モータースポーツ界への女性進出が進む中東

商業と同様に、中東は今、モーターレース界でも世界から急速に注目を集めています。

最近開催されたF1グランプリを見ても、バーレーンやアブダビでの華麗なレースを皮切りに、カタールとサウジアラビアで激戦が繰り広げられ、ハラハラするようなクライマックスを迎えました。

中東初のレース開催となった2004年のバーレーングランプリ以降、中東は国際レース界から急速に注目を集めるようになりました。中東のモータースポーツ界は瞬く間に成長を遂げ、2021年には、国際モータースポーツを統括する国際自動車連盟（FIA／Fédération Internationale de l’Automobile）がアラブ首長国連邦（UAE）出身のモハメド・ビン・スライエム氏を会長に任命したのも記憶に新しいところです。

ラリードライバーの経歴を持つスライエム氏は、中東のモータースポーツ熱の火付け役は、サーキットレースよりもむしろラリーであることを肌身に染みて理解しています。

FIA公認の中東ラリー選手権は、1984年から毎年開催されており、UAE、オマーン、クウェート、カタール、イラン、レバノン、ヨルダンで定期戦が行われています。

1991年以降は、FIAクロスカントリーラリー・ワールドカップとFIMクロスカントリーラリー世界選手権の一環として、アブダビ・デザート・チャレンジ（旧UAEデザートチャレンジ）が開催されるようになり、自動車のみならずバイク、トラック、四輪車もエントリーできるようになりました。

アラブ首長国連邦では、ドバイ・モーターシティ（FIA公認の全長5.39kmにわたるドバイオートドロームサーキット）を中心に、F4 UAE選手権、UAEスポーツバイク選手権、TCR中東シリーズなどのレースが存在感を示しており、モータースポーツファンは贅沢な選択を迫られています。

また、中東地域では、サウジアラビア国内限定の「ダカールラリー」と呼ばれる有名なオフロード耐久レース（前身は1978年に創設された代表的なレース「パリ・トゥ・ダカール」）が2020年から開催されており、来年以降はカタールやアラブ首長国連邦までレース区間が拡張される予定です。

また、サウジアラビアのリヤドでは、2018年以降フォーミュラE ディルイーヤE-Prixが開催されています。このレースは10年契約で開催される運びとなっており、中東レース界の未来を大きく推進していくでしょう。

女性ドライバーの躍進

モータースポーツのブームは、優秀なドライバーの才能を開花させ、中でも表彰台を目指す女性ドライバーの活躍が目立つようになりました。

モータースポーツ界における女性の躍進は、今や世界的な潮流となっています。例えば、最近3シーズン目を迎えた女性限定シングルシーター選手権「Wシリーズ」では、世界中から才能あふれるドライバーが集結し、ヨーロッパ、アジア、アメリカにわたる10日間の国際レースに参戦しました。

一方、2022年開催の国際オフロードレースシリーズ「エクストリームE」では、各チームが起用するドライバーは男女ペアと規定されており、スウェーデンのミカエラ・オーリン＝コツリンスキー、スペインのクリスティーナ・グティエレス・エレーロ、アメリカのサラ・プライスなどの優れた女性ドライバーが世界的な注目を集めています。また、今年のインディカーレースでは、AJフォイト・レーシング（ダラーラ・シボレー）所属のコロンビア人選手、タチアナ・カルデロンが、レース史上約10年ぶりに女性ドライバーとしてシーズンの大半の試合に出場する予定です。 

女性が次々にレースで成功を収め、勝利に性別は無関係であることを実力で示している今、インディカーレースで優勝した唯一の女性ドライバー（2008年日本、アンドレッティ・グリーン・レーシング）として次世代の憧れの存在となっている伝説的なアメリカ人オープンホイールレーサー、ダニカ・パトリックに匹敵する未来の女性ドライバーが出現する日もそう遠くはないでしょう。

ラリー・ジャミール：女性のスポーツ参画を推進

サウジアラビア国内における女性ドライバーの躍進の原点は、女性が同国史上初めて運転免許を取得し、道路を走行する権利を確保した2017年に遡ります。女性の能力や才能を引き出すエンパワーメントは、政府の国家開発戦略「ビジョン2030」の重要な一環であり、国内や世界に同国の将来の方向性を示しています。

2022年にAbdul Latif Jameel Motors（アブドゥル・ラティフ・ジャミールモーターズ）主催で開催された国内初の女性限定ラリー「ラリー・ジャミール」は、女性レーシングドライバーに対する見方を新たにするきっかけになりました。

同ラリーは3月にサウジアラビア北西部のハイルで開催され、ハイル皇太子であるアブドゥルアジーズ・ビン・サード・ビン・アブドゥルアジーズ皇太子殿下が公式に開会を宣言しました。

ラリーには世界各国から計34チームが参加し、主にスピードよりナビゲーションスキルを競う試合が繰り広げられました。

ハイルからアル・カシム経由で首都リヤドに至るルートには随所にチェックポイントが隠されており、4大陸15か国から参加した選手たちは3日間にわたるレースに挑みました。

さまざまな地形を巡る1,000km以上のコースの約3分の1は「オフロード」に区分されます。

各ステージの前夜にルートブックが配布され、車両の位置はダッシュボードに搭載されたオドメーター（走行距離計）によりGPS経由で追跡されました。ドライバーはコース上に141のウェイポイントを設定し、タイム、スピード、距離を計測して「平均速度」を競い、ボーナスポイント獲得のチャンスを狙いました。

3日間のラリーの末、スウェーデンのアニー・シール／ミカエラ・オーリン＝コツリンスキー組（写真）のトヨタ RAV4が9点以上の差をつけて1位に。全チーム中、ペナルティを最も抑えて記念すべき優勝を飾りました。

2位はトヨタ・プラドで参戦したアテファ・サレハ（アラブ首長国連邦）／エレノア・コーカー（アメリカ）組、3位は、同じくトヨタ・プラドで参戦したサウジアラビアのマハ・アルハムリー／ポチョラ・エルナンデス組でした。

トヨタ車が表彰台を占めたのは、Abdul Latif Jameel（アブドゥル・ラティフ・ジャミール）がトヨタ自動車と長年にわたり提携していることと無縁ではないでしょう。

優勝したシール選手は、ラリーに参戦した女性ドライバー全員を「ヒーロー」と表現し、次のようにコメントしました。「今回参戦した選手全員とレースできたことを誇りに思います。サウジアラビアのレーサー、レベルラリー（ラリー・ジャミール発足のインスピレーションとなったアメリカのデザートラリー）の女性選手や、初参戦で果敢に挑み、実績を残した選手たちと戦うことができて光栄でした」

このラリーは、FIAの女性モータースポーツ委員会や、サウジアラビア駐米大使のリーマ・ビント・バンダル・アル・サウード王女などの著名な団体や個人からの後援を受けています。

リーマ王女は今回のイベントを「女性が日常生活で情熱を追求することができるように、サウジアラビア全国で実施されている前向きな取り組みに光を当てる」上で「前例のないレース」と位置づけ、後援を確約されました^[1]。

国際オリンピック委員会（IOC／International Olympic Committee）の女性スポーツ委員を務めるリーマ王女は、サウジアラビアにおける女性のスポーツ参画運動を推進する中心的な存在として知られています。

サウジアラビア総合スポーツ庁の女性担当副長官を務めた後、大衆参加連盟の会長に任命されたことで、同国のマルチスポーツ連盟を率いた初の女性となりました。

期待の新人、ダニア・アキール選手とのスポンサーシップ契約

ラリー・ジャミールは、Abdul Latif Jameel社長代理兼副会長ハッサン・ジャミールの発案で発足しました。ハッサン・ジャミールは今回のイベントについて「優れたチームワークが発揮された」と評し、次のように述べています。「ラリー・ジャミールは、国際モータースポーツへの女性参画を推進する重要な役割を果たすと確信しています。今回の成功を足がかりに、更に上を目指して邁進したいと考えています」

Abdul Latif Jameelは、2022年2月に国際レーシングチャンピオンのダニア・アキール選手と複数年にわたるスポンサーシップ契約を締結したことを発表し、今後も女性ドライバーの躍進を継続して応援していく姿勢を明らかにしました。

アキール選手は輝かしい実績の持ち主です。2022年1月、サウジアラビア人女性ドライバーとして初めてダカールラリーでトップ10入りを果たし、国際モータースポーツ界で頭角を表しました。

2021年にバハで開催されたFIAワールドカップ クロスカントリーラリーのT3クラスでは、イギリス、フランス、スペイン、ロシアなどの世界の錚々たる競合を抑えてアラブ人女性として初の優勝を収めています。

また、アキール選手はサウジアラビア人女性として初めてバイクレースライセンスを取得し、UAEナショナル・スポーツバイク・スーパーシリーズ 2019/20シーズンに参戦して年間新人賞のトロフィーを獲得しました。

ハッサン・ジャミールは、今後のシーズンにおけるアキール選手の活躍を祈ると共に、今回の新規スポンサーシップ契約について次のように述べています。「他のサウジアラビアのアスリートも彼女に続き、世界の舞台でサウジアラビアの存在感を示してくれることを期待しています」

アキール選手は、地域社会の幅広い応援があったからこそ、情熱を追求し、才能を開花させることができたと述べ、次のようにコメントしています。

「今ここでの努力が、世界のスターダムへの大事な新たな一歩となります。表彰台でサウジアラビアの国旗を掲げることができるよう、これからも邁進していきたいと思います。また、サウジアラビアで長年にわたりモータースポーツを専門に支援していることで知られるAbdul Latif Jameel Motorsを代表できることを光栄に思います」

性別の壁を超えるパイオニアたち

中東のモータースポーツ界における女性の躍進を後押ししているパイオニアは、アキール選手だけではありません。次世代の女性ドライバーも最高水準の大会で次々に実績を残し、女性ドライバーの水準と知名度を向上しています。

アムナ・アル・クバイシ選手は、アラブ人女性として初めてRMCワールドファイナルに出場を果たしています。また、サウジアラビアのディルイーヤE-Prixに参戦し、栄誉あるフォーミュラEテストプログラムにも参加するなど、今最も飛ぶ鳥を落とす勢いのレーシングドライバーです。

また、サウジアラビア人女性として初めて同国でレーシングライセンスを取得し、女性初のプロフェッショナル・フォーミュラ・クラスのレーシングドライバーとして活躍するリーマ・ジュファリ選手も見逃せません。

パレスチナ出身のマラ・ザハルカ選手とヌール・ダウド選手は、レースチーム「スピードシスターズ」に所属しています。2009年に設立されたスピードシスターズは、中東初の女性限定レーシングチームで、ヨルダン川西岸地区のプロカーレースサーキットで定期戦に参戦しています。

エジプトで頭角を現しているのは、国内初の女性ラリードライバーであり、デザートレースの女性チャンピオンでもあるヤラ・シャラビー選手です。シャラビー選手は中東各地のレースに参戦し、2016年にはエジプト初の女性限定ラリーチーム「ガゼル」を設立しました。また、エルグーナ・ラリーカップ、アル・レマル・デザートチャレンジ・ラリー、アル・ファルキー・デザートチャレンジなど、エジプトの代表的なレースで上位入賞を果たしています。

こうした草分け的な女性レーシングドライバーを見て学ぶ未来のスターたちは、飽くなき野心を抱いて育つことでしょう。

最良のパートナーシップ

Abdul Latif Jameelは、中東ではモータースポーツの代名詞として知られており、モダンでスリリングなモータースポーツの知名度の向上に貢献してきました。

Abdul Latif Jameel Motorsは、1977年からサウジアラビアのラリースポーツを支援しており、今年で25周年を迎えます。ハリド・ビン・スルタン・アル＝アブドゥラ・アル＝ファイサル殿下の後援のもと、サウジアラビア自動車・オートバイ連盟（SAMF／Saudi Arabian Automobile and Motorcycle Federation）とAbdul Latif Jameel Motorsの提携により、2022年5月にジェッダで記念イベントが開催され、モータースポーツ界の錚々たるパイオニアが招かれました。

Abdul Latif Jameelはハイル・ラリーを早くから支援しており、2019年以降はSAMFが主催するすべての国内トーナメント（ドリフト選手権、オートクロス、ドラッグ選手権、ヒルクライム、タイムアタックなど）の主要パートナーとして活躍しています。

しかし、この取り組みはまだ始まったばかりです。ダニア・アキール選手をはじめとする優秀な若手選手やパイオニアを育成し、伝統的に男性優位だったレース界での躍進を支援することは、Abdul Latif Jameelが掲げるインクルーシビティ（包括性）の文化の一環であり、中東モータースポーツ界のインクルーシビティの促進を目指す取り組みは今後も続きます。Abdul Latif Jameelのような民間組織は、サウジアラビアや中東地域の世界的な存在感を高めるサクセスストーリーに貢献する役割を負っています。

ハッサン・ジャミールは次のように語ります。

「Abdul Latif Jameelは創業以来、経済・商業の発展から、スポーツ支援や女性の地位向上などの社会貢献活動に至るまで、幅広い分野で積極的にパートナーシップを結び、後進に道を示してきました。ロールモデルであるダニア・アキール選手との新規スポンサーシップ契約は、パートナーシップを通じてサウジアラビアのアスリートやスポーツ界を代表する選手を支援する同社の伝統を引き継ぐものです」

[1] ^{https://www.arabnews.com/node/2030456/amp}