大幅な回復により、EVの販売は年間を通じて12%増加しました。

欧州の多くの市場では、2020年のEV販売台数が2倍、3倍に増加しています。ドイツに至っては、254%という驚異的な伸びを示し、中国に次ぐEV販売国となっています。米国では、Tesla(テスラ)の「Model-Y」の発売にもかかわらず、4%の伸びにとどまりましたが、それでも15%減となった自動車市場全体を牽引する結果になりました。

その他の地域では、アラブ首長国連邦、イスラエル、インド、韓国、台湾、香港で販売台数が急増しましたが、オーストラリア、カナダ、日本ではやや減少しています。

Electric Vehicles EV Sales

2030年には、世界のEV市場の49%を中国、27%を欧州、14%を米国が占めるようになると予測されています。[17]

政府やメーカーの手厚い協力や、これまでになく好意的な消費者の認識を背景に、EVへの移行はどんな困難な状況をも乗り越える準備が整ったといえるでしょう。まさに民間資本が大企業と政府を刺激し、EVへの移行を加速させることで、より環境に優しい復興を実現できるところだと言えます。

EVの可能性の最前線で

Abdul Latif Jameelは、その環境保全と最先端技術への熱意から、来るべきEV革命の一翼を担うことを決定しました。

この大義のため、私たちは、電気自動車が誕生した当初からその良さを伝えてきました。この理念は、長期的なビジョンと環境への配慮で知られる自動車メーカーであるトヨタ自動車との長年にわたるパートナーシップにも体現されています。

Toyota bZ 4X Concept
Toyota bZ 4Xコンセプト

2021年、トヨタは上海モーターショーでコンセプトモデル「Toyota bZ4X」を披露し、新しいBEV(バッテリー電気自動車)シリーズ「Toyota bZ(beyond zero)」の立ち上げを発表しました。

「Toyota bZ4X」は、日本と中国で先行販売され、2022年半ばまでに全世界での販売が始まる予定です。また、トヨタは2025年までにBEV15種類を含む70種類の新型車や改良モデルを市場に投入する計画を発表しています[18]

他のOEMも同じような道をたどっています。General Motors(ゼネラルモーターズ)は、2025年までに30種類の新しいグローバル電気自動車を発売する予定です[19]。Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)は、2021年4月にSクラスサルーンの電気自動車(EQS)を発表し、2年以内にさらに8種類のモデルの発売を計画しています[20]。BMWは、既存のBEV「i3」と「i8」に加えて、2023年までに25種類の電気自動車の発売を目指しています[21]。日産は、「Leaf」と「Ariya」を中心に、2023年までに年間100万台のEVを販売する計画を発表しています[22]。Volkswagen(フォルクスワーゲン)は、2025年にTeslaを抜いて世界最大の電気自動車販売会社になることを目標に掲げ、2030年までに欧州だけで6つのバッテリー工場を建設する計画を立てています。

別の先駆者は、Abdul Latif Jameelが主要な投資家となっている米国のEV新興企業のRIVIANです。RIVIANのトラックおよびSUVのラインナップ(105kWhのリチウムイオン電池を搭載し109マイルの航続距離、もしくは180kWhの電池で400マイルの航続距離を誇る)は、AI技術を用いて、ドライバーの充電習慣を最適化することで、電池の寿命を3倍に延ばす手伝いをします。これはまさに、隆盛を極めるEV市場に新たな刺激を与えるイノベーションです。

Rivian R1S
Rivian R1S

すでに、オンライン小売業の大手Amazon(アマゾン)は、2030年までに再生可能エネルギー車両を100%利用するという公約(Climate Pledge 2040 – 2040年に向けての気候変動対策に関する誓約)を達成するために、Rivianに10万台の電気配送車を発注しています。[23]

Abdul Latif Jameelの投資は、Abdul Latif Jameel Energy(アブドゥル・ラティフ・ジャミール・エネルギー)の傘下にあるFotowatio Renewable Ventures(フォトワティオ・リニューアブル・ベンチャーズ、FRV)を通じて、車両、部品、運送サービス、さらにはクリーンエネルギーの発電、流通、貯蔵に至るまで、EVのバリューチェーン全体に対して行われています。

技術、法律、投資とは別に、EVは依然として個人の心持ち次第という側面がありますが、最近の傾向では、消費者は良心に基づいて買い物をする傾向が高まっているようです。

世界的なコンサルティング会社のDeloitteの最近の調査によると、今後3年間に新車を購入する予定の回答者の半数以上が、購入にあたり電気自動車を検討すると答えています。これはガソリン車やディーゼル車を検討していると答えた35%を大幅に上回る結果となっています。[24]

進む方向は明確なようです。残る未確定要素は、進行のスピードだけです。

 

[1] https://www.iea.org/commentaries/how-global-electric-car-sales-defied-covid-19-in-2020

[2] https://www.theguardian.com/environment/2021/jan/19/global-sales-of-electric-cars-accelerate-fast-in-2020-despite-covid-pandemic

[3] https://www2.deloitte.com/uk/en/insights/focus/future-of-mobility/electric-vehicle-trends-2030.html

[4] https://www.iea.org/commentaries/how-global-electric-car-sales-defied-covid-19-in-2020

[5] How global electric car sales defied Covid-19 in 2020 – Analysis – IEA

[6] EUR-Lex – 52019DC0640 – EN – EUR-Lex (europa.eu)

[7] Electric cars are already cheaper to own and run, says study | Electric, hybrid and low-emission cars | The Guardian

[8] Global EV Outlook 2020, IEA

[9] https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-06-23/electric-car-charging-stations-are-finally-about-to-take-off?sref=JuSsFiEr

[10] Government powers up electric vehicle revolution with £20 million chargepoints boost – GOV.UK (www.gov.uk)

[11] https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2020#batteries-an-essential-technology-to-electrify-road-transport

[12] https://www.ft.com/content/cac5c438-900a-46ee-9564-43aa905db4b6

[13] NIO completes 2,000,000 battery swaps – Green Car Congress

[14] Electric surge: Carmakers’ electric car plans across Europe 2019-2025, European Federation for Transport and Environment

[15] Outside of Tesla, future EV sales in U.S. may be thin for most brands: study”, Reuters

[16] https://www.ev-volumes.com/

[17] Electric vehicle trends | Deloitte Insights

[18] Toyota Beyond Zero. Let’s go beyond zero. | Toyota UK

[19] GM’s Path to an All-Electric Future | General Motors

[20] Mercedes kick-starts Tesla offensive with luxury electric car | Financial Times (ft.com)

[21] BMW electric: Munich’s present and upcoming EVs in detail | CAR Magazine

[22] Electric dreams come true as the world’s first mass-market electric vehicle reaches historic milestone (nissannews.com)

[23] https://www.cnbc.com/2019/09/19/amazon-is-purchasing-100000-rivian-electric-vans.html

[24]https://www2.deloitte.com/uk/en/insights/focus/future-of-mobility/electric-vehicle-trends-2030.html